前回の説明で、第11回ウルトラクイズのクイズサミットでは、指名されないことこそ悲劇であり、「指名される=得点のチャンス」であることが、よくわかったことと思う。テレビで他の挑戦者の集中砲火(とりわけ稲川のいじめ?)を受けて沈没したと思われた中村が、実は繰り返し訪れるチャンスをものにできずに敗退したということを知っただけでも、クイズサミットの見え方が大きく違ってくるはずだ。

それでは、実際のクイズサミットはどう展開したのか、僕の心の動きを交えながら追体験してみよう。
※敬称略

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最初の指名権を争うクイズ「Q.現在のアメリカ大統領はレーガン、では副大統領は? A.ブッシュ」を答えた僕は、とりあえず指名権を得たことに安堵しながら、クイズボードを留めていたテープをひきちぎって中身を確認した。でてきた問題は以下の3問。1は確か六甲山だったと記憶していたし、2はアタック25の問題集でみた問題。そして3は誰に出題しても答えられてしまいそうな常識問題に思えた。

1「Q.日本で最初のゴルフコースができた都市はどこ? A.神戸市」
2「Q.縦割りにしたナスを油で焼き、練りミソを塗った料理を、鳥の名前を使って何焼という? A.しぎ焼」
3「Q.今年話題となっている税制改革。『少額貯蓄非課税制度』を一言で言うと何? A.マル優」

僕の最初の選択は、1のクイズを中村に出題することだった。実力者の高橋と宇田川は答を知っているかもしれなかったし、山賀はあてずっぽうで当ててしまうかもしれない。だいたいがこの手の問題は長崎か神戸、横浜あたりが答に思えるからである。そして中村は、答を知らなければ何も答えない可能性が高いというのがその理由だった。
見事予想通りに1ポイントを獲得した僕だったが、次の出題に当然2を選択したものの、誰に出題するかで大いに迷う。クイズらしい問題なので、やはり高橋と宇田川は答を知っているかもしれない。そして山賀は料理問題に滅法強い。中村はたぶん知らないだろうし、どう考えても中村に出題すべきなんだが、2問続けて同じ挑戦者を指名することが、ずいぶんと悪いことのように思われた。これが悩んだ挙句の「申し訳ないが中村くんにもう1問」というセリフにつながった。

2ポイントを先取した僕だったが、ここまでは得点しても全く表情を変えていない。クイズサミットの恐ろしさをわかっていたからである。ところが3を出題する段になって、急に笑顔いっぱいになる。それもそのはず、3は誰でもわかる問題だと思ったので答えて当然、3回続けて中村を指名したのは、2ポイントくれたお礼?として1ポイントと指名権をプレゼントするつもりだったからである。もちろんそれはその後の僕の苦しい戦いを意味することでもあったのだが……。
中村がこの問題を間違えたため、僕は3ポイント目を獲得した。だが、中村がこの問題をスルーして不正解になった瞬間、僕は首をかしげてくやしがっている。「何やってんだあ、中村」という気持ちのあらわれだった。

手持ちの問題がなくなったので、僕はディーラーから新しく3枚1セットのクイズボードを配られたが、中身をみてびっくり! 目の前が真っ暗になった。3問とも答えられてしまいそうな問題だったからである。
詳しく見てみよう。4は僕もキリンビールの新聞広告(1ページ広告)をみるまでは2本と思っていたので、簡単な問題ではないと思うが、どちらにせよ1本か2本の2択問題。でも、5と6は誰にでも答えられる常識問題だと思った。だいたい6なんか、その場で口ずさめば簡単にわかる。

4「Q.中国の伝説上の動物、麒麟に角は何本? A.1本」
5「Q.選挙の方法の一種で、主に北欧や西ドイツなどで採用され、日本でも参議院選挙で行われている制度は何? A.比例代表制」
6「Q.童謡『はと』『ななつのこ』『ぞうさん』。三拍子の曲はどれ? A.ぞうさん」

僕はとりあえず4を山賀に出題した。このときはなんとなく山賀に出題すれば、2本と答えるような気がしたからだ。こうして4ポイント獲得でリーチ、しかも他の4人は0ポイントのままという圧倒的なリード。しかしながら、僕の気持ちは暗かった。残りの2問で、最低2人が勝ち抜ける。勝負は次に配られる3問。そんな気持ちだった。
ここに至って初めて、僕はどうせ誰かが勝ち抜けるのならば、強い奴から勝ちぬけさせたほうがよいことに気がつく。かといって宇田川に出題するには不安がある(前回参照)。ならば「強敵の高橋くんに」ということで、5を高橋に出題した。たぶん宇田川でも正解していたはずだ。

その後、高橋がストレートで勝ち抜けるとはさすがに予想していなかったが、これは結局は僕にとって最高の形、計算通りというか、計算以上の結果だった。
そして、次の指名権を争う出題「Q.今年行われた世界初の太平洋横断ヨットレース。フィニッシュは大阪、ではスタートの都市はどこ? A.メルボルン」を快答した僕は、「行くぞ!中村くん」と元気いっぱいに6を出題する。「この問題、中村は当然正解する。そして僕は1度も指名されずに次の勝ちぬけがでる。勝負は次の指名権争いのクイズに僕が正解して得られる新しい3問。」僕の気持ちは先の先へと向かっていた。

ところが……
中村が6の問題をまさかの不正解にしたために、不意に僕の勝ちぬけが決定する。僕が一瞬あっけにとられたり、留さんの握手にきがつかなかったのもそのためである。そして、勝者席に向かう僕が発した一言、中村に向かっての「がんばれよ」の一言は、心の底から中村に勝ち抜いてほしいとの思いから、無意識に飛び出した一言だった。(この一言が嫌味のように思われたのはたいへん残念)

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その後、実力のある宇田川がなかなか指名されず、苦戦したのは周知の通り。彼は大半の問題の答をわかっていた。そしてそれは、一歩間違えば僕がそうなっていたという暗示だ。
もし、エバーグレイズで柳井が負けなければ50%くらい、そしてカンクンで高橋(麻)が負けていなければ80%以上の確率で、僕はワシントンの敗者になっていたであろう。それほどまでに恐ろしいクイズサミット、後にも先にも実際に行われたのが第11回ウルトラクイズだけなのも、当然といえば当然なのかもしれない。