(前回のつづき)※敬称略

カンクンでの本番、最初にあったのは、第11回ウルトラクイズの優勝賞品の発表だった。
留さんが、まずは挑戦者たちが希望する優勝賞品を、一人ずつ順に聞いていく。ここでは車をあげる挑戦者が多かった。そして、柳井さんらしい希望賞品の後に、僕が答えた希望賞品は「飛行船によるアメリカ横断」。もちろん飛行船が大好きだったこともあるが、ウルトラクイズの賞品では土地や物にはジョークが多いため、必ずそのものが体験できる旅行関係を書いておいたという理由もある。

そして、最後に宇田川が「島」と答えた後に留さんからいよいよ賞品の発表。
留さんの「島をあげます」とのコールに、僕たちは大いに驚いた。賞品のすばらしさに驚いたのではない。宇田川が賞品をぴたり当てていたことに驚いたのだ。最後に希望賞品を答えたのが宇田川で、本当の賞品もその宇田川の答えた賞品とずばり一致。ちょっと作為だけではできないような偶然の一致だった。
ちなみに賞品が発表された瞬間、僕は当然カンクンにある島だと思って周囲をきょろきょろしているが、もちろんみつかるはずもない。優勝賞品となるべき島は、はるか北のかなた、カナダにあったのだから。

優勝賞品の紹介で、はやる気持ちと毒気をいったんは抜かれてしまった僕だったが、続くクイズのルール説明を聞いて、闘志は前にも増して燃え上がることになる。

「日の出タイムショック」

早押しクイズ。正解1ポイント、不正解-1ポイント。但し、勝ち抜け点数は、特に決まっていない。早押しクイズをひたすら出題し、太陽が水平線から昇りきったところでクイズを終了、その時点でポイントが一番低かった挑戦者が敗退となる。また、日の出の瞬間から1分間はボーナスクイズとなり、正解した場合は倍の2ポイントが与えられる。
このクイズ、今でこそ「タイムレース」の名で、クイズサークルの例会やオープン大会でもしばしば採用されるが、このときは目からうろこが落ちるほどの斬新なクイズだと思った。
なにしろ、何点とったら安全なのかがまるでわからない。
今から考えれば、ここで敗退するのは最下位の1人だけなので、たぶん、無茶押しはせずに確実にポイントを確保するのが勝利への基本戦術だと思う(注:タイムレースは勢いがものを言うので、慎重にやりすぎると全く答えられないままに終了してしまうこともある)。焦る気持ちから誤答・お手つきをすると自滅しかねないのはその後の実戦をみても明らかで、正解するよりも間違えないほうが本来はより重要なのだろう。
だが、このときの僕は無難に勝とうなどとは微塵も考えていなかった。
早押しクイズで、しかも無制限に出題されるクイズ。手数の多さが思い切りものを言いそうだ。僕にとっては願ってもないルールだと言えるだろう。僕の頭にあったのは「真剣勝負」の四文字のみ。今回ばかりはノーブレーキで、がんがんいこう。他の挑戦者には答えさせないくらいの勢いでいこう。そう思っていた。

そして、いよいよ「日の出タイムショック」のスタート。
それではここで出題されたクイズと正解、解答者をみていこう。なお、気がついたところには短い補足をつけることにする。

