世界の宇宙ビジネスは現在、著しい成長と革新を遂げている。ここでは、この業界の現状について、いくつかの重要な側面を紹介する:

 

商業宇宙企業: 近年、宇宙探査や衛星サービスに携わる民間企業が急増している。SpaceX、Blue Origin、Rocket Lab、Virgin Galacticといった企業が再利用可能なロケットの開発、人工衛星の打ち上げ、新技術の開拓で業界をリードしている。

スペースエックス(Space X)は人工衛星を活用したネットワークサービスを提供するアメリカ・カリフォルニア州の会社で、ロケットの開発・打上げや有人宇宙船の開発、衛星を利用した高速で低遅延のインターネットサービス「Starlink」などの提供などを手がける宇宙ベンチャーである。これまでに150以上ものフライトを行うなど実績を重ねており、2022年12月、KDDIはau通信網でStarlinkの利用を開始した。

ブルー・オリジン (Blue Origin, LLC) はAmazon.comの設立者であるジェフ・ベゾスが設立した航空宇宙企業で、将来の有人宇宙飛行を目的とした事業を進めており、民間資本で宇宙旅行を大幅に安くして、尚且つ信頼性を高める技術を開発している。ブルー・オリジンはロケットを動力とした垂直離着陸機 (VTVL) を弾道飛行と軌道周回飛行を目的とした幅広い技術を開発中である。

ロケットラボ(Rocket Lab)は2006年にニュージーランドで設立され、2020年に本社を米カリフォルニア州に移した。初めての打ち上げは2018年で、2023年8月までに39回の打ち上げを行い、170基の衛星を宇宙に送っている。バージニア州に1カ所、ニュージーランドに2カ所の計3カ所の発射場を持っている。

ヴァージン・ギャラクティック (Virgin Galactic) はヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソンが設立した宇宙旅行ビジネスを行う会社である。かつては宇宙旅行の他に衛星打ち上げ事業も担っていたが、衛星打ち上げについては2017年にヴァージン・オービット社へ分社されている。2023年6月より宇宙旅行の商業飛行を開始しており、約800人が予約済みとなっている。スペースシップツーのパイロット以外を乗せた有人宇宙飛行は2021年7月に初めて行われた。この飛行では創業者のリチャード・ブランソンら6人が搭乗、高度80kmに到達し3分間の無重力体験を行い、1時間後に無事帰還した。

 

衛星サービス: 衛星技術は、電気通信、放送、地球観測、ナビゲーションなど、さまざまな分野で不可欠なものとなっている。衛星を利用したサービスの需要は増加しており、衛星の製造、打上げ、運用の拡大を後押ししている。

 

小型衛星キューブサット(CubeSatは大学の研究室などが製作する数キログラム程度の小型人工衛星で、ピギーバック衛星*として打ち上げられることを前提としており、打ち上げ費用を極力抑えることができる。2003年6月に世界初のCubeSatが打上げられた。)やマイクロサットと呼ばれる小型衛星の利用が増加している。これらの小型衛星は、地球観測、科学研究、通信など幅広い用途に利用されている。この傾向は、衛星打ち上げ数の増加につながっている。

*ピギーバック衛星は大型ロケットの打ち上げ余剰能力を活用して、主衛星とともに打ち上げられる人工衛星のことで、「ピギーバックペイロード」、「相乗り衛星」とも呼ばれる。

 

宇宙旅行: スペースX社やブルー・オリジン社などの企業は、宇宙旅行能力の開発に積極的に取り組んでいる。これらの企業は、レクリエーション目的で民間人を宇宙へ送り込むことを目指しており、宇宙旅行がもはやプロの宇宙飛行士に限定されないという重要な変化を示している。

 

国際協力: さまざまな国や宇宙機関の間の協力やパートナーシップは、より一般的になりつつある。国際協力によって、リソース、コスト、専門知識を共有することができ、宇宙技術や探査の進歩が促進される。

軍事宇宙開発: 宇宙はますます軍事的に重要な領域となりつつあり、さまざまな国が軍事宇宙計画に投資している。これには、衛星監視、ミサイル防衛、軍事目的の通信システムなどの活動が含まれる。

 

月探査: 月面の探査に対する関心が再び高まっており、いくつかの国の宇宙機関が、月面に持続可能な有人存在を確立するためのミッションを計画している。NASAのアルテミス計画は、2024年までに宇宙飛行士を月面に帰還させることを目指しており、中国やインドなどの他の国も独自の月探査計画を立てている。2023/09/07に日本初の月面着陸を目指す探査機「SLIM」(スリム)などを搭載した、国産の「H2A」ロケットが打ち上げに成功した。日本は探査機の月面着陸を目指している。( 下記の日本の宇宙ビジネス・月探査を参照して下さい。) 成功すれば、アメリカ、ロシア、中国、インドに次いで5カ国目となる。なお、8月23日にはインドの無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が世界で初めて月の南極に着陸した。

