夏休み短縮、土曜補習 ゆとり教育転換、総授業時数増加へ

 相次ぐ学力低下の批判を受けて始まった学習指導要領の見直しをめぐり、週5日制を維持しつつ総授業時数を増やすため、政府が夏休みの短縮や土曜補習を進める方向で検討していることが2日、分かった。「ゆとり教育」が導入される前の平成元年改定の教育課程水準に戻し、基礎学力を回復させる狙いがある。
 保護者や教育関係者、与党の中には「土曜は子供がダラダラしているだけ」などと週6日制の復活を求める声もあるが、週5日制は社会全体として定着し、諸外国の教育制度上でも標準的となっているため、制度としては維持する方針。
 しかし、学力低下批判が相次いでいることを重視し、次期学習指導要領では総授業時数の大枠を増加。その方策については、夏休みの短縮や土曜日の補習のほか、平日の放課後の補習、一日あたりの授業時間の増加などによって対応させる考えだ。
 夏休み短縮については(1)学校教育法の施行令では長期休日の裁量を教育委員会に委ねている(2)気候・風土の違いから長期休暇の運用実態は地域格差がある-といった事情を踏まえ、「全国一律の実施は難しい」(文科省幹部)と判断した。
 また、教科横断的な学習としながらも授業内容を各校の判断に任せている「総合学習」は、国語や数学などの基礎教科の授業時間数を圧迫しており、「学力低下の根源」との批判が強いことから削減する。
 教育課程のあり方は、文部科学相の諮問機関である中央教育審議会の関係部会で検討。基礎教科の充実や小学校低学年での授業時数増加を求める審議経過報告を昨年2月にまとめていたが、総授業時数の増加にまでは踏み込んでいない。安倍首相の所信表明演説も「必要な授業時数を十分に確保する」とするのにとどめていた。
 現在、教育再生会議で議論が進められているが、1月にまとめる第1次報告にも盛り込み、ゆとり教育の転換を促す見通しだ。同月に委員の任期が満了する中央教育審議会では、委員を入れ替えた新体制のもとで審議を再開し、具体的な検討作業を進める。
(1月3日8時0分配信 産経新聞)
引用 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070103-00000015-san-pol

学力低下論の火付け役となったのは,一冊の本「分数ができない大学生」だったかと記憶しております。
1998年告示,2002年度実施(小中学校)の学習指導要領は,
生きる力の育成とゆとりある教育をねらいとし,授業時数と教科の学習内容が大幅に削減されました。
これにより,国民の学力低下に関する意識がより深刻化。
さらに追い討ちをかけたのは,OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2003年調査国際結果で,
3つの観点「読解力」「科学的リテラシー」「問題解決能力」のうち,
「読解力」に課題があることが明らかになったことでした。

そこで,次期学習指導要領では総授業時数の大枠を増加することにし,方策として,
 夏休みの短縮
 土曜日の補習
 平日の放課後の補習
 一日あたりの授業時間の増加  など
ということを考えているわけです。

家族がそろって夕食をとることが難しいとか,
家庭でしつけをしっかり行う大切さなど,家庭の重要性が再認識されているにもかかわらず,
これでは逆行しているとしか言いようがありませんな。

さて,PISAの2003年調査で世界トップレベルの教育大国となったのはフィンランドです。
日本も「読解力」以外の2つの観点では,世界の1位グループに所属しているのですが,
先の3つの観点すべてにおいて日本より優れていたのがフィンランドなわけです。
そう考えると,日本は世間で騒がれるほど深刻な学力低下の事実はないのですが,そこをあえて,
もし国が真剣に学力低下問題を課題と認識するなら,
教育再生会議等では,イギリスではなくフィンランドの教育を参考にすべきですなぁ。

2005年1月27日,OECD東京センターは,中嶋博・早稲田大学名誉教授による
『OECD/PISA、教育大国フィンランドと日本の課題』をテーマにした講演会を開催しています。
これによると,

◇フィンランドは決して授業時間を増やしているわけではない。
 ・中学の授業時間は,年間555時間で,韓国の553時間とともに世界最低
  (OECDの「図表で見る教育」2004年版による)
  ※日本は980時間(中学校)
 ・学校は9時から2時の5時間制(昼休み含)
 ・金曜日は一切時間割が無く,週26時間中11時間が総合学習の時間(第6学年)
  ※日本は週27時間中3時間程度が総合学習の時間(第6学年)
   参考 学習指導要領のデータベース

