だいち2号(陸域観測技術衛星2号、ALOS-2, Advanced Land Observing Satellite、エイロス2)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、地図作成、地域観測、災害状況把握、資源調査などへの貢献を目的として開発した「だいち」の後継の地球観測衛星。三菱電機株式会社がプライムメーカーとして設計、製造を担当した。高度628kmの太陽同期準回帰軌道を14日で回帰し(だいちは46日)、フェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダPALSAR-2により地表を観測するレーダ衛星である。2014年5月24日[2]にH-IIAロケット24号機によって打ち上げられた。

「ALOS(エイロス)」の名前は、「Advanced Land Observing Satellite」の略。日本語では「進化した陸域観測衛星」という意味を表している。日本では過去にも「地球観測衛星」をいくつも打ち上げてきたが、今回のALOSは、特に陸地の観測に目的をしぼり、そのための機能が充実した人工衛星、ということになる。今までの地球観測衛星には、資源探査を主な目的として地球の陸域を観測し、国土調査や農林漁業などに利用された地球資源衛星「ふよう1号」、地球温暖化、オゾン層の破壊、熱帯雨林の減少、異常気象発生など、全地球規模での環境変化を観測した地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」などがある。

 

ALOSには陸地の情報を観測するためのセンサーとして、以下の三つが搭載されている。

 

PRISM(プリズム)

基本的に普通のカメラと同じ原理で、地表を撮影する光学センサー。正確にはカメラよりもイメージスキャナーに近く、一列の光学センサーを連続して移動させながら、地表を撮影します。しかも光学センサーは三つ付いていて、地表を立体的に見ることができる。

 

AVNIR-2(アブニール・ツー)

光の3原色(赤・青・緑)+赤外線に近い領域にある波長の光線(近赤外光)の4種類の光線で地表を撮影(観測)する。これによってカラー画像が作成でき、例えば撮影した土地にどんな植物があるのか、砂漠なのか平原なのか、といった土地の情報や、災害の状況を知ることができる。

 

PALSAR(パルサー)

巨大な太陽電池の反対側にある大きなアンテナで、マイクロ波(音波の一種)によって地表を観測することによって、天候(雲の有無など)や昼夜に影響されずに地表を観測できるのが特徴である。

 

とても大きな人工衛星

これら三つのセンサーに加えて、正確な地図を作るため衛星の姿勢を高精度に制御する(ブレをなくす)機能、パワフルな電力を供給する巨大な太陽電池パドルなどを持つALOSは、本体約3.5m×4.5m×6.5mで、体積でいうと気象衛星「ひまわり6号(2.4m×2.6m×2.6m)」の約6.3倍もあり、人工衛星としては世界最大級の大きさである。軌道上では太陽電池パドルやセンサーを広げ、幅約27.5m×高さ9mにもなる。

 

先進レーダ衛星(ALOS-4)だいち4号

先進レーダ衛星(ALOS-4)は、日本が継続的に開発してきた観測装置であるLバンド合成開口レーダ「PALSAR-3」により、地表を観測する人工衛星で、前号機の「だいち2号」(ALOS-2)の観測性能をさらに向上させ、高分解能と広域観測を両立した世界最高性能のレーダ衛星を目指して、プライムメーカーの三菱電機(株)と提携して設計段階からJAXAが開発を進めている。レーダによる観測は、光学センサーとは異なり、太陽光を必要としないので、夜間であっても地上を撮像することが可能なうえ、レーダが観測に使う電波は雲を透過するため、天候の影 響も受けない 。先 進レーダ衛 星は、これらの 長 所を活かして、災害状況の把握や、森林観測、海氷監視などを行い、インフラ変位モニタリングのような新分野での実用化も目指している。

先進レーダ衛星には「だいち2号」に引き続いて、船舶自動識別装置(AIS)受信機が搭載されており、合成開口レーダと協調観測することで海洋監視に貢献します。高性能型衛星搭載AISである「SPAISE3」は、複数アンテナと地上でのデータ処理による混信域対策が施されており、船舶過密海域における船舶の検出率が「だいち2号」に比べ、向上している。