01Q.「夜明け前」を書いたのは島崎藤村。では、「ゴルフ夜明け前」を書いた落語家は誰?(A.桂三枝)稲川○+1
02Q.セニョーラとセニョリータ。独身娘に対して使うと怒られるのはどっち?(A.セニョリータ)稲川×±0 ※2択問題。独身女性ときたのでセニョリータと答えたが、その後にひねりがあった。
03Q.スペインの征服者コルテスが上陸した港は?(A.ベラクルス)高橋麻×-1
04Q.ひねくれた人が曲がっていると言われる体の部分はへそとどこ?(A.つむじ)高橋麻×-2
05Q.釈迦が誕生した所は現在の何という国?(A.ネパール)高橋麻×-3
06Q.手旗信号。白旗を持つのはどっちの手?(A.左手)山賀○+1
07Q.既婚女性が結婚式などに着る「江戸褄」とは何の別名?(A.留袖)山賀○+2
08Q.桃の節句と同じ日に、語呂合わせで設けられたのは何の日?(A.耳の日)高橋充○+1
09Q.ボクシングのトレーニングにも用いられ、英語で「ロープスキッピング」と言われるのは何?(A.縄跳び)高橋麻○-2
10Q.中国料理の中で、漢字で雲を呑むと書くものは何?(A.ワンタン)高橋充○+2
11Q.ヒラメやカレイの背ビレ・腹ビレに沿った部分をなんと言う?(A.えんがわ)宇田川○+1
12Q.「ロミオとジュリエット」。二人の出会いから悲劇的な死までは何日?(A.5日)宇田川○+2
13Q.日本の小京都。萩は山口県。では津和野は何県?(A.島根県)稲川○+1
14Q.ケーキなどの香りに使うエッセンスとオイル。香りが長持ちするのはどっち?(A.オイル)高橋麻×-3
15Q.週に一回発行するのは週刊誌。では、10日おきに発行されるのは何?(A.旬刊誌)稲川○+2
16Q.樹木の発散する化学物質を利用した健康法と言えば何?(A.森林浴)高橋麻○-2

ここから日の出が始まり、ボーナスクイズ。
17Q.アラン・ドロンの出世作。ニーノ・ロータのテーマ曲でおなじみの映画は何?(A.太陽がいっぱい)柳井◎+2 ※柳井さんの読み勝ち。予想していたのか?
18Q.「聞けわだつみの声」。この「わだつみ」とは何のこと?(A.海の神様)スルー
19Q.第一次世界大戦を舞台にしたヘミングウェイの出世作は何?(A.陽はまた昇る)稲川×+1 ※僕が答えた「武器よさらば」も第一次世界大戦が舞台だと思ったのだが。ここは出題意図を読めなかった僕のミス。
20Q.メキシコのメリダにあるオーラン病院の前に銅像が立っている日本人医学者は?(A.野口英世)スルー

ここから再び通常問題。
21Q.京都の広隆寺にある国宝第1号の仏像は何?(A.弥勒菩薩)稲川○+2 ※いかにもクイズといった問題。
22Q.「ユアン」といえばどこの国の通貨単位?(A.中国)稲川×+1 ※どこの国の~と聞いて、たいていは答えられるだろうと思ったが、あまりの意外な展開に答えられず。
23Q.昭和49年、日本の女子プロゴルファーとして、初めて海外タイトルを獲得したのは誰?(A.樋口久子)スルー
24Q.人形劇ドラマ「サンダーバード」はどこの国のテレビ映画?(A.イギリス)稲川○+2 ※僕の小学生の頃にやっていた。けっこう好きな番組。
25Q.モモイロ・アカ・シロ・クロに共通する海の生き物は何?(A.サンゴ)稲川○+3
26Q.歌舞伎俳優のファンクラブ「T&T」。玉三郎と誰?(A.片岡孝夫)稲川○+4
27Q.動物園の人気者「ラッコ」は元々何語?(A.アイヌ語)稲川×+3 ※何科と思って答えたら何語だった。冷静さを欠いたためのケアレスミス。
28Q.「雷の土地」という意味のヒマラヤ山麓の地名がついた紅茶は何?(A.ダージリン)稲川○+4 ※これまたいかにもクイズ問題。
29Q.お灸をすえる時のむこうずね上部のツボは?(A.三里)高橋○-1
30Q.マックス・ウェーバーが示した支配の3つの形は、伝統的支配、合法的支配と、もう一つは何?(A.カリスマ的支配)スルー

