(前編からのつづき)

デンバーで泊まった翌日、空港にはなんのトラブルもなく、僕たち3人は、いよいよカリブ最高のリゾート地・カンクンに向かった。
そして数時間後、カンクン空港に降り立った僕たちを出迎えたのは、高温高湿のカリブの熱気だった。

とはいっても、このときの僕は、これからバカンスを過ごすことになるカンクンのことを、ほとんど何も知らないでいた。
この10年ほど前に、ユカタン半島の北岸にあったジャングルを切り開いて開発された、新しいリゾート地。ラグーンにはさまれた細長い砂洲の上に、まだ真新しいホテルが、いくつも並ぶ。人工的に開発された観光地らしく、物価は周辺と比べて10倍も高いという。

僕たちが入ったのは、数多くのホテルの中でも、たぶん1、2を争う最高級の巨大リゾートホテル。後に日の出タイムショックの舞台となるホテルだった。ホテルの敷地内にも広大なプールがあるが、そのすぐ向こうは、信じられないくらい粒の細かい白い砂浜、まさにパウダーサンドというにふさわしい。そしてその向こうには紺碧の海が広がり、近づいてみてみると、透明な海水の底には、白いパウダーサンドがそのまま広がっている。
第11回ウルトラクイズの旅において、グアムよりもハワイの海のほうがきれいだと思ったが、このカンクンの海は、そのハワイよりももっともっときれいだった。

いよいよバカンスの始まり。さてどんなバカンスが待っているのかと思いをめぐらす僕たちだったが、チェックインを終えたプロデューサーは、僕たちのところへやって来ると、部屋の鍵とともに、一人200ドルずつの現金を差し出した。

「まあ、これからは2人で、自由にやってくれ。」

つまり、200ドルはよく言えば僕たちの小遣い、悪くいえば生活費で、バカンスの間は全て自由行動というのが、バカンスの正体だった。

その日の夜、僕と高橋(充)は夕食をすませた後、ラウンジで行われていたショーを見物しに行った。いかにもアメリカ人のエンターティナーといった司会者がでてきて、客席の宿泊客らに話しかける。

「ニューヨークから来た人」
「カリフォルニアから来た人」
「カナダから来た人」
 ・・・・

宿泊客たちがどこから来たのかを想定しつつ、順にその場所をひとつずつ挙げていって、該当者が歓声をあげている。
しかしながら、「日本から来た人」との問いかけは、最後までなかった。それもそのはず、当時のカンクンは、古くからのリゾート地であるマイアミやアカプルコに飽きたアメリカ人たちが、より新しいリゾートを求めて立ち寄る場所で、日本人はまだ1ヵ月に数組程度がハネムーンで訪れるだけのようだった。今日のメキシコ観光の定番となった感のあるカンクンとは、全く状況が異なっていたのだ。

翌日、僕たちはなんとはなしに過ごした。カンクンがリゾート地とはいっても、主要なものは全てホテル内にあって、ホテルを一歩外に出れば、特にこれといったものは何もない。おまけに物価が高くてぜいたくもできない。僕は元々泳ぐのが苦手だったし、それほどアクティブではない高橋(充)も、休日を持て余していたようだ。(注:実はこの日の記憶は曖昧で、ひょっとしたらこの日自体がなく、この日の記憶は前日のものだったかもしれない。なぜって、リンカーン組がバッドランドの翌日から移動・クイズ・移動という動きをしていれば、カンクンのバカンスは元々が中3日、デンバーでロスした分を含めると2日しかなかったことになるのだから・・・)

そしてバカンスの最終日、僕たちにはとんでもない罰ゲーム?が待っていた。

朝、ドアをノックする音がするのでドアを開けてみると、リンカーン組と同行していたはずの出演者担当のディレクターが立っていた。
ディレクターが強い調子でまくしたてる。

「なんだあ、おまえら。4日間のバカンスを楽しんだとはとても思えないほど白いじゃないか」

僕たち2人はディレクターに連れられ、プールサイドにでた。途中ショップでディレクターが買った、日焼けオイルの一番きついのを渡されると、全身に塗るように言われる。

「今日は、このまましばらく日焼けをしろ。入室を禁じる」

というわけで、僕たちは数時間も炎天下で日焼けをさせられることになった。

そして、午後もたいぶ昼下がりになった頃に再びディレクターがカメラマンを伴って登場すると、今度はバカンス風景の収録が始まった。
思い切りネタバレだけど、まあいいだろう。つまり、オンエアでリンカーンのときにやっていたバカンス風景は、全くのやらせである。そのときだけは、僕たちは美女からココナツジュースをもらって飲み(僕はオンエアのこのシーンは音楽と動作がマッチしていてたいへん気に入っている)、バカンスを満喫しているように紹介されたが、そんなのはここだけのことだった。

その日の夜、僕と高橋(充)は日焼けで肌が真っ赤になり、激しい痛みにのた打ち回っていた。タオルを水で冷やして肌に当ててみるものの、熱が全くひかない。「これぞ因幡の白兎状態」と笑えないギャグを思いついていた。
ちなみに、ここで日焼けしたため、つづくチチェンイツァやカンクンでの戦いでは、僕はきれいに日焼けしている。しかしそれもそこまで。ワシントンのあたりからは、無理がたたって肌がぼろぼろになっていた。今ビデオをみても痛々しい。

そしてチチェンイツァの戦いを翌日に控えたこの夜、僕はリンカーン組(リンカーンで敗退した温井を除く)がすぐ隣のホテルに泊まっているのを、全く気がつかないでいた。

(チチェンイツァへつづく)