日銀は5月29日、2024年3月期決算を発表し、保有する国債の評価損が3月末時点で9兆4337億円に上ったと明らかにした。23年7月以降の金融緩和策の修正で長期金利が上昇し、国債の市場価格が購入時の価格(簿価)を下回った。評価損は期末として2年連続で、前年の1571億円から大きく拡大し、過去最大となった。今回の決算には足元の金利上昇は反映されておらず、さらに膨張する懸念もある。

日銀は、国債が満期を迎えて元本が償還されるまで保有することを前提としており、評価損によって日銀の運営に直ちに問題は生じない。ただ金利の上昇局面で評価損が急拡大するため、市場では日銀の財務の健全性を懸念する声も上がる。29日は国債市場で長期金利が上昇し、約12年半ぶりの高水準となった。

日銀は、3月にマイナス金利政策を解除した後も長期金利が急上昇する場合に備え、毎月6兆円規模の国債の買い入れを続けている。24年3月末の簿価の国債保有残高は589兆6634億円で、期末として過去最大だった。

日銀は2023年7月と10月に、主要な10年物国債利回りをゼロ%前後に誘導することを目的としたイールドカーブ・コントロール政策の柔軟性を高めるための政策調整を行ったが、2024年3月にはマイナス金利政策を終了した。日銀のこうした動きは国債利回りの上昇圧力、すなわち国債価格の下落圧力を煽った。ベンチマークとなる10年物国債利回りは、2024年3月末には0.7%を超え、1年前の0.3%超から上昇した。日本銀行は国債を満期まで保有することを前提とした会計方法を採用しているため、評価損は財務諸表に反映されない。しかし、このような損失が日銀の財務状況に懸念を抱かせれば、金融市場の混乱を招きかねない。

 

(上記は“共同通信社2024.5.29 記事の引用です。) 

 

日銀が抱えるリスクは、保有国債の評価損ではなく、出口戦略に伴う日銀のALMの劣化であり、これは歴史的な緩和を長期に亘って続けて来た日本の金融政策が抱える潜在的な問題である。このリスクが日銀の金融政策を縛る可能性は否定できない。2024年3月に日銀はマイナス金利を解除した。無担保コール翌日物の段階的引き上げやYCCの抜本的な見直しでは慎重な舵取りが求められている。

*ALMはAsset Liability Managementの略で「資産・負債の総合管理」のこと。 金融機関で用いられる資産と負債のリスク管理手法で、金利変動リスク、信用リスク、流動性リスクなどのリスクをコントロールしながら、将来的な資産と負債バランスの適性化を図り、収益の最大化を目指します。