僕が自分の勝利を確信して我にかえり、ボタンから手を離したのは、ようやくラスト2問になったときだった。そのときまでの僕は、半ば無意識の中にいた。
そして、太陽が昇りきり、さわやかな空気に包まれた中での結果発表。

高橋充2・高橋麻-1・山賀+2・柳井+2・稲川+4・中村±0・宇田川+2

僕はトップだった。出題30問中12問に解答と、占有率も断然多い(つまり誤答も多くて正解8、不正解4)。留さんからも、「さすがだね、力でてきたね」と言われ、このときは正直悪い気はしなかった。
もっとも、ボーナスクイズの4問をはさんで、前半ほとんど答えておらず、逆に後半はほとんど僕が答えているのに、不自然さを感じた人はいなかっただろうか。この流れが本当にそのままならば、僕は後半に怒涛の攻めで逆転トップをとったことになるが、その結果の2点差ならば、留さんから前述のようにほめられるほどでもないような気がする。この真相については後述する。

そして、ここで敗退したのは、機内トップといわれた高橋(麻)。誤答の多さが仇となり(2択が全て裏目にでるという不運もあったが)、結局1問も答えなかった中村が勝ち抜けるという、おそらくはスタッフも想定していなかったであろう結果となった。

高橋(麻)の敗退が、第11回ウルトラクイズのひとつのターニングポイントだったことは、その後の戦いをみれば明らかだ。彼女は僕と同じく緊張しやすい性格で、それまでの戦いでも安定性を欠く場面が少なくなかったが、実力者であったことは間違いない。スタッフも第4回以来の女性クイズ王の誕生を切望していたはずで、彼女には大いに期待していたことだろう。
そして、もし彼女がここを勝ち残っていたならば、次のエバーグレーズのカルタクイズか、ワシントンでのクイズサミットで僕が敗退していた可能性は高く、第11回ウルトラクイズの様相は全く違ったものになっていたと、僕は今でも思っている。

また、彼女の敗退に、僕が大きな影響を与えた可能性のあるのも否めない。
ここで最後の大きなネタバレをしておくと、オンエアされたカンクンの戦いの映像は、スタッフによる大きな作為が加えられている。それが映像の一部をカットしただけなのか、それとも出題順をも大幅に変えているかは、僕にもはっきりとはわからないが、重要な改変をしていたのだけは確かだ。

実は、僕のここでの獲得ポイントは、4ポイントではなく、9ポイントだった。つまり、最低でも正解5問分がカットされている。
僕の中に残っている断片的な記憶をたどれば、ここでのクイズで、僕は前半戦からリードしていたと思う。カットされた問題には、いかにもクイズらしい問題が含まれていて、とんでもなく早いポイントでボタンを押していたものもあったはずだ。
もし、カットされたのが正解した5問だけだとしたら、総出題数34問中17問に解答と、僕の解答占有率は50%にもなる。クイズの冒頭でマイナススタートとなった高橋(麻)にとって、僕の情け容赦のない怒涛の押しはより大きなプレッシャーとなっただろうし、本来ならば高橋(麻)が答えられたはずの問題のいくつかも、僕がその芽を摘んでいたに違いない。

スタッフが僕の正解をカットして点数を低くみせたのは、ここであまりに点差がつくのは、視聴者にとって興ざめだと判断したからだろう。それでも全体における僕の解答数があまりに多かった(逆に言えば他の挑戦者の解答数が少なかった)ために、自然な形のまま編集して接戦にみせるには限界があり、その結果が前半は実力伯仲、後半は稲川ばかりが解答するという、極端な形にまとめざるをえなかったんだと僕は考えている。

・・・・・

スタッフが期待していた激戦や接戦が展開されず、僕がまわりの空気を読まない暴走をしたために、ここでのクイズが終わった後のスタッフミーティングにおいて、スタッフの多くは僕の戦いぶりを一様に激怒していたと言う。
だが、その話を人伝えに聞いても、僕には悪びれる気持ちは全くおきなかった。

「こっちにはこっちの事情があったんだよ」

(終わり)