足柄インターで下ろされたのは、10時30分。5分ほど椅子に座って一息ついたあと、二台目を探しに行きます。
大型トラックの駐車場をぐるぐる巡り、関西方面ナンバーに注目しつつ、運転手の人相などを見ながら物色。ヤンキー風の人は無意識に避けてしまいます(笑)。
奈良ナンバーの若い運転手に声をかけようと、トラックに寄っていくと、目が合った瞬間、手振りで断られました…ちっ。


次は、その隣の和歌山ナンバーに声をかけました。運転手は、まるっこい体型の、つぶらな瞳の(笑)おっちゃん。
「あのー、どちらまで行かれるんですか?名古屋方面へ行かれますか?」
「いや、三重や。どこ行くん?」
「実は名古屋ではなく大阪なのですが、名古屋くらいまで乗せていただければ、そこからまた車を拾って行こうかと…」
「大阪か。そうやなあ、それやったら亀山で下りてな、そこから道が二手に分かれてんねん。大阪行くのと、伊勢神宮に行くのとで。そこやったら、大阪行く車ナンボでもあるわ。君、時間ちょっと待てるか?」
「出発、遅いんですか?」
「いや、そんなことないねんけど、もう一台の車がこっちに着よるから、それと連絡が取れたらすぐ出るんやわ」
「ああ、それならぜひ待たせていただきます!」


というわけで、二台目確保!ありがとーおっちゃんっ!!!
なんや、かなり順調に進んでるやんか!!!
おっちゃんはバリバリの関西弁でノリがよさそうだし、ヒッチハイカーにも慣れていそうだし、これはまた気安い人に当たったかも?

「めし食うたか?」とおっちゃん。お、これはもしや噂に聞く「ヒッチしてたら、時々おごってくれたりするよ」というやつか?でも、さっき朝マック食ったばっかだからな…。
もう食べました、と云うと、おっちゃんは「ほな、ちょっと飯行って来るわ」と食堂へ行ったので、わたしは車に残って、文庫本を読んだりメールを書いたりしながら、30分ほど待機していました。


12時15分、足柄を出発しました。
足柄は、静岡の東の端、ここから三重の亀山までは、まだまだ長い道のりです。
おっちゃんの飯待ちのときに沈黙を補給したので、最初っから飛ばして喋り倒します。ほんとはそんなキャラじゃないんですけどね…。


何しろ長い道中なので、ランダムに話題が飛びまくりました。
わたしがアフリカを旅行していた話をすると、おっちゃんも、昔マグロ漁船で働いていて、ケープタウンにはよく行っていたそうな。まだアパルトヘイトが存在していた頃で、「完全に白人と有色人種は分けられとった。でも、あれがなくなって、治安は悪なったやろうな」と云っていました。


マグロ漁船もそうですが、このおっちゃんは、歳にしては結構”旅”とか”異文化”に親和性のある人で、家にカナダ人の女の子が数年ホームステイしていたり、10代の頃バイクで四国八十八箇所を回ったりと、旅人のわたしには、かなり取っかかりやすいネタの持ち主でした。四国のお遍路はわたしもやってみたいので、あれこれと聞いてみたり。


わたしが29歳で無職と云っても、おっちゃんは別にヘンな顔もせず、まして説教垂れたりすることもありませんでした。
それって特殊なことではないのかも知れないけど、先日東京で、道を尋ねた若い男性と少し道中をともにしていたとき、「君、パパとママに食わしてもらってんのお!?ぜーたくだねええー」と思いっきりイヤミを云われたばかりなので、一般市民に対してちょっと怯えているワケですよ(笑)。


その辺の流れから、わたしが、結婚してちゃんと落ち着いた方がいいんですかねぇ…と話を振ると、
「そうか?オレはなー、結婚せんかったらよかったと思ってるで」
「ええ?でも娘さんは可愛いでしょ?」
「そら可愛いけども、やっぱり自由は無くなるからなあ」
「確かに…どっちを取るかですよねー。家庭持ったら自由はなくなるけど、その代わり寂しくないでしょう」
「でもな、寂しいのはいずれ慣れるで。でも、いったん手放した自由を手に入れるんは難しい」


途中、どこぞのインターで休憩。もう一台のトラックと合流しました。
運転手はブラジルの日系人。昔ブラジルを旅行していたと云うと、「どこ行ったの?サンパウロ?」なんて話がつながって、旅の経験は思わぬところで役立つのねーと、しみじみうれしくなりました。
彼は温かいお茶をごちそうしてくれました。


愛知に入ってしばらくすると、急に天気が悪くなってきました。
「この辺は冬になるといつもそうや」とおっちゃん。「ここだけ天気が悪いんや」。
長島スパーランドを通過する頃には、すっかり空は雨雲で埋め尽くされ、ほどなくして強烈な雨脚が襲ってきました。


4時過ぎ、伊勢湾道の御在所インターに到着。おっちゃんとはここでお別れです。
最初は亀山ということでしたが、御在所なら店が24時間開いているというので、万一次の車が拾えなかったときのことを考えて、そっちで下ろしてもらうことにしたのです。
「ここからは、2時間もあれば充分、大阪に帰れるはずやで」
「本当にありがとうございました!いい人に当たってよかったです!」
そう挨拶して、車を降りました。


いやーしかし、ここまで4時間近く、前の1時間も足すと5時間、喋りまくったな…。
少なくとも、5時間中85パーセントは口を開いていたような気がします。
普段は、人と話すのはそんなに得意な方ではないんですが、必要に迫られれば何とかやるもんですね。かなり明るくてさばけたキャラに変身してたもん(笑)。


まだ雨は降り続いていました。
とりあえずレストランに入り、雨宿りがてら、100円のチョコレートスナックを買って小腹を満たしました。ひと休みひと休み。