 

投資の増加: 宇宙産業は、官民双方から多額の投資を集めている。ベンチャーキャピタル企業、ハイテク大手、政府機関が宇宙関連の新興企業やプロジェクトに投資し、この分野の革新と成長に拍車をかけている。

 

スペースデブリの管理: 人工衛星や宇宙活動の増加に伴い、スペースデブリが懸念されている。宇宙活動の長期的な持続可能性を確保するため、スペースデブリを管理・軽減する技術や政策を開発する努力がなされている。スペースデブリ(宇宙ゴミ)とは、軌道上にある不要な人工物体のことで、運用を終えた人工衛星や、故障した人工衛星、打ち上げロケットの上段、ミッション遂行中に放出した部品、爆発や衝突により発生した破片等がある。

 

新しい宇宙技術: 宇宙ビジネスでは、再使用型ロケット、小型衛星、電気推進システム、新素材などの技術の進歩が見られる。こうした技術革新は、コストの削減、効率の向上、新たなミッションやサービスの実現につながっている。

 

競争と新たなプレーヤー: 世界の宇宙ビジネスは競争が激化しており、伝統的な宇宙機関は民間企業や新興宇宙開発国との競争に直面している。NASAやロスコスモス*のような既存の宇宙機関が引き続き重要な役割を果たしている一方で、スペースXやブルー・オリジンのような企業は、その野心的な目標と技術的進歩によって業界を混乱させている。

*ロシア政府はロシア連邦宇宙局とロシアの民間宇宙企業を統合する形で発足させた国営企業統一ロケット・宇宙会社を統合し、国営ロスコスモス社を発足させることを発表し、2016年1月1日付でロシア連邦宇宙局は廃止され、ロスコスモス社が発足した。

 

地球観測と気候監視: 人工衛星は、地球の気候や環境の監視に重要な役割を果たしている。衛星から収集されたデータは、気候変動の研究、自然災害の追跡、森林減少の監視、資源管理の改善に利用されている。宇宙ビジネスのこの分野は、継続的な成長と進歩を遂げている。

 

低軌道(LEO)の商業化: 地球低軌道は、商業活動において大きな注目を集めている。各企業は、ブロードバンド・インターネット・カバレッジをグローバルに提供するため、衛星のメガ・コンステレーション*の展開を計画しており、これは世界中の接続性に革命をもたらす可能性を秘めている。

*十機から数百機の小型衛星から成るものをメガ コンステレーションと呼ぶ。 メガコンステレーションビジネスは、小型衛星 を製造してコンステレーションを形成するビジネスと、形成されたコンステレーションを利用して、通信を行ったり、データを収集・利用したりするビジネスとから成る。

 

以上のように、世界の宇宙ビジネスは急速な成長と技術進歩の時期を経験している。民間企業は、衛星技術、再使用型ロケット、宇宙旅行などの革新により、ますます重要な役割を果たしている。共同研究、投資、月探査も重要なトレンドである。しかし、スペースデブリやさまざまなプレイヤー間の競争といった課題も依然として残っている。とはいえ、通信、地球観測、気候監視、宇宙探査など、さまざまな分野で進歩の機会があり、世界の宇宙ビジネスの将来は有望と思われる。

 

日本の宇宙ビジネス

これまで日本は世界の宇宙ビジネスにおいて大きな存在感を示してきた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、日本の宇宙活動を担う主要な政府機関である。以下は、日本の宇宙ビジネスの主要な側面である:

 

衛星と宇宙技術: 人工衛星と宇宙技術:日本は強力な人工衛星製造業を有し、通信、地球観測、科学研究、航法のためのさまざまな先進的人工衛星を開発してきた。JAXAは、太陽観測衛星「ひので」、気候監視衛星「GCOM」シリーズ、小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」など、数々の衛星ミッションを成功させてきた。

 

国際協力: 日本は宇宙探査や科学分野において、他国や他機関と積極的に協力している。特筆すべき協力には、国際宇宙ステーション(ISS)計画への参加、NASAとの共同ミッション、欧州やアジアの宇宙機関との協力活動などがある。

 

