【キリスト】
12月の冷たい鉄格子越しに、微かに光が差し込む。
長崎県精神障害者支援センター再審査鑑定まであと1週間。
便箋用紙に50枚ほどの詳しいメモがある。
マンモス精神病院に措置入院させられた記録が記してある。
全ては再審査鑑定による退院請求が叶う可能性を高める為。
電子カルテの偽造に対する根拠と証明。
プレゼン用の質疑応答による
正常安定にして退院可能と印象付けるイメージトレーニング。
あとはその日を待てば良い。
不可能と諦めるより標準を合わせて全力を尽くすべきだ。
これは結果ではない。目的を持ち行動する事に意味がある。
それが精神を宿した俺のアイデンティティーに繋がる。
自己を自己として確信する自我を保つのだ。
長崎県精神障害者支援センター再審査鑑定は1時間延長して午後4時に終わった。
女医の精神科医と長崎県精神障害者支援センター長との
退院請求に対しての質疑応答が行われた。
提出書類と電子カルテとの融合性と長崎警察署の事情聴取による判断だった。
プレゼンは完璧だった。驚きと戸惑いの表情が2人から伺われた。
退院請求の判断通知は非公開での内部委員会による判断に託される。
請求が通る確率は0.01% 疑わしきは認めるはずはない。
左下奥歯の親知らずが疼く。睡眠が取れない。
看護師5人を連ねて、院内の歯科を受診する。
「横向きに生えてきていますので、大きく切開することになります。」
「酷く貼れますので、1ヶ月以上腫れは引かないでしょう。」
抗生剤だけを処方してもらって、痛みに堪える事にした。
39.8℃の熱が出た。親知らずの炎症ではなく、風邪を引いたようだ。
悪寒が止まらないので強化ガラス越しにハロゲンヒーターを置いてもらった。
極寒のアイスランドのレンガ造りの一軒家の中の暖炉で
チロチロと燃えるオレンジ色の火に似たハロゲンヒーターの光を投影した
隔離室の壁に映る自分の影を確認して安堵した。
まだ俺は有機体として存在しているようだ。
年が越えてゆく。
【C3病棟@】闘病記