国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)は、日欧共同で実施している幅広いアプローチ活動等を通じて進めてきたJT-60SAにおいて、那珂市(茨城県)にあるJT-60SAトカマクの日欧チームが2023年10月23日にトカマクプラズマの生成に初めて成功し、以下の声明を発表している。
「磁場閉じ込めを用いたこれまでで最大の核融合実験装置の運転に携わったチームによる大きな成果である。この結果は、今後数週間、チームがさらにテストを続ける中で慎重に検証される。そして12月1日、日本とヨーロッパからの代表団の出席のもと、那珂市に新しく建設された核融合研究施設が正式に落成する。続報をお楽しみに。」

 

JT-60SAフュージョン・エネルギーの早期実用化を目指し、ITER(イーター)計画と並行して日欧が共同建設した世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置である。JT-60SAは2020年3月に完成して試験運転を開始したが、電気系統の不具合で21年3月に停止していた。その後、補修を経て2023年6月5日より統合試験運転が再開され、プラズマの生成を目指していた。超伝導コイルの冷却、通電試験等を経て、2023年10月23日17:30頃(日本時間)、トカマクプラズマを初めて生成した。これにより、各構成機器が連動して、システムとして機能することが実証され、幅広いアプローチ活動の大きなマイルストーンを達成した。

QSTでは、JT-60SAで得られた知見をイーター計画及び将来の原型炉に積極的に活かすとともに、フュージョン・エネルギーの早期実用化に向けた中核的な拠点として引き続き研究開発が進められる。

JT-60SAにはプラズマを閉じ込め、プラズマの形状をコントロールする六つの円環状の平衡磁場コイル(EFコイル)がある。これらはニオブ・チタンからなる超伝導ケーブルからできている。EFコイルの通電試験はEF1(直径12m、重さ30t)と呼ぶ一番大きなコイルから9月19日に開始された。このEF1は現時点でパルス電流を流す世界最大級の超伝導コイルとなる。最初は予期せぬ不具合を避けるためにコイルを流れる電流や電圧を制限し、プラス/マイナス3kAの電流を流した際にベース電源、クエンチ保護回路(QPC)動作を確認することを目標とされている。各EFコイルの通電試験では、最初に電流プラス/マイナス1kAでの緊急停止機能( QPCが正常に動作し、EFコイル電源が安全に停止して,コイルが消磁できること)を確認する。各コイルに対してこの試験を繰り返し、プラス/マイナス3kAまで電流を上げていき、超伝導コイルに流す電流や電圧の波形を変えながら制御試験を行う計画となっている。

 

トカマク型(トカマクがた、Tokamak)とは、高温核融合炉の実現に向けた技術の一つで、超高温のプラズマを閉じこめる磁気閉じ込め方式である。将来の核融合炉に最も有力とされており、これまで製作された多くの核融合実験装置や現在計画中の国際熱核融合実験炉ITER(イーター)でも採用されている。磁気閉じ込め方式には、トカマク型の他に、ステラレータ型またはヘリカル型と呼ばれる形式もある。

 

ITER計画

ITER計画の目的はエネルギー問題と環境問題を根本的に解決するものと期待される核融合エネルギーの実現に向け、国際約束に基づき、核融合実験炉である ITERの建設・運転を通じて、核融合エネルギーの科学的・技術的実現性の確立を目指している。参加国は日本、欧州、米国、ロシア、中国、韓国、インドで、ITERの建設地はフランスのサン・ポール・レ・デュランス市にある原子力研究センター(カダラッシュ)である。

 

フュージョン・エネルギーとは、軽い原子核同士(重水素、三重水素)が融合して別の原子核(ヘリウム)に変わる際に放出されるエネルギーであり、太陽や星を輝かせるエネルギーでもある。フュージョン・エネルギーは、1)カーボンニュートラル(発電の過程において二酸化炭素を発生しない)、2)豊富な燃料(燃料は海水中に豊富に存在し、ほぼ無尽蔵に生成可能な上に、少量の燃料から膨大なエネルギーを発生させることが可能)、3)固有の安全性(燃料の供給や電源を停止することにより反応が停止)、4)環境保全性(発生する放射性廃棄物は低レベルのみであり、従来技術による処分が可能)という特徴を有することから、エネルギー問題と地球環境問題を同時に解決する次世代のエネルギーとして期待されている。

 

プラズマとは

温度が上昇すると、物質は固体から液体に、液体から気体にと状態が変化する。気体に熱や電気エネルギーを加えると、気体の分子が解離して原子になり、さらに温度が上昇すると原子核のまわりを回っていた電子が原子から離れ、(この現象を「電離」という)中性分子とプラスイオン、マイナスイオンが混在した非常に活性化した状態になる。これが物質の第4の状態とも言われる「プラズマ」である。身近なところでいえば各種ライト、炎や雷もプラズマであり、宇宙空間の99%以上がプラズマであるといえる。プラズマは我々の生活とは切り離せない存在である。

 

 

上記はフュージョンエネルギー・イノベーション戦略

https://www8.cao.go.jp/cstp/fusion/5kai/siryo1.pdf)を参照しています。

 

なお、Youtubeの「核融合のギモンまとめて答えます」に分かり易い解説があります。https://www.youtube.com/watch?v=2VwbdbybwmM岡野 邦彦氏(元慶應義塾大教授)

 

(追記)
                     量研機構が「核融合実験炉」運転開始式

 

                  

 
令和5年12月1日(金)、高市内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)那珂研究所で開催された、JT-60SA運転開始記念式典に出席しました。
 JT-60SAは、日欧が共同で実施する世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置です。令和5年10月23日に初めてプラズマを生成し、運転を開始しました。JT-60SAは、ITER(イーター)計画の技術目標達成のための支援研究、原型炉に向けたITERの補完研究、人材育成を目標としています。
 式典では、高市大臣が、盛山文部科学大臣、カドリ・シムソン欧州委員(エネルギー担当)とともに、プラズマを生成するためのボタンを押し、JT-60SAの運転披露を行いました。さらに、祝辞では、今年4月に我が国として初となる国家戦略「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定したことや、式典前日に岸田総理から、フュージョンエネルギーの早期実現に向けた取組を加速する旨の発言があったこと、さらに今年度中の産業協議会の設立を通じて、関連産業の発展に向けて力を尽くしていくことなどを述べました。
(内閣府ホームページ  2023年12月4日)