(前回のつづき)

バカンスの最後に罰ゲームをやらされることになった翌日、僕と高橋(充)の2人はいまだにひりひりする肌と寝不足で最悪のコンディションのまま、乗用車に乗ってチチェンイツァに向かった。

ひたすらジャングルの中を1本の舗装された道が延びており、車は猛スピードで走り続ける。ところどころに集落が点在しており、その入口と出口のところだけは道路を横切るように凸状の段差が設けられていた。たぶん、交通事故の危険を少なくするために、車のスピードを緩める目的で設けられているのだろう。同じものを地元の大学の構内でもみたことがある。
飲食物や手づくりの土産物らしきものを販売している店も集落の中にはいくつかでていた。たぶん物価も安いに違いないから立ち寄りたいなと思いつつ、もちろんそんな余裕もないので許されるわけもない。
そんなこんなで2~3時間ほども車で走った後、ようやく僕たちはチチェンイツァに着いた。

このチチェンイツア、ピラミッドが「新・世界の七不思議」のひとつに選ばれたりして、相当注目されている。カンクンと同じく、今やメキシコ観光の定番ともいうべき観光地だ。
だが、当時はまだまだ日本では無名に近く、僕も実はほとんど知らなかった。ウルトラクイズの影響か、メキシコのピラミッドといえば、すぐに頭に浮かぶのは、ティオティワカンの太陽のピラミッドだ。
それと、第11回ウルトラクイズで訪れたときは、スケジュールの都合だったと思うが、クイズが終わるとすぐに出発してカンクンに戻ってしまい、戦士の宮殿とか生け贄の池とかも見られずじまいだった。後のアサヒ・スーパードライのテレビCMで、落合信彦がこのチチェンイツアを背景にビールを飲んでいたとき、本当に残念だったと思った。

車を降り立った僕たち2人は、カメラがまわるまでもなく、その場でリンカーン組と再会した。しかし、温井の姿がない。ついに運も尽きたかと思うこと半分、残った人数をみて、だいぶ絞られてきたなと思う気持ちが半分だった。

ここからはオンエアされたシーンである。

荷物を持った僕たちは、留さんに案内されるままに、ピラミッドに近づいていった。そして、観光客が上り下りする面(注:階段の中央に鎖がつけられていて、この面だけが観光客の上り下りが認められていたような気がする)を左側に回りこむと、視界に入ってきたのは、見るからにクイズのセット。階段の途中に数字のパネルがつけられているのを見て、この階段を使ったクイズを行うのだとわかった。

ちなみに、留さんの「どんなことをやると思う?」との問いに、僕が「ジャンケンして、勝ったら、チ・ョ・コ・レ・イ・トとかって上がっていくんでしょう」と答えたのは、その場での思いつきである。階段でやる遊びと言ったら、やっぱりこれでしょうってな感じで自信満々に答えたジョークだった。
これを話したとき、僕の地元のルールでは「パーで勝ったらパイナップル」「チョキで勝ったらチョコレート」「グーで勝ったらグリコ」なんだけど、「グリコ」は企業名だからまずいだろうということで避けた。でも、そもそもこのゲームは全国共通なんだろうか? そしてこの僕の話は一般に通用するもんだろうか? などとちょっと心配だった。実際はどうだったんだろうか。教えてほしい。

「恐怖のピラミッド かけのぼり数字クイズ」

答は全て数字になるクイズが出題され、挑戦者は正解と思う数字を各々が表示する。正解ならばその段数を上がり、不正解の場合は自分が表示した数字分の段数を下がる。答に自信がない場合は表示するのを保留してもよく、その場合は当然上り下りはない。その繰り返しでクイズを進行し、92段ある階段を上りきった挑戦者が勝ち抜け。そして、最後まで階段を上りきれずに残った挑戦者が敗退、というルールだった。

「Q.国外脱出を賭けて戦った成田でのジャンケン。あの日から数えて今日で何日目の旅?(A.17日目)」

僕はとっさに自分の腕時計をみた。このときつけていた僕の腕時計には日付と曜日が表示されており、しかも僕はウルトラクイズの旅の間中、あえて時差による時計の調整は一切せず、日本時間のままにしていたからだった。
表示は22日の火曜日、成田のジャンケンは6日の日曜日だったから、6日から数えて17日目になる。

ここでは全員が答を表示したが、正解したのは、山賀・僕・宇田川の3人だけ。僕たち3人は階段を上り始めた。まるで自宅の階段を思わせるほど急な階段で、しかも手摺などは一切ない。ちょっとでも体を起こそうものなら、後ろに倒れてしまいかねないような感じだ。

第2問は、ここで出題された中では一番の難問だった。
「Q.1492年にインドをめざして探検航海を行ったコロンブスが、サンサルバドル島に上陸したのは、10月の何日?(A.12日)」※問題はうろ覚えなので正確ではない

この問題はさすがにわからなかった。ここで解答権のあった僕たち3人は誰も答を表示せず、第1問を間違えてペナルティボックスに入っていた残り5人も元の位置に戻った。そしてこの問題は結局オンエアされずに幻となった。

つまり、オンエアでは紹介されなかったが、ここではある問題に間違えて階段を下りる場合に段数が足りない場合、階段の下、僕たちが並んだ後ろに布いてあったシートの中に入り、1回休みすることになっていた。たまたま唯一の機会となった第2問で誰も正解も不正解もなくカットされたため、このルールがうやむやになってしまったのだ。

それからの出題は、どちらかといえば簡単な問題が多かった。たぶん、ゴールまでの段数が92段と多かったため、難問を出題して収拾がつかなくなるのを恐れてのことだろう。個人的には巨人軍の永久欠番や祝日のような、答が複数ある問題とかを、もっとだしてほしかったと思う。

その後の山賀・僕・宇田川の3人は、順調に正解を重ね、6問目(オンエアでは5問目)にゴールに到達した。そして、柳井・高橋(麻)・高橋(充)の3人が勝ち抜け、最後は大学生同士、中央大学の中村と、慶應義塾大学の藤村の2人の対決となった。
一進一退でどちらが勝ってもおかしくなかったが、最終的に中村が抜け出し、ゴールにたどり着いた。僕たちは留さんに促されて狭い頂上で万歳をしたが、何人かは元気がなかった。好青年だった藤村の敗退に心を痛めていたのだろう。

それにしても、ピラミッドの頂上からの眺めは絶景だった。ここに来るまで、車はひたすらジャングルの中を走っていたが、その答がこの風景だ。
ピラミッドの周囲は、360度、どこをみても緑色のジャングル。その広さたるや半端ではない。地平線に至るまでが全て緑色なのだ。水平線ならぬ、緑の地平線をみたのは、これが最初で最後だった。

「ここは日本ではない」

僕は、自分がウルトラクイズで海外にいることを、改めて実感するのだった。

(いよいよ核心に向けて、つづく)