娘は時々国語の問題の物語の続きが読みたいと、その本を探しに図書館に行きます。

本が好きなのはとても良い事だけど、物語に入り込みすぎてしまう娘はテストとなると得点が取れませんねー泣き笑い

さて先週のサピックスの国語の題材。

『親指魚』

自分の父親が仕事のストレスでおかしくなり、失踪してしまう話。

娘はさっそく続きが気になり図書館で本を探しました。

『愛』をテーマとした16の短編集の中の1つの物語です。




読んだ感想…

えーんこわーい!読まなきゃよかった」

娘の中ではホラーなんでしょうね。

難しい…

小学六年生の女の子、幸子は三人の女の子の同級生と塾帰り電車に乗っていると、不審な男がいた。
「あそこのドアのところの人、幸子のうちのお父さんじゃない?」
男はネクタイの襟元をだらりとゆるめ、糸の切れた操り人形よろしく、クタンと首を垂れていた。
幸子は小さな声で言う。
「ちがうよ」
父を三度否定した・・・。
男は少し酔っ払ってるみたいで、独り言を言ってるのかと思ったら甘栗を夢中で食べていた。
皮をボロボロ床に落としていて、前に座っている女がわざとらしく、自分のスカートを手で払った。周りの人たちも揃って父から体を引いた。
幸子が否定した男は父親だった。

以前の父親は、ギターを弾いたりバイクに乗ったり、いろんな趣味を持っていた。でも、結局父に残った最後の趣味は、海水魚の飼育だった。今日も、家に帰ると窓際の水槽のところに行き、海水魚に手の中の甘栗を爪で削っては水槽に落としていた。

ある日のこと、父は会社にでかけたまま、帰ってこなくなった。
「もしかしてかけおちしたのでは?」幸子の言うことに母親は吐き出すように言う。
「だれが? あんな一文無しのオジンと・・・」
幸子は、一人、もしかしてここにいるのではと、水族館に父の捜索に行く。
父はおでこをガラスに押し付け、メガネを顔に食い込ませるようにして、水槽のナポレオンフィッシュを見つめていた。


父の名前をどなりながら、わたしは力いっぱい水槽のガラスをたたいた。たたきながら、さっきまで父のいた水槽の向こう側にはしっていった。


気がつくと、わたしはうす暗い林のようなところに立っていた。まわりを、魚たちがおよいでいた。父も両手を胸びれのかわりにうごかして、ふわりふわりとただよっている。わたしがかけよると、すいとよける。

円柱のうしろにかくれて、わたしは父をまちぶせした。腕をのばして、父の左手をつかまえた。ぐいとひっぱった。父は、力なくわたしのほうに引きよせられた。

終わりの時間がすぎたのか、林のような館内には、父とわたしだけだった。



「もう、おしまいよ。うちに、帰るの」

わたしは、父の左手の親指をつかんで、子供のころお人形をそうしたように、父をぶらさげて帰った。オットセイのような声で、「おえっ、おえっ」としゃくりあげるたびに、父のからだが小さく軽くなっていく。まるで、空気がぬけるみたいに。

わたしが家についたときには、父はもうわたしの手ににぎられている親指だけしか残っていなかった。どことなくナポレオンフィッシュの顔をおもわせる父の親指だった。

親指魚と名づけてやった。


わたしは、その親指魚を父の水槽にはなした。毎日かかさず餌をやって、心をこめて

世話をした。ときには、天津甘栗を買ってかえって、爪でけずってたべさせた。

今では、親指魚はすっかりなつき、餌をあげるとわたしの指をつつきにくる。

とてもかわいい。


(中略)


あれ以来、父のぬけがらのほうは、病院にはいって静養している……