あ、安易なタイトルですみません…。何でもかんでも“えくすとら”ってつけておけばいいと思うなよ!
前回からの流れで、うおおこれはもうやばすぎて身悶えが止まらんガクブルというマンガにぶち当たってしまい、感情の奔流をいかんともしがたく、駄文をしたためる次第です。夜中に書いたラブレターばりに支離滅裂ですが、何卒ご了承のほど…。


『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』(作・水城せとな)というマンガに、ここ数日、メロメロになっております。
普通、どんなに面白いマンガでも、読み終わった直後に再読することはめったにありません。マンガは一気に読んでカタルシスを得るのがいちばんよいのであり、ネチネチと読み返しても最初のカタルシスが失われていく可能性が大いに懸念されます。
ところがこの2冊、3日で10回は読んだであろうという執拗な再読っぷり。それも、頭から終わりまで。エロの場面だけ繰り返して読んでいるというなら単純で分かりやすいものの、全部読み通してしまうなんて、尋常ではない事態です。マジで仕事が上の空だお…(小声)。


ひょっとしてこれは、わたしのゲイ術コレクション(笑)の中で『モーリス』に匹敵してしまう作品なのではないでしょうか? 少なくとも、マンガ部門に『モーリス』はいないので、その座に鎮座していただくにやぶさかではないのですが…あっでも、『風と木の詩』『日出処の天子』という二大古典についてはいかがしたものか…。最近読み返していないから比較は難しいな。
ってまあ、比較なんかしなくても、このシリーズはあちこちでとっくに最高評価を与えられており、今さらわたしがここで誉めそやしても白けてしまうんですけどね。秀逸なレビューもネット上にたくさんありますし。


最初、表紙から漂ううっすらとしたBLっぽさと、気取った雰囲気のタイトルに、読むのを躊躇っていました(今さら躊躇うなよ!って感じですが…)。
それに、Amazonでは相当な高評価だったものの、本の紹介文を読んでもさして魅力を感じなかったのです。Amazonに行って読んでいただければ分かるのですが、要約すると「優柔不断なノンケの主人公・恭一が、ゲイの後輩・今ヶ瀬に弱みを握られ、黙っている代わりに『貴方のカラダと引き換えに』と要求される――」ですよ。た、単純! っていうか、“カラダと引き換え”なんてモロにBL的展開じゃないか!?


…はい、これらすべて、明らかな認識違いでした。本っっっ当にすみませんでしたーーー!!!


確かにストーリーだけなぞると単純に見えますし、女の子も絡んで三角関係になるなど、わりと王道で、現実世界でも普通にありそうな関係です(性別はともかく)。偶然が多発する件については、現実よりもドラマっぽいですが…。
でも、ややもすると陳腐に堕しそうな設定で、ここまで人の心を抉ってくるんですから、脱帽して膝をついて足を舐めるしかありません(最後のは要らないか…)。作者あとがきで、「ミクロコスモスはマクロコスモスと同等である」といったことを書かれていましたが、まさにそれが体現された見事な物語世界でした。


何がすごいって、二人の応酬と感情の流れ方が、恐ろしいほどリアルで緊迫感に満ちているんですよ。東京のどこかに、こんな二人が本当にいるんじゃないか、二人とすれ違っているんじゃないかと思ってしまうような生々しい息遣い。
最初は、ノンケの恭一がひたすら今ヶ瀬の熱情(とそれに裏打ちされた計算)に流されていくだけなのですが、時に立場が逆転し、再び逆転され、束の間の平和と幸福が訪れ、新たな戦闘が起こっては傷つけ合い、また寄り添う――ああ、なんて不毛な(笑)戦いなんだろう! 自分が壊れるほど愛してしまう方もつらいけど、そこまで愛されて何とか応えようとする方もつらいよね。愛される方だって木偶じゃないんだもの。
でも恋愛って本当は、“たった一人の君”にこだわり続ける以上、終わりのない戦いなのかもなあ。大概は結婚という形で落ちつこうとするけど…。かのランボーも「愛とは絶えず揺さぶり続けなければいけないものだ」と云っていたっけ。


まあ、そういう恋愛の普遍的な性質があますところなく描かれているので、あまたあるレビューでは、褒め言葉としての「これはもうBLではない」「BLを越えた」といった評価がよく見られます。
わたしはどっちかっていうと、BLという名称に親近感がなくてつい昔ながらの(?)“やおい”と云いたくなってしまうのですが、その、巷で云われているであろうBLの定義を無視してざっくりとBLを“男×男の恋愛モノ”だとすると、これはBLでしか描けなかった物語だと思うし、BLという土壌があってこそ生まれた傑作だと思います。
その主題が、BLの枠を越えていける普遍性を持っているから素晴らしいのであって、この物語から男×男の枠を取り外したら、多分ここまでの話になっていないのでは…? 男と女なら、どこかで妥協できたかも知れないことが、男と男だからできない。そのもどかしさを見るにつけ、やっぱりやおい(BL)は愛の純粋培養に必要な枠組みなのだわ、と勝手な持論を改めて確信するのでした。


ラストは、とっても個人的な意見ですが『モーリス』のその先を描いてもらえたような印象で、ああ読めてよかったなーとしみじみうれしかったです。雑誌連載→雑誌休刊→携帯配信という複雑な道程を歩んできた作品ということで、長い時間をかけリアルタイムでこの話を追っていたファンの人たちには、本当に頭が下がります…。


いやーこれ、ドラマCDも併せて買ってしまいそうです。今まで、ドラマCDなんてものが世に存在することすら認識していなかったのに、この恐ろしいハマりようったら…。
だってセリフがいちいち心に突き刺さるんだもの。暗誦できそうなくらい脳裏に焼き付いているんだもの。これはもうプロの肉声で再生したくなりますっての。
実写化したら、ファンのバッシングが恐ろしいことになりそうだけど、わたしは実写でも観てみたいなあ。色気のある上手な役者さんに、リアルとドラマが絶妙にブレンドされたこの世界を再現してほしい!
余談ですが、ノンケの先輩・恭一っぽい見た目の人が生活圏内にいまして、その人を見かけると恋ではないのにドキドキしてしまいます。マジで重症だろ…(汗)。


萌えポイントとしては、先輩の、要所で見せるゾッとするような男っぽさ。これは今ヶ瀬でなくても墜ちるだろう…少なくともわたしは墜ちるわ。
そして、今ヶ瀬のクールな仮面の下に沸々と燃えたぎる薄暗い情念がたまらん。好きな人以外には徹底的に冷たい感じとか(笑)、理性が崩れ落ちたときのどうしようもない弱さとか。
ベクトルは違うけど、どちらも色気あふれるキャラクターだと思います。


ガチンコの濡れ場が何回か(も?)出てきますので、男性には手放しで薦めにくいですが、フィクションと割り切って読める人には、ぜひこの濃密な恋愛宇宙を堪能していただきたいです。もちろん2冊セットでね!(こちらでどうぞ♪→野ぎく堂Online