中央アジアにおけるイスラム過激派勢力の拡大は、様々な社会政治的、経済的、文化的要因に影響された複雑で発展的な現象である。カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンなどの国々からなる中央アジアでは、イスラム教のサラフィズム、ワッハーブ主義、聖戦主義的解釈などのイデオロギーの影響を受けた過激なイスラム主義グループが出現している。この地域におけるイスラム過激派勢力の拡大には、下記のような幾つかの重要な要因がある:

 

政治的不安定: 中央アジア諸国は、1990年代初頭にソビエト連邦から独立して以来、さまざまな程度の政治的不安定を経験してきた。脆弱な統治、権威主義体制、腐敗は、国民の特定の層に不満を生み、過激派イデオロギーが根付くための肥沃な土壌となっている。

 

経済的疎外: 特に若年層の失業率の高さ、経済的不平等、貧困が不満と幻滅を煽り、経済的・社会的エンパワーメントを約束する過激派組織に勧誘されやすくなっている。

 

民族的・宗教的緊張: 中央アジアは民族的、宗教的に多様であり、イスラム教徒、キリスト教徒、その他の信仰を持つ人々が多く住んでいる。異なる民族や宗教間の緊張は、歴史的な不満や社会経済的な格差によって悪化し、こうした分裂を利用した過激派の物語の温床となることもある。

 

地域的・世界的影響: 中央アジアはアフガニスタンや中東などの紛争地帯に近いため、過激派イデオロギーの拡散や外国人戦闘員の侵入が容易になっている。近隣地域で活動する過激派グループは、中央アジアを広範なイデオロギー闘争の戦略的戦場とみなし、影響力の拡大を図っている。

 

ソーシャルメディアとオンライン・プロパガンダ: ソーシャルメディアとオンライン・プラットフォームの普及により、過激派グループは遠隔地からプロパガンダを発信し、信奉者を募り、個人を過激化させることができるようになった。インターネットは、過激派イデオロギーが繁栄するための仮想の戦場を提供し、物理的な国境を越えて、中央アジアの不満を持つ人々に到達している。

 

政府の弾圧と人権侵害: 一部の中央アジア政府が政治的な反対意見や信教の自由を抑圧するために採用した強引な戦術は、時に裏目に出て、社会から疎外された人々の間でさらなる過激化と疎外を招いている。恣意的な逮捕、拷問、検閲を含む抑圧的な手段は、不満を煽り、過激派グループの勧誘の餌となっている。

 

中央アジアにおけるイスラム過激派勢力の拡大に対抗するための取り組みには、軍事、法執行、社会経済的措置が組み合わされている。地域協力、情報共有、脱過激化プログラム、貧困や政治的権利の剥奪といった根本的な不満に対処する努力は、この地域における過激主義と闘うための総合的なアプローチに不可欠な要素である。さらに、宗教的寛容を促進し、経済発展を促進し、民主的制度を強化することは、過激派イデオロギーの魅力を緩和し、過激化の根本原因に対処するのに役立つと思われる。

 

注1)サラフィズム

サラフィー主義は(スンナ派の)厳格派と呼ばれることもある。それが「単なる復古主義でないのは、回帰すべき原点、純化されるべき伝統がそもそも何であるかを、厳しく問うものだからである」が、現実的にはシャリーアの厳格な施行を求め、聖者崇拝やスーフィズム、シーア派を否定する。祖は13世紀から14世紀にかけ中世シリアで活動したハンバル学派のウラマー、イブン・タイミーヤであるとされ、カラームを拒むなどの特徴を持つ。近世に生じたワッハーブ派はサラフィー主義から派生したもので、今もこれに含む考えもある。近現代においてはラシード・リダーが有力な提唱者であった。

 

注2)政治社会思想としてのサラフィー主義

サラフィー主義者はシャリーアの厳格な施行やイスラム国家の樹立を求めるなど政治性が強いものの、基本的には非暴力的である。これに対しシャリーア施行などを実現するために武力行使をジハードと位置づけて優先する流れ(1990年代以降に台頭した)については、区別して『サラフィー・ジハード主義』(サラフィー主義・ジハード派)などと呼ばれる。

創設者ハサン・アル=バンナーが上記のラシード・リダーに影響を受けたムスリム同胞団などもサラフィー主義を源流とするとみられるものの、より社会福祉を重視するなど経済や貧富の格差に注目する社会運動としての性格を強く築いてきた点が区別される(このため必然的に同胞団の社会政策は大きな政府となろう)。これに対しアラブの春以降の現在のサラフィー主義にはワッハーブ派であるサウジアラビアの影響も強く、利子を禁止するイスラム金融を重んじるほかは、商業や経済活動に肯定的で、ある意味資本主義的、市場経済的であり、夜警国家指向ともいえる。このようにアラブの春後の各国では同胞団系とサラフィー主義系は別々の宗教政党を作り、つば競り合いを演じた。イスラム教徒の人権が問題になっている中華人民共和国にもサウジアラビアの支援で広まったサラフィー主義を信奉するサラフィーヤ派(英語版)が存在するが、中国共産党政府に公認されるまで同じ回族から迫害を受けた歴史を持ち、穏健なイフワーン派(同胞団と同じ名前だが、別の集団)とも反体制的なウイグル族の運動とも対立している。

 

(“注1,2”はウイキペディアからの引用です)