"古時計と、おじいさん"


昔あるおじいさんがいた。

おじいさんは古い時計を
ゴミの中から拾ってきては、

磨けあげ、修理し、
新品同様の時計に
仕上げるのが趣味だった。


そんな、おじいさんが
時計を修理し始めて
10年目、今から20年前の
ある夏の日の事だった。

おじいさんの元に
1人の白い帽子がよく似合う
若い男が古い壊れた
大きな掛け時計を
大事そうに抱えてやってきた。

話しを聞いてみると、
なんでもこのへんに
時計を治す達人がいると
聞いてやってきたのだそうだ。

その若者の手にしている
時計はなんでも若者の祖母の
形見でもう一度動いてる
姿が見たいのだそう。

おじいさんは達人と呼ばれたことに
気を良くし、快く修理を引き受けた。

若者は頭の上の
帽子に手をかけ
ぺこりと小さな
会釈をし足どり軽く
おじいさんの元を後にした。

しかし、時計を見るなり
おじいさんは難しい表情。

その時計はおじいさんの
想像をはるか上を行く
年期がこもっており

趣味で時計修理をしている
おじいさんの力では
どうにもできなかった。

おじいさんは

しかし、おじいさんは
何かに気づいたように、ふと
壁にかかったカレンダー目をやり
表情をぱっと明るくした。

今日は水曜日。
明日は木曜日。
と、おじいさんは
うっすら笑みを浮かべながら
小さくつぶやきました。

翌日、おじいさんの住む町は
粗大ごみの回収の日。

その町のはずれの
ゴミ捨て場には
ひどく古い掛け時計と

血で汚れ、かろうじて
白い帽子だとわかるものが
捨てられていた。

30年。