(前回のつづき)

荒涼とした風景の中、不意に道路近くにたくさんの解答席が見えてきたかと思うと、僕たちを乗せたバスは停車し、降車するように指示された。
いよいよバッドランドの戦いの始まりだ。

しかし、バスを降りてみてまずびっくり! 暖かだったデビルスタワーとはうってかわって、冷たい風がつきささる。
気温は8度。しかし、前日までが非常に暖かかったので、全く心の準備のできていなかった僕たちにとっては、まるで氷点下にでもなったかのように、気温が低く感じられた。直前に買ってもらったトレーナーを着込んでいたので、なんとか身体は我慢できるが、とにかく顔や口のあたりが寒い。頭の回転にも影響しそうだし、口がうまくまわるかも疑わしい。それでいてクイズ形式はみるからに早押しクイズなので、どんな展開になるか予想できない。

それと、自分の席に着席してすぐ、勝者席と思しきところにかかっていた札が気になった。

「ひと足お先にメキシコ行き」

あれっ? 事前に手渡されていた資料では、次の予定地はリンカーンのはず。なんでメキシコなんだ。(注:この時点ではまだ、「遠まわりのリンカーン行き」の札はかかっていなかった)

僕の疑問は留さんのルール説明で、ようやく解けた。

早押しクイズ。2ポイント獲得(1問正解1ポイント、間違いは-1ポイント)で国境越えクイズに挑戦、そこで不正解の場合は0ポイントに戻って再び早押し席へ。そして正解の場合は、次のリンカーンをスキップしていきなりメキシコへ行き、カリブ最高のリゾート地で4日間のバカンスを楽しめるというものだった。
但し、国境越えできるのは先着2名までで、残りの8人は早押しクイズ2ポイントで勝ち抜けて遠まわりのリンカーンへ行く。そして最後までの請った1名が敗者になる。

国境越えのルールと枠が2名と聞いた僕は、帽子をかぶりなおして気合を入れた。敗退=帰国して即辞表の僕にとって、敗退のリスクをわずかでも少なくしたいというのが正直な気持ち。もし気分的に余裕があれば、あるいはリンカーンを飛ばすのはもったいないと思ったかもしれないが、このときの僕には、リンカーンに行く気などはさらさらなかった。

・・・・・

そして、いよいよ実戦。
それでは、ここでの戦いぶりは、高橋(充)と僕、そして宇田川に焦点を絞ってみてみよう。

Q.おやじの川、オールマン・リバーという別名をもつアメリカの川は?(A.ミシシッピ川)

最初の1問を答えたのは宇田川だった。しかし、すぐに高橋(充)の怒涛の攻めが始まる。

Q.合衆国・ユナイテッドステイツといえば、アメリカと/もうひとつどこ?(A.メキシコ)
Q.乾燥した空気の成分は、大部分が窒素、次が酸素。ではその次に多い/成分といえば何?(A.アルゴン)

続く第2問を高橋(麻)が答えた後、高橋(充)が連続正解。この2問はどちらもクイズ知識としては常識に近く、僕もボタンを押したが、2問とも高橋(充)に押し負けた。この日の高橋(充)の冴えに、尋常ならざるものを感じた。

Q.松や杉の樹脂が化石となった、中国でいう七宝のひとつといえば何?(A.琥珀)

2ポイントを獲得した高橋(充)は、1人通過席に立った。そして上の問題。正直このときの僕には答が浮かばなかったのだが、高橋(充)はひと呼吸おくと、なんなく正解を答える。
まさに完璧な圧勝劇だった。同じクイズ経験者とはいえ、このときまで、僕は高橋(充)のことを全くマークしていなかった(失礼!)。それが、勝ちにいった勝負で、僕は高橋(充)に完敗。ショックというか、そんな気持ちにもならないほどの、あっという間の勝ち抜けだった。

Q.地球が自転しているのを、振り子の/実験で証明した、19世紀のフランスの物理学者は誰?(A.フーコー)
Q.「地球は青かった」の名言で知られるガガーリン少佐が乗った、ソ連/の有人宇宙船の名前は何?(A.ボストーク1号)

高橋(充)が勝ち抜けて残り9人となってから、僕はようやく早押しクイズで正解する。1問おいて上の2問を連続正解した僕は、問題を選んで通過席に立った。

Q.釣り用語で、魚が泳いでいる層のことを何という?(A.タナ)

ちょっと考えて答が浮かばなかった僕は、この問題に「生簀」と答えて挑戦者・スタッフ全員の大爆笑を受けた。間違えるにもほどがある。いくらマイナスがつかない場合はとりあえず何か答えるのが常とはいえ、なんでそう答えたのかわからないほどの大間違いだった。答を聞いてなんとなく聞いたことがあるような用語だったが、「魚が泳いでいる」から連想したのは「生簀」。う~ん、恥ずかしい。でも、わざとじゃないよ。

Q.ここバッドランドと同様、浸食作用によってできた、アリゾナ州/を代表する大峡谷といえば何?(A.グランド・キャニオン)
Q.有史以前の植物といわれ、樹齢3000年のものもある、アメリカ杉と/いったら何?(A.セコイア)

大間違いで0ポイントに戻った僕は、すぐに「グランド・キャニオン」を答えて挽回したが、ここで宇田川か゜「セコイア」を答えて2ポイント、通過席へと向かった。僕は大いに焦った。

Q.C.W.ニコルの小説、漢字で「勇ましい魚」と書く「勇魚(いさな)」は、どんな動物について書いたもの?(A.鯨)

僕はこの答にピンときたが、宇田川は知らない問題だったようだ。「熊」と答えて0ポイントに戻った。

Q.大自然に生きる動物たちの生活をテーマにした漫画「ジャングル大帝」の原作者/は誰?(A手塚治虫.)

その後2問ほど別の挑戦者が答えた後、この問題に僕が答えて2ポイント。2度目の解答席に向かった。

Q.アメリカでの題名が「ローンウルフ・アンド・キャブ」。翻訳本が22万部も売れた、小池一夫原作の劇画といえば何?(A.子連れ狼)

「子連れ狼」は原作本も読んでいたし、萬屋錦之介のテレビドラマも大好きでよく見ていたから、すぐにわかった。今度は確信をもって正解し、やっとのことで二つ目の国境越えの席を確保することができた。

その後、残り8人の挑戦者は、2ポイント勝ち抜けの早押しクイズに突入し、次々に勝ちぬけが決まっていった。通過クイズで一度不正解になり、0ポイントに戻った宇田川が勝ち抜けたのは7番目。そして、天国と地獄とはこのことをいうのだろう。前のデビルスターではトップで勝ち抜けた天沼が、ここでの敗者に決定した。

・・・・・

高橋(充)には完敗したものの、なんとか国境越えに成功し、一息つけたことで、この日の僕は満足だった。しかしここでの戦いが後に、僕に大きな衝撃を与えることになるのだ。

(つづく)