トランプ大統領(2025年就任前後)は複数の場で、グリーンランド、パナマ運河、カナダなどへの米国の“支配”や“取得”を示唆する発言を行っており、ベネズエラへ軍事介入し、マドゥロ拘束を行っている。
1. グリーンランド
トランプ大統領は「国家安全保障上の理由」でグリーランドの米国による支配を示唆し、グリーンランドを米国が取得する可能性を排除しないと発言している。
その背景には
・グリーンランドは北極圏の戦略拠点
・米軍基地(チューレ空軍基地)が存在
・北極海航路・レアアース資源が注目されている
2. パナマ運河
・トランプ大統領は、パナマ運河を米国が再び掌握すべきだと発言
・軍事力の使用を排除しないと述べたと報道されている
その背景には
・パナマ運河は世界物流の要衝
・現在はパナマ政府が管理
・中国企業の関与を米国が警戒しているという文脈があると報じられている
3. カナダ
・トランプ大統領は、「カナダを51番目の州にする」という発言を行ったとの報道がある
・これは米加関係に大きな衝撃を与えたとされる
その背景には
・米国最大の貿易相手国
・エネルギー資源(石油・天然ガス)を大量に輸出
・ NATO同盟国であり、通常は極めて友好的な関係
4. メキシコ
トランプ大統領は過去から一貫して、
・国境管理
・移民政策
・治安問題
・麻薬カルテル対策
などでメキシコへの強い関与を主張してきた。
「米国の勢力圏を拡大する」という一連の発言の延長線上で語られていると理解できる。
5. ベネゼラ
米軍が南米ベネズエラへの攻撃に踏み切り、反米政権を転覆させた。国益確保のために他国への武力行使も辞さない強引な手法には深い懸念を生じさせている。トランプ大統領は1月3日、ベネズエラの首都カラカスなどへの大規模攻撃が成功したと発表した。マドゥロ大統領と妻は拘束され、米ニューヨークに移送された。夫妻は麻薬密輸に絡み米国で起訴されており、裁判にかけられている。
トランプ政権は、ベネズエラ経由の麻薬流入を「米国への武力行使」にあたると主張し、密輸組織とみなした船を攻撃してきた。今回の地上攻撃についても、同じ理屈で正当化するつもりと見られている。国連憲章は原則として他国への武力行使を禁じている。国連安全保障理事会の決議に基づく軍事行動や、武力攻撃を受けた国などが自衛権を行使することに限り、例外的に認めている。
6.コロンビア
トランプ氏が「気をつけろ」と警告したのが、ベネズエラの隣国コロンビアのペトロ大統領だ。コロンビアは石油埋蔵量が多く、金や銀、エメラルド、プラチナ、石炭の生産が盛んだ。そして、コカインを中心に麻薬取引の拠点として悪名が高い。米国は昨秋、麻薬カルテルの「繁栄」を許しているとしてペトロ氏への制裁を発動。トランプ氏は最近、コロンビアは「コカインを作り、それを米国に売りつけることを好む病んだ男に支配されている」と述べた。トランプ氏はさらに、ペトロ氏は「そう長くは続けられないだろう」と語り、記者団からコロンビアを標的とした作戦を実施するかと問われると、「それは良い考えだ」と答えた。
全体像;何が起きているのか
トランプ大統領は、
・米国の勢力圏を拡大する“トランプ流のモンロー主義的政策(ドンロー主義)“を主張し、中国やロシアに対する内政不干渉の方針が明確に示されている。
・ウクライナ侵攻については、ロシアへの非難がないうえに、ロシアとの戦略的安定性を再び確立することを「アメリカの中核的利益だ」としている。他方、欧州については、「国民の大多数は平和を望んでいるのに、民主的政治過程が破壊されているため、政策が反映されていない」と説き、「文明として消える可能性がある」という認識は完全にプーチンと同じ船に乗っている。
・グリーンランド、パナマ運河、カナダなどを米国の支配下に置く可能性を示唆
・目的達成のためには、軍事力の使用を排除しない発言の報道もある。
これらは国際社会に大きな衝撃を与え、「前例がない」「同盟国を緊張させる」と報じられている。
この一連の発言は「本当にありえるのか?」という直感的な違和感が正しく、国際法上も、地政学的にもかなり“異様”なシグナルである。
