タクシー運転手不足

 ロボタクシーの導入は、いまはタクシー運転手不足に紐づけられていると思う。

 実際、タクシー運転手は圧倒的に不足する。2019年には29万1千人だったが、コロナ禍でわずか5年のうちに約5万7千人が離職した。その平均年齢は60.2歳、約6割が60歳以上という高齢化も著しい。若い世代の新規流入も期待できない。政府が自動運転を政策課題にするのも、こうした実情を反映している。

 もし普及が主なら、素直に小馬智行やウェイモなどの参入を促せば良さそうだが、ロボタクシーも、自動運転の事故責任は運行責任者が負うことを根拠に、既存のタクシー会社に運行台数が割り当てられる制度になるのでは、と懸念される。そして既成業界ばかりに巨額の補助金や税制優遇措置が講じられた挙句に失敗することが予想される。

過疎地・都市部へのインパクト

 しかし日本でもロボタクシーが本格的に普及するならば、不動産市場も様変わりするだろう。

 いままでは過疎地や地方都市ではマイカーが移動手段の主体だが、加齢で身体・認知能力が低下すると免許返納して日常の足を失う。子どもたちも、一日数便のバス便に乗って遠くの学校まで通学している。しかし部活や塾には無理なので、早々に一家で市街地に転出する。こうして集落の存続も危ぶまれる。それがロボタクシー、さらに自動運転車が普及すれば、こうした地域でも高齢者や子どもたちの足になる。また在宅ワークが中心で、自然の豊かな環境を求める世帯にとっても、ロボタクシーがあれば田舎暮らしや二拠点居住の敷居も下がる。

 市街地では、ロボタクシーがマイカーを代替していく。都市生活者にとっては、高額の駐車料金や保険料、車両整備代、さらに退屈な運転業務を負担するより、都度都度ロボタクシーを呼ぶ方が合理的である、と判断される。マイカーは、ちょうど乗馬のようにサーキットで楽しむための乗り物になるのかもしれない。いま中心市街地の駐車場は、面積割合にして2~3割を占める。ロボタクシーに押されてマーカーが減ると、市街地の駐車場の需要も減る。こうした駐車場が、住宅や店舗などに有効活用されることになる。いま都心部で一年間に売買される土地の合計面積は、全体の0.5%以下と言われる。そうすると空いてくる駐車場面積は総計で40~60年分、これほどの供給増になるので、地価も下がって一般層にも手が届く水準になるだろう。ロボタクシーや自動運転車ばかりになれば、車間距離もいまの40mから40㎝にも縮められるので、車線と道路面積が減らせて、その分、緑地を連続させることもできる。徒歩主体、緑豊かで富裕層でなくても暮らせる都市に転換できる絶好の機会だとも言える。

業界秩序と生活者志向

 以上のように検討すると、ロボタクシーは単に運転手不足のタクシー業界を補完するものではなく、都市部でも過疎地でも暮らしを飛躍的に向上させる力を秘めている。その意味で、「何かあったらどうする」「業界秩序を守る」といった失敗必至の政策方針を黙認するのではなく、建設・不動産業界からも積極的に普及を求めて、車中心から人間中心の地域構造をつくることができないか、とも思う。