月探査: 日本は月探査に関心を示している。2007年に打ち上げられたSELENE(かぐや)ミッションは、月の観測に成功し、貴重なデータを収集した。日本は上述したように、SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)と名付けられた月面着陸ミッションを計画しており、精密な着陸技術の実証を目指している。10月1日にエンジンを噴射し、月に向かう軌道に入った。近く、月に接近し、月の重力を利用して軌道を変える。いったん月から離れた後、年末頃に月周回軌道に入り、来年1~2月頃、月面着陸に挑戦する予定になっている。

 

ロケット打ち上げ: 日本は人工衛星を宇宙へ打ち上げるためのH-IIAロケットH-IIBロケットによって、独自の宇宙打ち上げ能力を持っている。三菱重工業(MHI)がこれらのロケットの主契約企業である。 JAXAは2023年3月7日に種子島宇宙センターからH3ロケット試験機1号機を打上げたが、第2段エンジンが着火しなかったことにより、所定の軌道に投入できる見込みがないとして、ロケットに指令破壊信号を送出し、ロケットは破壊され、打上げに失敗したと発表した。 H3ロケットは日本の新しい基幹ロケットとなるべく、「柔軟性」、「高信頼性」、「低価格」により徹底したユーザ視点で開発することで「使いやすいロケット」を目指している。JAXAは日本の民間企業と共に総力を結集して、開発に取り組むとしている。

日本の新たな主力ロケット「H3」の2号機は2024年2月15日、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられる予定であったが、天候の悪化が予想されるとして打ち上げが延期された。新たな打ち上げ日について、JAXA=宇宙航空研究開発機構は、天候を見極めたうえで判断するとしている。

「H3」は、現在運用されているH2Aに代わる日本の新たな主力ロケットで、昨年3月に初号機が打ち上げられたが、2段目のエンジンが着火せず打ち上げに失敗した。このためJAXAは、当時の飛行データなどをもとに原因の究明を進め、部品の検査を強化するなど対策を講じてきた。2号機は当初、2月15日午前9時22分に種子島宇宙センターから打ち上げられる予定であったが、JAXAは2月13日、当日の天候の悪化が予想されるとして打ち上げを延期すると発表した。JAXAによると、打ち上げ時間帯に雷の発生や風が強まることなどが予想され、機体や搭載している衛星に影響が出るおそれがあると判断した。

新たな打ち上げ日についてJAXAは、天候を見極めたうえで判断するとしている。「H3」は日本の大型ロケットとしてはおよそ30年ぶりの新規開発で、民間企業の参入で宇宙ビジネスをめぐる国際競争が激しくなる中、今回の2号機の打ち上げは今後の日本の宇宙開発の行方を左右するとして注目されている。

 

日本の新たな主力ロケット「H3」の2号機は、2月17日午前9時22分すぎに鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられました。JAXA=宇宙航空研究開発機構はさきほど午前9時40分ごろ、「ロケットの2段目のエンジンの燃焼が停止したことを確認した」と発表し、機体が計画通り飛行し目標の軌道に到達したと明らかにしました。「H3」は去年3月に打ち上げた初号機では2段目のエンジンが着火せず打ち上げに失敗していて、JAXAは今回、2段目のエンジンの燃焼終了に成功すればロケットの軌道への投入を達成できることから大きな目標としていました。

(上記はNHKニュースの引用です。)

 

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は17日、新型主力ロケット「H3」2号機を種子島宇宙センター(鹿児島県)から発射した。JAXAによると、2段式のエンジンは順調に燃焼し、搭載した超小型衛星の分離に成功した。新たな国産主力機のデビューは1994年のH2ロケット以来となる。H3は2024年度中に退役予定の現行の主力機「H2A」に代わり、今後20年間の日本の宇宙輸送の中心を担う。宇宙ビジネス拡大で需要が増す国際的な衛星打ち上げ市場で、競争力確保を目指す。

 JAXAは14年からH3の開発を始め、23年3月に初号機を打ち上げた。ところが、電源系統の不具合で2段目エンジンに着火せず失敗に終わった。共同開発する三菱重工と共に、部品の絶縁を強化するなどの再発防止策を2号機に施した。

 2号機はロケットの性能確認を主目的とする「試験機」の位置づけで、初号機で失った衛星と重さなどが同じ構造物と、2機の超小型衛星が搭載された。JAXAによると、1、2段目のエンジンは予定通り燃焼し、発射後約17分にキヤノン電子の超小型衛星「CE-SAT-1E」を分離したという。

 H3は全長約63メートル(2号機は約57メートル)、直径約5・2メートルでH2Aより一回り大きい。エンジンの推力を向上させ、衛星の打ち上げ能力を1・3倍に高めた。既製の部品を使ったり、3Dプリンターを用いて部品の数を減らしたりして低コスト化を図り、打ち上げ費用をH2Aの半額の約50億円に下げることを目指している。