1. 国際法上の位置づけ
1-1. 領土取得の基本ルール
現代の国際法では、他国の領土を「力ずくで取る」ことは、原則として完全に違法である。
・国連憲章;武力による威嚇または行使による領土取得は違法(憲章第2条4)というのが戦後国際秩序の根幹である。
・領土変更の正当な手段は、当事国間の合意に基づく平和的な譲渡・売却・境界画定
・住民投票+当事国の合意(例:南スーダン独立など)が原則である。
トランプが「グリーンランドやパナマ運河を軍事力や強い経済圧力で掌握する可能性」に言及している点は、この原則と明確に緊張関係にある。
1-2. 個別ケース別に見た違法性の度合い
グリーンランドはデンマーク王国の一部(自治領)であり、「買う」こと自体はデンマーク・グリーンランド側が合意するなら、理論上は国際法上不可能ではない(かつてのアラスカ購入などの前例)。しかし、トランプは「軍事的手段も排除しない」というニュアンスを示しており、これは違法な武力威嚇と解釈されうる。
パナマ運河はパナマの主権下にあり、米国は1977年のトリホス=カーター条約などを経て、1999年に運河の完全な管理権をパナマ側に返還済みである。ここを「再び軍事力で掌握しうる」と明言することは、他国の領土・施設に対する武力による威嚇という意味で、国連憲章と衝突しうる。
カナダを「51番目の州にする」は今のところ「発言レベル」で、現実的な政策プロセスが動いているわけではないが、カナダ側の同意なしに併合を行う前提なら、明白な侵略行為の示唆となる。現状は「政治的な挑発」と見られつつも、同盟国に対する威嚇的レトリックとして問題視されている。
ベネズエラへの軍事介入・マドゥロ拘束については、「一方的・非防衛的な軍事攻撃」であり、侵略行為に該当しうる。ただし米国側は「麻薬テロ」「国際犯罪」を名目にしようとするはずで、その正当化論と国際法解釈の対立が生じる。
ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の失脚後、大統領権限代行に就任したデルシー・ロドリゲス副大統領(56)が、事実上ベネズエラの実力者として台頭した。現地憲法では、大統領に欠位が生じた場合、副大統領が権限を継承することになっている。加えて、ロドリゲス氏が左派革命の象徴的な一族の出身で、マドゥロ大統領の最側近とされてきた人物であることから、今後の動向に関心が集まっている。
ロドリゲス権限代行は4日(現地時間)、インスタグラムに英語で声明を投稿し、米国に対して協力を呼びかけた。「米国が国際法の枠組みの中で、共同発展を志向する協力の議題を中心に、我々と協力することを要請する」とした上で、「ドナルド・トランプ大統領に向けて、我々の国民と地域は、戦争ではなく平和と対話を享受する権利がある」と記した。さらに「ベネズエラは平和と平和的共存への約束を再確認する」とし、「主権平等と内政不干渉を前提とした、均衡の取れた相互尊重の関係を優先する」と強調した。
わずか前日まで「マドゥロ氏は依然としてベネズエラ唯一の大統領だ」と述べ、米国に対する抗戦の意思を示していた姿勢から、180度転換した形だ。ロドリゲス氏はマドゥロ氏逮捕直後の3日、国防委員会を主宰し、マドゥロ氏への忠誠を表明するとともに、米軍の軍事作戦を「主権に対する侵略」だと糾弾した。さらに「ベネズエラはいかなる国の植民地にもならない」と述べ、抗戦姿勢を明確にしていた。AP通信も、4日に発表されたこのメッセージについて「わずか1日前の強硬な演説とは対照的な、明確な語調の変化だ」と評価した。
米国のルビオ国務長官は4日、米NBCのインタビューで、ベネズエラの統治に意欲を示すノーベル平和賞受賞者のマリア・マチャド氏ら野党勢力について「残念ながら、大多数が国内にいない」と述べた。トランプ政権は、マチャド氏らを蚊帳の外に置く姿勢を鮮明にしている。
ルビオ氏はマチャド氏を評価しつつも「我々は直ちに対処が必要な課題を抱えている」と述べ、拘束したニコラス・マドゥロ大統領の下で副大統領だったデルシー・ロドリゲス氏との対話を進めると説明した。マチャド氏は昨年12月、ノルウェーでの平和賞授賞式に合わせてベネズエラを出国し、現在の居場所は不明だ。マチャド氏が次の大統領に推す2024年大統領選の野党統一候補エドムンド・ゴンサレス氏もスペインに亡命している。
