棚田は、山地に織り込まれた美しい景観だ。勾配を丁寧に均し、精妙に水を引き、並々ならぬ手間をかけて米をつくる。元禄の頃からの人々の営みが重ねられている。

 こうした景観を味わう立場からは意外なのだが、話を伺うと、受け継いできた農家の方々には棚田は嬉しいものではないそうだ。平野部の条件のいい田圃を得られず、やむなく山間部で辛い作業に従事したという代々の記憶が残っている。機械も入れられず、生産性は上がらない。なので耕作放棄で森に還るところも少なくない。

 したがって棚田の風景を維持するには、自然農法で高付加価値の米づくりにするか、稲作自体を楽しむボランティアが参画するか、になる。いずれにしても分散した所有権を集約し、耕作する人たちを組織化して、棚田ならではの耕作技術を継承・発展させる必要があると伺った。

 美しい景観の裏には、やはり人々の並みじゃない努力があるんだな。イベントや観光とは次元が違う。だからこそ貴重なのだろう。