日本銀行(BOJ)が金融緩和から脱却し、米国との金利差を縮小させるために、金利を引き上げる可能性はあるが、様々な経済要因に影響される複雑な決定となり、簡単ではない。

以下のような幾つかの考慮すべき事項がある。

 

1)インフレ目標: 重要な要素の一つは日銀のインフレ目標である。インフレ率が目標値かそれに近い状況の場合、日銀は景気の過熱を防ぐために金融引き締めを検討する可能性がある。

 

2) 経済成長: もう一つの要因は日本経済の状況である。日本経済が持続的な成長と力強さの兆しを見せている場合、日銀は金利を徐々に引き上げることに自信を持つかもしれない。

 

4)為替レート: 日米間の金利差は為替相場に影響を与える。この金利差が縮小すれば、ドルや他の通貨に対する円の価値に影響を与え、輸出入、ひいては経済成長に影響を与える可能性がある。

 

 5)世界経済の状況: 日本銀行は米国の連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)など、他の主要中央銀行の金融政策を含む世界経済の状況も考慮する。主要国と金利政策を調和させることは、世界の金融市場の安定を維持することにつながる。

 

 6)債務処理への影響: 日本には高水準の公的債務があり、金利の上昇はこの債務の返済コストを大幅に増加させる可能性がある。日銀は、経済の不安定化を避けるため、この点を注意深く管理する必要がある。

 

最終的には、日銀の決断は、経済成長の刺激、インフレ管理、金融安定の維持、および世界経済環境への配慮の間で慎重にバランスを取ることによる。条件が整い、経済がそれに対応できるほど堅調であれば、段階的な金利上昇へのシフトは十分可能である。しかし、そのような動きがあれば、事前に十分な周知がなされ、経済への混乱を最小限に抑えるために慎重に実施されるはずである。

 

日銀が国債買い入れ減額、YCC解除後で初 長期金利上昇

日銀は13日、定例の国債買い入れオペ(公開市場操作)を通知した。残存期間「5年超10年以下」の買い入れ予定額は4250億円と、前回4月24日(4750億円)から500億円減額した。3月に長期金利を抑える長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を解除してから初めての買い入れ減額となる。これを受け、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りは一時0.935%と、2023年11月以来およそ6カ月ぶりの高水準を付けた。

同日通知があった残存期間1年超3年以下は3750億円、残存期間10年超25年以下は1500億円でいずれも据え置いた。YCC解除後は「これまでとおおむね同程度」の買い入れを続ける方針を決め、その範囲内では市場動向や需給に応じて買い入れ額を調整するとしていた。4月以降は「5〜10年」の買い入れ額を4000億〜5500億円と幅を持って示してきたが、据え置きが続いていた。植田和男総裁は4月26日の記者会見で「それ(YCC解除など)が金融市場でどう消化されるかをまだ見ている段階だ」と述べていた。日銀がこのタイミングで初めて減額に踏み切ったのは、政策変更の影響を分析し、買い入れを減らしても金利の急騰などが起こりにくいと判断したためと考えられる。

(この項は日経ニュースメールからの引用です。)

 

米国経済指標を受けて1ドル153円台まで円高が進む

5月16日の東京市場で、ドル円レートは1ドル153円台まで円高が進んだ。前日の東京市場の午前には1ドル156円台で推移していたことから、1日のうちに2円以上円高が進んだことになる。そのきっかけとなったのは、米国時間の15日に発表された米国4月消費者物価、米国4月小売売上高がそれぞれ下振れ、金融緩和観測が強まったことがある。

先週来、日本銀行は円安をけん制する発言を繰り返してきた。また、円安抑制を狙ってオペで長期国債の買い入れ額の減額を突如発表し、市場で早期の量的引き締め(QT)観測を浮上させた。それにもかかわらず、ドル円レートは目立った反応をしなかったのである。

ところが、米国経済指標が下振れ、米国での金融緩和観測が強まると、為替市場は大きく反応した。ドル円レートに与える米国金融緩和観測の変化の大きさに、改めて思い知らされた。

 

米国景気減速 今回は本物か?

米国4月消費者物価(CPI)で、コアCPI(除く食料・エネルギー)は前月比+0.3%となった。2月、3月は同+0.4%と上振れたが、上昇率は再び低下している。前年同月比は+3.6%と3月の同+3.8%から低下しており、年明け以降滞っていた物価上昇率の低下傾向が、再び明らかになった形だ。コア財(除く食料・エネルギー)は、前月比-0.1%と下落が続いている。新車、中古車の価格下落が顕著だ。コアサービス(除くエネルギー)は前月比+0.4%と、前月の同+0.5%から下落率は縮小した。1月の同+0.7%をピークに下落傾向が続いている。一方、4月小売売上高は前月比横ばいと、予想を下回った。3月は同+0.6%だった。変動の激しい自動車とガソリンを除くコア小売売上高は、前月比-0.1%と下振れた。米国では、4月分雇用統計、最新の新規失業保険申請件数は、雇用情勢の軟化を示唆するものとなった。またミシガン大学の5月分消費者信頼感指数(速報値)も、6か月ぶりの低水準に落ち込んだ。

 

これらの一連の経済指標は、企業の雇用抑制姿勢によって個人の雇用環境が悪化し、それが個人消費の慎重化につながっていること、さらに個人消費の慎重化が物価上昇率の低下につながっていることを示唆するものと解釈できる。多くの米国経済指標がこのように整合的となることは、最近では珍しいように感じられる。昨年以来、米国経済の減速観測は、何度も短期間で修正を迫られてきたが、今回こそは減速傾向が始まった蓋然性はやや高いのではないか。それでもなお不確実性が高いことは確かだ。

 

日本経済の先行きを左右する為替と米国経済動向

一方日本では、16日に発表された2024年1-3月期GDP統計で、実質個人消費がリーマンショック時以来の4四半期連続の減少となるなど、個人消費の異例の弱さが見られている。その背景には、円安進行による物価高の長期化懸念があるだろう。政策面での対応で、個人消費の安定回復を助けることができるとすれば、それは個人の物価高懸念を煽る円安進行に歯止めをかけることだ。既に為替介入を実施していると考えられる政府と日本銀行とが、為替の安定回復に向けて強く連携する姿勢を見せることが、実際に円安に歯止めをかけ、歴史的な弱さを見せる個人消費の回復の第一歩となることが期待されるところだ。

 

他方、米国経済・物価の下振れ傾向がこの先より鮮明となり、米国での金融緩和期待が強まれば、円安の流れに歯止めがかかり、物価高懸念が緩和されることで国内個人消費の安定回復を助けるだろう。しかし、米国経済が顕著に悪化してしまう場合には、今度は、輸出環境の悪化によって、日本経済は年後半に失速するリスクが生じてしまう。国内個人消費の回復を助ける円安修正を生じさせる一方、日本の輸出環境を損なわない程度の適度な景気減速が米国で今後生じるかどうかについては、不確実だ(コラム「円安・物価高で個人消費は未曽有の弱さに(1-3月期GDP):強まる円安の弊害」、2024年5月16日)。

木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト)

 

(上記はNRIウェブサイト木内登英氏による”Global Economy & Policy Insight”(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものの引用です。)