 

地盤変動の監視

レーダ衛星は、異なる時期に観測した2つのデータの違いを調べることで、火山活動や地震などによって、地殻や地盤がどれだけ動いたかを数cmの精度で測定することができます。例えば、火山を継続観測することにより、地表の変位から地下のマグマだまりの位置や動きを推定できるので、火山活動の把握に役立つ。先進レーダ衛星は、同じ軌道を飛ぶ「だいち2号」が観測したデータと比較して違いを調べることもできる。

「だいち2号」で、日本全土のすべての活火山を観測しようとすると、1火山あたり年4回程度しか観測することができず、より頻繁な観測は火山活動が活発化した後にならざるを得なかった。先進レーダ衛星は、活火山の観測頻度を2週間に1回に向上させることで、防災関係機関が、火山活動、地盤沈下、地すべりなどの異変を、早期に発見して、国民に注意喚起を行えるようにする。また、高い分解能を維持しつつ、観測幅が50kmから200kmに飛躍的に拡大するので、大規模地震や複数の火山噴火など、被災地が広範囲にわたる場合でも一度に観測できるようになる。

 

防災以外の利用(例:森林管理)

全陸域面積の3割を占める世界の森林の減少は、温室効果ガスの増加に深く関わるため、森林保全や状況把握が重視されています。国際協力機構(JICA)と共同開発中の熱帯林早期警戒システム(JJ-FAST)は、「だいち2号」観測データを用いて世界約77カ国における数ヘクタール以上の熱帯林の伐採地の検出が可能である。しかし、小規模な伐採地も多く、より詳細により頻繁に観測したいとの要望があり、先進レーダ衛星は、「だいち2号」に比べ、5倍の細かさで高頻度に観測するため、これまで監視できなかった小規模伐採地の検出が可能となる。

 

インフラ変位モニタリング

「だいち」の観測データを時系列的に解析することで、ダム、河川堤防、港湾施設などの老朽化に起因する構造の年間変位量を捉える研究を行っています。先進レーダ衛星では、さらに高頻度に観測データを取得できるので、構造物の歪みや地盤沈下のような徐々に進行する1年あたりの変位量を数ミリの精度で捉えることができ、インフラ維持管理の効率化への活用が期待されている。

 

三菱電機は2024年3月11日、先進レーダ衛星「だいち4号(ALOS-4)」を報道関係者に公開した。「だいち4号」は2014年5月に打ち上げられた陸域観測技術衛星2号「だいち2号(ALOS-2)」の後継機となる宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球観測衛星である。(最終更新:2024年3月11日18時)

 

直近のロケット打ち上げ情報リスト

「だいち4号」には昼夜や天候を問わずに地上を観測できるLバンド合成開口レーダー(SAR)が「だいち2号」に引き続き搭載されており、「だいち2号」と同じ高度約628キロメートル・軌道傾斜角97.9度の「太陽同期準回帰軌道」(※)から地上の観測を行います。開発・製造は三菱電機をプライムコントラクターとして2016年度にスタート。衛星の質量は「だいち2号」の約2.1トンから「だいち4号」では約3トンに増加し、後述するLバンドSARの能力向上にともなって太陽電池の発生電力は約5300ワットから約7000ワットに向上している。

※…衛星の軌道面(軌道が描く平面)と太陽のなす角が常に同じ「太陽同期軌道」と、数日間隔で同じ地域の上空を同じ時間帯に通過する「準回帰軌道」の特徴を併せ持つ軌道のこと。

 

当初「だいち4号」はH3試験機2号機に搭載される予定であったが、2023年3月にH3試験機1号機が先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」の軌道投入に失敗したことを受けて試験機2号機にはロケット性能確認用ペイロードが搭載されることになったため、打ち上げが先送りされていた。現在は2024年度中の打ち上げを目指して準備が進められている。「だいち4号」は衛星の開発がすべて完了しており、鹿児島県の種子島宇宙センターへ送り出されるのを待っている段階である。

 

