山陰地方にも記録的な寒波が到来して、明け方の外気温は-4℃にも下がっていた。

松江の積雪は、現在16cm。窓から見える風景は一面の雪景色だ。

私はベランダの屋外機の上で飼っている金魚達を心配していたので、午前5時頃にはもう、目が覚めていた。

今回の猛烈な寒波の報道を受け、とても温水ヒーターだけでは水温が上がらず、金魚達が凍える思いをしているだろうと思っていたからだ。


案の定、水槽の中の水は10度を切っている。

急いで給湯器から微温湯を差し入れ、水温を20℃まで上げられた事で、漸く少し安堵出来た。

ベランダの雪は、サンダルを履いていた裸足を凍らせるには十分な量が有ったが、ちっとも冷たくは感じ無い。正に、心頭滅却すれば火もまた涼しだ。

 

60cmの水槽の中には7匹の金魚と3匹の熱帯魚が仲良く泳いでいて、何時も私の心を癒してくれる。

丹頂の「オランダ」嚠金の「リュウ」、コメットの「マイコ」「サユリ」「タロウ」、赤金の「ブチ」「チビ」、熱帯魚の「コバルト」「アトム」「ウラン」と言う顔触れだ。

 

しかし今朝は、幾ら水槽の中を探しても「チビ」の姿が見当たら無い。

不吉な思いで屋外機の下を覗き込むと、凍った「チビ」が横たわって居るでは無いか。

大慌てで「チビ」を微温湯に浸けて、シャワーで凍た鰓を溶かしながら叫んだ。

「帰って来い、帰って来い!嘘だろう、死なないで。私の命を代わりに挙げるから」

「チビ」との思い出が走馬灯の様に頭の中を駆け巡る。

後から後から涙が溢れ出し、時か止まり、鼻水が凍った様な失望感に打ちのめされた。

 

諦め掛けて悲しみに暮れていた時、突然掌の上で尾鰭がピクリと動いた。「チビ」が蘇生したのだ。

藁をもすがる思いで水槽の中に戻してやると、「チビ」はヨロヨロと泳ぎ出した。

直ぐに仲良しの「リュウ」が心配そうに寄り添って来た。どの子もどの子も寄り添って来た。

私は目を見開き、口を半開きにして、何時までも「チビ」の容態の回復を観察した。

そして、奇跡を起こして下さった何かに、「有難う御座います」と、何度も言った。

もう、糸ミミズを食べ出した「チビ」を眺めていると、今度は嬉し涙で顔がグシャグシャになった。

そして私は、もう十分に生きたから、約束どうりに命を差し出そうと思った。