(上記はヤフーニュースからの引用です。)

 

商業宇宙産業: インターステラテクノロジズやiSpaceといった企業が、小型衛星ロケットや月探査ミッションの開発に取り組んでいる。これらの企業は、小型衛星の顧客に費用対効果の高い宇宙へのアクセスを提供することを目指している。

 

宇宙産業支援: 日本政府は研究開発プロジェクトへの資金提供、宇宙スタートアップへの助成金提供、国際協力の推進など、さまざまな取り組みを通じて宇宙産業を支援している。

 

宇宙観光: 日本は宇宙観光の機会も模索している。JAXAは他の企業と協力し、国際宇宙ステーション(ISS)への飛行機会を観光客に提供することを目的とした商業宇宙体験プログラム「スペースXoジャパン」を開発した。

 

全体として、日本の宇宙ビジネスは、政府主導の取り組み、衛星製造、国際協力、そして成長する商業部門を兼ね備えている。日本は宇宙科学と宇宙探査に多大な貢献をしてきており、宇宙産業における技術の進歩と国際的なパートナーシップに焦点を当て続けている。日本の宇宙ビジネスをさらに活性化させるためには、いくつかのアクションが考えられる。

 

研究開発への投資: 研究開発への投資:宇宙関連技術やプロジェクトの研究開発への資金拠出を増やす。これは、技術革新を促し、日本が宇宙探査と衛星技術の最前線であり続ける助けとなる。

 

新興企業および中小企業への支援: 起業家精神を育成し、商業宇宙産業の成長を刺激するため、宇宙関連のスタートアップ企業や中小企業に対し、財政的支援、助成金、インセンティブを提供する。これには、税制優遇、専門施設やインフラへのアクセス、規制プロセスの合理化などの措置が含まれる。

 

国際パートナーとの協力: 官民を問わず、国際パートナーとの連携をさらに強化する。これには、共同ミッション、知識の共有、技術移転を含めることができ、日本が他国の専門知識やリソースを活用する一方で、日本独自の強みも提供することを可能にする。

 

宇宙教育と意識の向上: 学校から大学まで、あらゆるレベルでの宇宙教育を強化し、宇宙産業のための熟練労働力を育成する。宇宙関連分野でのキャリアを目指す学生に、インターンシップ、奨学金、研修の機会を提供するプログラムを奨励する。さらに、アウトリーチ・プログラムやメディア・キャンペーンを通じて、宇宙活動の重要性と恩恵に関する一般市民の意識を高める。

 

規制手続きの合理化: 衛星打ち上げや宇宙探査ミッションなどの宇宙活動に関連する規制手続きを簡素化し、迅速化する。これにより、官僚的なハードルを減らし、効率を高め、日本で事業を行うより多くの民間プレイヤーを惹きつけることができる。

 

インフラ整備: 打上げ施設、試験場、地上局など、宇宙活動を支えるために必要なインフラの整備に投資する。インフラが改善されれば、国際的な協力関係をさらに促進し、他の宇宙進出国との共同事業 の機会を提供することができる。

 

産学連携の促進: 宇宙産業と学術機関との連携を促進する。これにより、最先端技術の開発、研究とイノベーションの促進、宇宙ビジネスの需要に対応できる熟練労働力の確保が可能となる。

 

商業宇宙に関する規制の枠組み: 商業宇宙産業特有の課題と機会に対応する包括的な規制の枠組みを構築する。これには、衛星運用、宇宙港、宇宙観光、潜在的な宇宙資源利用に関する規制が含まれ、商業宇宙活動に安定した支援環境を提供する。

 

宇宙産業クラスター: 政府機関、研究機関、新興企業、既存企業が近接する宇宙産業クラスターまたはハブを設立する。こうしたクラスターは、協力、知識の共有、アイデアの交換を促進し、イノベーショ ンを促進し、活気に満ちた相互接続された宇宙エコシステムを促進することができる。

 

こうした措置を実施することで、日本は宇宙ビジネスをさらに活性化し、宇宙産業の成長、イノベーション、競争力 を促進することができる。こうした行動は、日本自身の宇宙能力に貢献するだけでなく、日本を宇宙技術・探査の世界的リーダーとして位置づけることになる。日本の宇宙事業の継続的成長と成功を確保するためには、長期的ビジョン、持続的投資、支援的規制環境を持つことが肝要である。国際的なパートナーとの協力、起業家精神の育成、宇宙教育の推進もまた、日本の宇宙産業の未来を形作る上で重要な役割を果たすだろう。