「だいち4号」の公開は神奈川県鎌倉市にある三菱電機鎌倉製作所で開催され、三菱電機の境勝哉さん(防衛・宇宙システム事業本部 宇宙システム事業部 副事業部長)と白坂道明さん(鎌倉製作所 衛星情報システム部 プロジェクト部長)、JAXAの有川善久さん(第一宇宙技術部門 先進レーダ衛星プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ)らが登壇して説明が行われた。三菱電機によると、「だいち4号」に搭載されるLバンドSAR「PALSAR-3」の空間分解能は「だいち2号」の「PALSAR-2」と同じ3メートルであるが、新たにデジタルビームフォーミング技術を採用したことで、観測幅は「だいち2号」の50キロメートルに対して「だいち4号」では2~4倍(観測モードによって異なる)に拡大されている。「だいち4号」では「だいち2号」と比べて「最大で4倍広いエリアを同じ分解能で一度に観測でき、同じ広さのエリア全体を同じ分解能でも最短4分の1の期間で観測できる」ことになる。たとえば関東周辺を高分解能モードで観測する場合、観測幅50キロメートルの「だいち2号」では東京湾周辺だけが観測可能だったのに対して、観測幅200キロメートルの「だいち4号」では伊豆~銚子までの広範囲を一度に観測することが可能である。

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震や、公開日のちょうど13年前に発生した平成23年東北地方太平洋沖地震のような広域にわたる大規模な災害が発生した時、「だいち4号」であれば地殻変動や土砂災害などが発生した地域のデータを一度の観測でより多く取得できるようになる。地震や噴火によって大地がどのように変化したのかは災害が発生する前に取得したデータと比較することで明らかになるが、「だいち4号」ではそのような平時のデータも高い頻度で取得・更新できるようになる。JAXAによると、高分解能モード(分解能3メートル)での日本の観測頻度は「だいち2号」の年4回から「だいち4号」では年20回に増加する。平時の観測データがより高頻度で取得されれば、進行しつある地質活動を早期に発見することにもつながり、温室効果ガス排出に影響を及ぼす森林伐採や、河川管理施設・港湾施設などインフラの老朽化にともなう変位といった文明活動に由来する変化も、従来と比べて把握しやすくなる。

一方、取得される観測データの大容量化にあわせて衛星側のデータ蓄積容量は「だいち2号」の約128ギガバイトから「だいち4号」では約1テラバイトに増強された。地上へ伝送される観測データも大容量化することから、直接データ伝送系で使用する電波の周波数帯はX帯からKa帯に変更されており、伝送レートも「だいち2号」の約800Mbpsから「だいち4号」では約3.6Gbpsに高速化されている。さらに、「だいち4号」には「だいち3号」と同様に、レーザー光を用いた低軌道衛星用光ターミナル「OLLCT」が搭載されている。この機器はJAXAが開発を進めている光衛星間通信システム「LUCAS」で使用されるもので、静止軌道上の「光データ中継衛星」との間で衛星間通信の運用実証が行われる予定である。

 

技術実証として船舶自動識別装置の信号を受信できる装置を搭載

また、「だいち4号」には技術実証を目的に、一定の基準を満たす船舶に搭載が義務付けられている船舶自動識別装置(AIS)の信号を受信する船舶自動識別信号受信器「SPAISE3」も搭載されている。AISは船名・位置・針路・速力などの船舶情報を他の船舶や陸上局との間で自動的に送受信するための装置である。JAXAによれば、AISで陸上局がカバーできる範囲は海岸から37~55キロメートル(20~30海里)程度と限られているものの、衛星なら外洋の船舶も広範囲でカバーすることができる。同様の受信器は「だいち2号」などにも搭載されたが、「だいち4号」のSPAISE3では過去の装置で課題だった船舶が混雑する海域での信号受信率改善が期待されており、AISを搭載していない船舶も把握できるSARによる観測を併用することで船舶の航行安全に貢献することが期待されている。

 

(上記はJAXA ウェブサイト及びヤフーニュースなどからの引用をまとめたものです。)