解剖する時に、心臓や肺を観察するために、胸の前側にある肋骨と胸骨を取り除く。胸の真ん中にある胸骨は切らない。だが、胸郭をぐるりと取り囲んでいる肋骨は切らなければならない。大きな金属製のはさみで、肋骨を切る。

 骨の硬さは、人によって違う。硬い肋骨を切ったときには「バキッ」と音がする。若い人の肋骨は軟らかい。切るときに、あまり力を使う必要はない。切った時に大きな音もしない。若い人の骨は、しなやかである。

 硬い肋骨は、一見すると強そうに見えるが、実際はもろい。

 心肺蘇生術を受けた人を解剖することがある。硬い肋骨は、心肺蘇生のときに押されると、「ポキッ」と折れる。左右対称に、肋骨が何箇所も骨折する。軟らかくてしなやかな肋骨は弾力があるので、胸を押されても曲がるだけだ。折れたりはしない。

 硬さを測る機械のようなもので、骨の硬さを調べることができたとすれば、硬い骨の方が強いということになるのだろうが、本当のところは、軟らかい骨の方が強い。「強い」という言い方が適当なのかどうかわからないが、少なくとも、体の外からの力に対してうまく適応できる。硬い骨は弾力性がなくなってしまっていて、外からの力で折れやすい。適応能力に乏しい。骨だけに限らないかもしれない。本当に強いというのは、一見強そうには見えない。しなやかさを保っていて、外からの変化に適応することができる。

 だれでも若い頃は、骨には弾力があって、力が加えられてもなかなか折れたりはしない。年齢を重ねると、骨は硬くなっていく。これは仕方のないことだ。

 せめて、頭の中だけは、硬くならないようにしたいものだ。考え方が硬直化しないように、すぐに頭に血が上らないように、何事に対しても余裕を持ってしなやかに対応できるようにありたい。