「西洋主導」から「非西洋の時代」への移行は、いくつかの重要な地政学的、経済的、文化的変化によって特徴づけられる。以下は、この移行に寄与しているいくつかの重要な要因である。

 

経済力のシフト

中国とインドの台頭: 中国は世界第2位の経済大国となり、世界的な製造大国となった。インド経済も急速な成長を遂げており、若い人口を抱え、テクノロジーやサービス分野での影響力を増している。世界的に認められているインドの技術力には、1)ITエンジニアの数は世界2位、2)世界に認められている根拠としてはGoogle、IBM、Microsoft、Adobeといった名だたるアメリカ企業のCEOはインド系の人が占めている。3)教育体制として,  世界からインドの人材を求められるようになったのは、国の教育体制に理由がある。インドでは2005年から小学校3年生からプログラミング授業が必修となっている。小学生でアルゴリズムやフローチャート、中学生でHTMLを使ったWebコンテンツ、アプリケーション開発の授業がある。インドには数多くのIT大学があり、これらの大学からは毎年数千人ものITエンジニアが卒業している。 また、インド政府もITエンジニアの教育に力を注いでおり、IT分野を中心とした教育制度を充実している。 これらの背景から、多くの優秀なITエンジニアが生まれてきている。  

    

BRICSとその他の新興市場: BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリ カ)は、世界経済のフォーラムで影響力を強めている。アジア、アフリカ、ラテンアメリカのその他の新興市場も経済的な存在感を増している。2011年には、南アフリカ共和国が加わりBRICSとなった。5か国で世界人口の約4割強、世界の国土の約3割、世界の国内総生産(GDP)の4分の1を占める。2023年には、エチオピア、エジプト、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の新規加盟で合意、BRICS5か国を中心にグローバルサウスとよばれるこれら新興諸国を加えた外交グループ「BRICS+(プラス)」を誕生させた。脱米ドル・自国通貨の利用拡大、共通通貨の導入などを目ざしている。なお、タイ、マレ―シアが相次いでBRICS加盟申請を行っている。

 

地政学的変化

多極化する世界秩序: 冷戦後、米国が支配してきた一極的な世界は、中国、ロシア、欧州連合(EU)など、影響力を持つ複数の大国による多極的な秩序へと移行しつつある。

       

米国の優位性の低下: 世界情勢における米国の優位性が相対的に低下しており、その一因は政治内部の分裂と外交政策上の課題である。

 

技術の進歩

イノベーションの拠点 非西洋諸国、特にアジア諸国は技術革新の世界的な中心地となりつつある。中国は5G、人工知能、グリーン・テクノロジーなどの分野でリードしている。

 

デジタル経済: デジタルエコノミーの台頭により競争の土俵が平準化され、伝統的な欧米圏以外の国々が新技術を迅速に開発・展開できるようになっている。インドがIT大国になった背景には、このようにIT技術を欧米諸国に輸出する土台ができていたということが挙げられる。 前述のように、インド系の人がアメリカを始めとする世界のIT企業のトップに君臨している。 一方、世界に比べて日本はインドIT産業との関係はまだ薄いという事実もある。

 

文化力とソフトパワー

世界的な文化的影響力: 非西洋文化は、メディア、エンターテインメント、大衆文化を通じて世界的な影響力を獲得しつつある。韓国のKポップ、インドのボリウッド、中国の映画などがその例である。

 

教育と研究: 欧米以外の国々で学ぶ留学生の数は増加しており、これらの国々は研究や高等教育に多額の投資を行っている。

 

国際制度とガバナンス

国際機関の改革: 多極化する世界の現実をよりよく反映させるため、国連、世界銀行、国際通貨基金などの国際機関の改革を求める声も上がっている。

       

新しい同盟と組織: 上海協力機構(SCO)や中国が主導する一帯一路構想(BRI)など、新たな国際同盟・組織の形成などがある。

 

資源・環境要因

エネルギー転換: 再生可能エネルギーへの世界的なシフトは、エネルギー地政学の力学を変化させ、西側諸国の伝統的な石油・ガス生産者の中心性を低下させている。

 

気候変動のリーダーシップ: 中国が再生可能エネルギーやグリーン・テクノロジーに多額の投資を行っているように、非西欧諸国が気候変動への対応で主導的な役割を担うようになってきている。

 

人口動態の変化

人口増加: 非西欧諸国では人口増加率が高く、人口構成のバランスが変化している。

 

都市化と中間層の拡大: 非西欧諸国における急速な都市化と中産階級の拡大が、経済と社会の変化を促している。

 

これらの要因は総体的に、影響力、権力、リーダーシップがさまざまな地域に分散し、欧米の優位性が低下し、より多様で多極的な世界秩序が台頭する世界へとつながっていく。