世界中で、人々は貨幣の切り下げを経験している。物価は上昇し、同じ商品でも以前より多くの金額を支払わなければならなくなっている。リラのインフレ率の大幅な上昇は長期にわたって続いている。重厚な統計機関TÜIKはインフレ率を80%、独立系インフレ調査機関ENAGは176.04%と見積もっている。

廃貨(非貨幣化)を抑制するため、エコノミストは主要金利の引き上げを勧めている。しかし、エルドアン大統領は高金利を詐欺や搾取と解釈し、専門家の助言には従わない。リラの下落が続く一方で、大統領は自分が思い描くような奇跡を起こさないため、中央銀行のトップを定期的に交代させている。最低賃金はすでに3回引き上げられ、月3000から4250(2021年12月)、5500TL(2022年7月)となっている。しかし、この対症療法ではインフレも抑制できない。2022年末現在、1ユーロはわずか18リラの価値しかない。これは明らかに国民に感じられている。食料品やエネルギー価格の高騰は、国民に切り詰めを迫っている。イスタンブールでは、中産階級の人々も参加できる初の炊き出しが始まった。街角のいたるところで売られている伝統的な安価な持ち帰り用ゴマ、シミットは今や2倍の値段だ。昨年は2.50リラだったが、今は5リラもする。

しかし、なぜトルコはこのような極端なインフレに見舞われているのだろうか?トルコ経済は長い間不安定な状態にあった。政治的な出来事や、トルコがロシアから購入したS-400ミサイル防衛システムによるアメリカによる制裁に加え、外貨貸付も経済の不安定さを助長している。加えて、与党AKPは過去20年間、建設プロジェクトやインフラ開発に資金を提供し、国家債務を蓄積してきた。

しかし、長い間リラがそうであったように、自国通貨が価値を失えば、外貨での借金返済は高くつく。(トルコの莫大な建設プロジェクトには、(民間)投資家も大きく貢献している。 しかし、エルドアンの経済政策は投資を魅力的なものにしていない。例えば、アメリカの格付け会社フィッチは、トルコの信用格付けをネガティブで投機的なものに分類している。

さらに、トルコの食糧とエネルギー供給は輸入に大きく依存しており、小麦需要の70%、化石燃料の大部分をロシアからの輸入でまかなっている。一方、トルコはウクライナと経済・軍事面で協力関係にあり、戦闘用ドローンをウクライナに提供している。その結果、ロシアのウクライナ侵略戦争はトルコ経済にも影響を及ぼしている。

この2国への依存に加え、トルコはNATOのメンバーでもあり、現在の紛争を調停することで同盟内での地位を強化しようとしている。西側諸国からもロシアからも背を向けるという選択肢はない。

2023年5月の大統領選挙では、エルドアン氏は経済問題、とくに激しいインフレで、食料品など必需品の価格も軒並み跳ね上がり、人々の暮らしが非常に苦しくなっていた状況であった。追い打ちをかけるように、2023年年2月の大地震で、5万人を超える犠牲者と、日本円で4兆6000億円を超えると推計される経済的被害が出た。政府の初動対応の遅れや、建物の耐震対策の杜撰さが被害を拡大させたという批判にさらされ、これまでになく厳しい戦いを強いられた。

上記のような批判や逆風にもかかわらず、エルドアン氏が五月の選挙で勝利した要因は、選挙戦で20年の実績を繰り返しアピールしたこと、最低賃金の引き上げや、公共料金の一部無料化を実施し、大地震の被災者には、現金を支給し、住宅を速やかに用意すると約束するなど、予算とメディアを駆使して、猛烈な巻き返しを図ったこと、保守的なイスラム教徒やトルコ民族主義の有権者の支持をつなぎとめたことが挙げられている。

トルコの内政の課題として、インフレ率を一桁台に戻すと公約したが、問題はどう実現するかにある。これまで、「高い金利は景気を冷やす」などと主張して、利下げを続けてきたことが、自国通貨リラの下落と、激しいインフレを招いたと指摘されている。新政権を発足させるエルドアン氏が、専門家の指摘に耳を傾け、これまでの金融政策を修正するかどうかが注目されている。そして、経済を立て直し、震災からの復興を進めてゆくには、外国との関係をいっそう改善し、外資を呼び込むことが必要となっている。

 

(上記はアントニア・オッシュマン氏(2023年1月)による報文の抄訳です。)