米国とベネズエラ両政府がベネズエラ産原油の米国への輸出を協議している。原油はメキシコ湾沿岸の米国の施設で精製可能という。トランプ大統領は8日に米石油企業幹部とホワイトハウスで会合を開く予定。老朽化したベネズエラの石油インフラ再建に向けた協力を求めるとみられる。トランプ氏は軍事介入により反米左派のマドゥロ大統領を排除したベネズエラでの石油利権獲得に意欲を示している。ベネズエラの原油埋蔵量は世界最大で、米政権との協力を表明したベネズエラのロドリゲス暫定大統領は石油相を兼務する。
1-3. 国際社会の受け止め
専門家・シンクタンクからは、
・「モンロー主義的な、19〜20世紀型の勢力圏論への回帰」
・「国際秩序に対する重大な挑戦」
として批判されている。
現時点では「発言」と「シグナル」の段階が多く、直ちに国際裁判になるフェーズではないが、「ベネズエラへの軍事介入・マドゥロ拘束」については、上記したように、副大統領だったデルシー・ロドリゲス氏との対話を進める意向のようである。
2. 地政学的な影響
2-1. 北極・グリーンランド
北極圏の軍事・資源・航路ゲームが一段と熾烈になる。
グリーンランドは、
・北極航路(北極海ルート)
・レアアースなどの鉱物資源
・米軍の早期警戒・ミサイル防衛の要衝(チューレ基地)
という超戦略拠点である。
米国が「グリーンランド直接支配」を公然と語ると、
・ロシアは北極圏での軍備増強を正当化
・中国は「極地シルクロード」構想を通じて影響力拡大を加速
・NATO内部でも、デンマーク・カナダ・ノルウェーが警戒を強める
という連鎖が起きうる。
結果として、
北極は「協調的ガバナンスの場」から「大国の前線・軍事境界線」へと性格が変わりかねない。
2-2. パナマ運河・海運
世界物流の「チョークポイント」が、再び政治化・軍事化される懸念がある。
パナマ運河は米東海岸–アジア・米湾岸–欧州を結ぶグローバル物流の動脈であり、トランプの「再掌握」発言は“中国企業のパナマでの存在感拡大への対抗”という文脈で語られている。
パナマは、
・中国・米国からの圧力の間でバランス外交を強化せざるを得ない。
・経済的・軍事的により一層「争奪される存在」に。
・他のチョークポイント(スエズ運河、マラッカ海峡)でも、「管理国の主権 vs 大国の安全保障要求」の対立が激化する可能性に。
2-3. NATO・同盟システム
同盟国自身が“米国のターゲット”にされている、という前代未聞の状況に。
・カナダはNATO・NORADを通じた最も近い同盟国の一つであり、そこに対して「51番目の州」と発言し、「経済的強制」も排除しないとするのは、“同盟の信頼性を内部から揺るがす行為”と受け止められている。
(ノラド《North American Aerospace Defense Command》北米航空宇宙防衛司令部。米国とカナダの統合軍司令部。両国の防空・空域監視を担い、ミサイルによる核攻撃や航空機による攻撃から北米大陸を防衛する。1958年発足。司令部はコロラド州ピーターソン空軍基地にある。)
欧州NATO諸国は、
・「米国の内政・政権交代により同盟方針が激変しうる」というリスクを再認識
・自律的防衛力・欧州戦略の強化(戦略的自律)を進める動機が強まる。
NORAD・北米防空協力も、
「軍事協力は維持したいが、主権は絶対に譲れない」というジレンマに直面。
2-4. 米中関係
これは単に“領土ネタ”ではなく、“対中包囲”の文脈でもある。
・グリーンランド・北極 ;中国の極地進出(「近北極国家」宣言等)を牽制する意味があると指摘されている。
・パナマ運河:中米における中国企業の港湾・インフラ投資への対抗であり、米国が軍事的・準軍事的に再介入すれば、「中米における米中代理対立」の色合いが濃くなる。
・ベネズエラ:中国・ロシアが長年支えてきた政権への米軍事介入は、ラテンアメリカでの陣取り合戦の再燃として映る。