◇フィンランドの学校には落ちこぼれがいない
 ・能力別学習ではなくグループ学習,少人数学習,個別指導,公民教育,環境教育の徹底
  ※公民教育とは,いわゆる道徳教育ではなく,人間として人間らしい教育のこと
 ・助け合いで落ちこぼれのない学校を実現
 ・詰め込み訓練主義と全く相反する理論である人格発達主義,社会化主義に基づく優れた教師の養成
 ・日常生活に根差した楽しい内容の教科書
 ・基礎学力が充分ついていないと思われるものは自ら,または教師の助言で,
  基礎の9年(7歳から16歳)コースの後に更に1年間履修することができる10学年期が設置されている。
  ※こうしたコースに進むことになっても,人から落第生などと言われることはなく,
   むしろよく勉強をしたということで評価される。

さらに中嶋氏は本講演で,次のように語っています。
 助け合いの学習は,OECD諸国では常識となっています。
 フィンランドでは,助け合いで落ちこぼれのない学校が実現しています。
 優れた教員養成にかける熱い思いと
 総合学習を強化して「生きる力」の育成を図るというフィンランドの教育は,
 我が国と全く逆と言えるでしょう。

日本には日本の事情がありますから,このまますぐ日本に適用するわけにはいきませんが,
少なくとも目指すべき方向は脱ゆとり教育ではありませんな。
つまり,次期学習指導要領で総授業時数の大枠を増加するとした今回の見直しは,
客観的な根拠に乏しい,まさに国民をだます政策と言わざるを得ませんなぁ。

参考までにOECDの図表で見る教育2006年版 日本に関するブリーフィング・ノートの内容をいくつか紹介します。

◇日本の学校教育は量的な面で高い成果を上げているばかりでなく、
 OECD「生徒の学習到達度調査(PISA)」(15歳児を対象とした主要教科の知識と技能の評価)によれば、
 質と公平性の面でも最も高い成果を上げている国の1つである。

◇日本の教育支出のGDP比はほぼ一定で推移しているが、非常に低い水準にある
 ・日本4.8%(2003年)   OECD平均5.9%

◇生徒1人当たり支出が平均以上であるにもかかわらず、
 日本の初等・前期中等教育の学級規模は依然として非常に大きい
 ・初等教育1クラス当たり生徒数 28.6人(韓国に次いで2番目)   OECD平均21.4人
 ・前期中等教育1クラス当たり生徒数 33.8人(韓国に次いで2番目)  OECD平均24.1人

◇学級規模が大きい理由の1つは比較的高い教員給与にある
 ・教員歴15年の日本の小学校,中学校教員の平均給与は4万5,753米ドル
  ※ドイツ、韓国、ルクセンブルク、スイスに次いで第5位

◇年間授業時間はOECD平均より少ない
 ・日本712時間  OECD平均758時間
  ※最多・・・オーストラリア981時間,最少・・・フィンランド530時間

◇教員の授業時間は比較的少ないが、総労働時間は長い
 ・小学校教員の正味授業時間  日本648時間/年  OECD平均805時間/年
 ・小学校教員の総法定労働時間 日本1,960時間/年  OECD平均1,698時間/年
  ※比較可能なデータのある全18カ国のうち最多

これらをもとにすると,例えばこんなプラン(美しい国 教育再生プラン(仮称))はいかがかと・・・。

  教育予算をGDP比1%増のOECD平均並みの水準にする。
 →人格発達主義,社会化主義に基づく教員養成に予算をかける。学級規模を小さくする。
 →優秀な教員が確保できる。学級規模を小さくするために教員数を増やす。
 →能力別学習ではないグループ学習,少人数学習,個別指導など実施しやすくなる。
  授業以外の仕事を多くの教員で分担でき,結果,楽しい授業のための準備時間が増える。
 →学力向上につながる。もしかすると子どもの不満も減っていじめも減る??

教員の給与を減らして,学級規模を小さくするための教員を確保すればよいかとも思ったのですが,
教員養成にかける予算の充実が難しく,優秀な教員が集まりにくくなりそうです。
これでは,学力向上は期待できませんなぁ。
そこで,改めてOECDの文言をみると,
 学級規模が大きい理由の1つは比較的高い教員給与にある
と書いてあるわけです。
あえて「理由の1つ」としているのですから,理由が複数存在する可能性を示唆しているわけですな。

ただ,現状では「美しい国 教育再生プラン(仮称)」は絵に描いた餅です。
親として子どもと接する時間をどのように確保するか。
新自由主義に基づく小さな政府づくりのために,
今や市場原理主義がはびこり,格差社会が助長されてしまいました。
格差社会の是正,つまり,脱・新自由主義なくして教育改革はありえませんな。