(前回のつづき)

バッドランドで、僕と高橋(充)の一足跳び組と、その他7人のリンカーン組に分かれた僕たちだったが、バカンスへの出発は翌日早朝、ということで、別々の車でラピッドシテイに戻った。
但し、リンカーン組は元のホテルに戻ったものの、僕たち2人が連れて行かれたのは、元のホテルからは歩いて5分ほどのところにあるモーテルだった。

このモーテル(といってもラブホテルではない)というのが、とにかく怪しかった。
「ターミネーター」とかのアメリカ映画やテレビドラマにでてくるような、平屋で各部屋が横並びになっていて、車が部屋のまん前に駐車できるようなところ、ドアを開けるとすぐにベッドルームといえば、想像がつくのではないだろうか。
たぶん、ラピッドシティにはホテルらしいホテルが元のホテルのひとつしかなかったので、スタッフとリンカーン組をそのホテルに留め置き、僕たちだけをこのモーテルに移動させざるをえなかったのだろう。ドアを開けて遠目に元のホテルを眺めつつ、「どちらが上位の勝ち抜けなのかわからないな」とこのとき思った。
夕食もたしか50ドルばかりを渡され、僕と高橋(充)だけの2人で、モーテルの隣にあったステーキハウス?で食べた。夕食後に部屋に戻ったとき、元のホテルの電話番号を知っていたので試しにかけてみたところ、リンカーン組はひとつの部屋に集合していて、宴会になっていたようだった。なんとなくさびしかった覚えがある。

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そして翌日の朝早くモーテルをでた僕たちは、カンクンに先乗りする制作会社のプロデューサーと3人で、ラピッドシティ空港に向かった。
いよいよカンクンでのバカンスが始まるのだ。おまけにクイズも当分ない。つまり、敗退=即帰国の危機が少しの間だけだが、ない。開放感とも安堵感ともとれる、中途半端な気持ちだった。

だが、ラピッドシティ空港に着いてすぐ、僕はとんでもないミスをしていることに気がついて青ざめる。

「パスポートがないっ」

前夜泊まったモーテルがあまりに怪しいところだっため、万が一泥棒とかに襲撃された場合にパスポートを奪われないように、パスポートだけは枕元の家具の引き出しに入れておいたのだった。そして、そのまま忘れて空港に来てしまったというわけだ。

幸いにして飛行機の出発まではまだ時間があったため、プロデューサーが元のホテルにいるツアーコンダクターに電話をしてたたき起こし、このツアーコンダクターがモーテルに出向いてパスポートを回収した上、空港まで届けてくれた。
この一件で、制作会社のプロデューサーからは、バッドランドでバッファローに似ていた話とあわせて、「バッファロー・タコス・稲川」という、ありがたくないニックネームをつけられてしまった。


ラピッドシティは地方空港にすぎないため、いったんは国内線のハブ空港になっているデンバー空港に行き、ここでカンクン行きの飛行機に乗り換えることになる。僕たち3人は、4日前に一度降り立っているデンバー空港に、再び立ち寄った。何度みても、国内線用の空港とは思えないほど巨大だ。ターミナル間が非常に離れているため、空港内をコンピュータ制御の電車が走っているほどの巨大さなのだ。

でもまあ、あくまで立ち寄り地だから、ゆっくりはできないなと思っていると、ここでまたトラブル発生。なんと空港一帯に低くたれこめた霧のために、飛行機が発着できないという。

しばらく待ったものの、結局この日はデンバー空港からカンクンへ行くことはできなくなり、僕たち3人は仕方なく空港に隣接する近代的なホテルに泊まることになった。

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こうして、カリブ最高のリゾートで過ごすはずの4日間のバカンスの初日を、僕と高橋(充)はカンクンにたどりつくこともなく終えた。

(後編に続く)