米中対立は「インド太平洋」だけでなく、北極・中南米・海運チョークポイント全体へと地理的に拡大するリスクがある。
3. 日本への影響シナリオ
3-1. エネルギー・海運コストへの影響
シナリオA:パナマ運河が政治化・不安定化する。
・原油・LNG・穀物など、多くがパナマ経由で世界各地へ運航されている。
・直接日本向けのメインルートは中東–インド洋–マラッカ–南シナ海が中心であるが、
・グローバル物流の混乱 → 運賃高騰・船腹のひっ迫 → 日本行きルートのコスト増
という“間接ショック”が起こりうる。
特に、米国湾岸産LNG・石油の一部 、米穀物はパナマ運河のスムーズな運営に依存しているため、
・価格変動性の増加
・長期契約の見直し
が必要になる可能性。
シナリオB:北極航路の軍事化・不安定化
現状、日本企業も北極海航路(ロシア北方)を将来の選択肢として検討している。
・米・ロ・中・NATO諸国の軍備増強で北極が緊張海域化すれば、「安定した低コストルート」としての期待が後退する
・日本としては、「ルート分散・在庫強化・LNGソースの多様化」といったロジスティクス戦略の再設計が必要になる。
3-2. 安保・同盟構造への波及
同盟の“安定性”そのものに疑義が出てくる。
トランプ大統領がNATO同盟国(カナダ)や 中南米に対して“拡張主義的”な発言をしていることは、「日米安保も、米政権の性格次第で扱いが大きく変わりうる。」というメタメッセージとしても読み取れる。
日本への含意:
楽観的見方として、
・米国が「勢力圏拡大」に傾くほど、インド太平洋でも対中抑止強化に傾く可能性もある。
・日本の防衛力強化・米軍再配置・装備共同開発などは、むしろ加速するシナリオとなる。
悲観的な見方として、
・米国の“行き過ぎた一国主義”が、国際的な信頼を損ない、EUやグローバルサウスが米国から距離を取ると、「日本はどこまで米国に追随するのか」という外交上の難度が増す。
日本は、
・日米同盟を基軸としつつ、
・欧州・豪州・インド・ASEANとの多層的な安全保障・経済連携を強化する方向に、さらに振らざるを得ない。
3-3. 米中対立の空間拡大と日本
米中対立が「北極〜中南米〜海運チョークポイント」にまで広がると、
米国の軍事・外交リソースが世界に分散
・インド太平洋への集中度が相対的に低下しうる。
・特に、中南米やパナマ運河での事態がエスカレートすれば、太平洋戦力の一部がそちらに回る可能性もある。
・同時に、中国も北極・中南米でのプレゼンスを強め、対日包囲というより、「対米グローバル競合」の一環として動く。
日本の立ち位置:
・軍事的には自前の抑止力(反撃能力・ミサイル防衛・海空優勢)の比重を増やさざるを得ない。
・外交的には 中南米・グローバルサウスとの関係強化を通じ、「米国一辺倒」ではなく、「多極世界の中での安定プレイヤー」としての位置を獲得することが重要になる。
3-4. 金融・市場への波及
ベネズエラ・中南米・パナマ運河・北極を巡る緊張は、
・コモディティ価格(原油・LNG・穀物・レアアース)
・海運株・港湾運営企業
・軍需・防衛関連
にボラティリティをもたらす。
日本としては:
資源輸入国として、価格変動の影響を強く受ける一方、防衛関連産業・海上保険・ロジスティクス技術(省エネ船、ルート最適化など)では、逆に需要増の機会も生じる。
4. まとめ
国際法上:
・武力・強制による領土取得・支配は、原則違法。
・トランプ発言は「モンロー主義的拡張」の復活を示すシグナルで、国連憲章の精神と強く緊張。
地政学的には:
・北極:軍事化・大国競合の前線化。
・パナマ運河:物流のチョークポイントとして再び“争奪の場”に。
・NATO・同盟:同盟国自身が潜在ターゲットとなる異常事態で、米同盟網の信頼性が問われる。
・米中関係:対立はインド太平洋から「北極・中南米・海運全体」へ拡散する方向性も。
日本への影響:
・エネルギー・物流コストの上振れリスク
・日米同盟の重要性は増すが、同時に“米国の揺らぎ”への備えも不可避
・自前の防衛力・外交の多角化・サプライチェーン再設計が、より戦略的課題になる。