日本の技術開発にはイノベーションと高品質なものづくりの豊かな歴史がある。しかし、近年、世界市場における日本の競争力に影響を与えるいくつかの弱点が指摘されている。

 

日本には硬直した企業文化があり、例えば日本企業は階層的な組織構造を持つことが多く、意思決定やイノベーションを遅らせる可能性がある。リスク回避志向が強いため、大胆なイノベーションと新技術の導入が妨げられて来た面がある。

 

デジタル技術の導入の遅れとして、グローバルな競争相手と比較して、日本企業はデジタル技術の導入やビジネスプロセスへの統合が遅れている。多くの企業が時代遅れのITインフラに依存しているため、新しいデジタル・ソリューションを効率的に導入することが難しい。

 

日本企業は往々にして国内市場を優先し、国際市場の理解と浸透を犠牲にしていて、グローバルな視点が不足している。

 

英語力の制限や企業内の文化的多様性の欠如はグローバルな事業展開やコラボレーションの妨げとなり、言語と文化の壁がある。

 

日本のベンチャーキャピタルエコシステムは、シリコンバレーや他の世界的なハイテクハブと比べて、ベンチャーキャピタルとスタートアップが発展していないため、新興企業の成長やイノベーションを阻害する可能性がある。

      

学術界と産業界の連携は他国ほど強くなく、最先端研究の商業化を制限している。また、日本の高齢化は労働人口の減少を招き、ハイテク分野における熟練労働者の確保を制限する可能性があり、様々な分野の人材不足を招いている。

       

日本は伝統的に厳しい移民政策をとってきたため、外国人人材の獲得と維持が難しいなど、外国人材の誘致に難がある。

 

官僚主義による複雑な規制プロセスがイノベーションと新技術の導入を遅らせ、規制政策が保守的になり、フィンテックやブロックチェーンなどの破壊的技術の導入が遅れる可能性がある。

*FinTech(フィンテック)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけた様々な革新的な動きを指す。 身近な例では、スマートフォンなどを使った送金もその一つで、米国ではFinTechという言葉は、2000年代前半から使われていた。

*ブロックチェーンとは、暗号技術を使ってブロックと呼ばれる取引記録を時系列に沿ってチェーンのようにつなげ、分散的に処理・記録できるようにした、自律分散型のシステムのこと。

 

多くの技術製品の国内市場は高度に飽和しており、激しい競争と薄利多売にさらされ、長期にわたる経済停滞も、個人消費と新技術への投資が抑制されている。こうした弱点に対処するには、よりダイナミックな企業文化の醸成、デジタルトランスフォーメーションの加速、グローバル・エンゲージメントの強化、イノベーションと人材育成をより支援する環境の整備など、多面的なアプローチが必要である。

 

一方、長内 厚(早稲田大学大学院 教授)氏はPresident on lineで、「シャープが技術的に一番進んでいると言われていた頃、台湾メーカーのCTO、つまりエンジニアのトップの人から、シャープの技術はそれほど特別なものではなく、台湾メーカーも関連特許を持っているのでやろうと思えばシャープと同じことはできる。しかし、できても戦略的にやらないのだ、と言われました。彼はその理由として、新しい技術は不確実性を伴い歩留まりも悪く、そのうえ、新しい技術だけでは数を取ることができない。だから自分たちは、まず日本という実験場が新技術の実験を始め、そこで技術的な課題があぶり出され、技術が安定した後、ビジネスとして大きな規模になると判断できた段階で日本と同じものに大きく投資する、それがもっとも効率が良い方法なのです。新しいことは、日本という研究所に任せておけばよいのです、と話されました。」と述べている。