この日解剖することになったのは、50代の男性。仕事をしていて、亡くなった。男性は、屋根裏で配線作業をしていた。電線が腕に接触してしまった。

一緒に作業していた人が男性の異常に気がついたのだが、どうしようもなかった。

 作業中に亡くなった場合には、労働災害の扱いとなる。死後に労働災害だと認められれば、遺族には手当が支給される。こういった場合、遺体を解剖することが多い。男性の場合、異常が起こった時の様子は他の人が確認しているのだが、念のために解剖して、亡くなった原因を詳しく調べることになっている。

 男性の体をみると、電線が接触した右腕に、銀色の筋のような傷ができている。体に電流が入った場所だ。電流が体に入れば、どこかから抜けるようになっている。男性の場合、左肩にブツブツとした点状の傷ができていた。電流が体から外に出た痕ということになる。男性の死因は、感電死と呼ばれる。

 これまでに数例、感電死の解剖をしたことがある。全員、電気工事の作業中の事故だった。配電盤の配線作業中に感電死した人もいる。亡くなった人の指には、電気が体に入った痕が残されていた。

 こうした事故が起こるのは、いつも夏だったように思う。夏であれば、皮膚に汗をかく。汗を通して電流が流れやすくなっている。感電事故が起こりやすい環境ということになる。

 どうすればこういった事故死をなくすことができるのだろうか。亡くなった人は、皆、働き盛りの人だ。家族を残して、突然亡くなってしまうことになる。法医解剖医としてできることは限られている。解剖して死因をはっきりさせることだ。後で問題が起きないように、死因をはっきりさせる。そのことくらいしかできることはない。