幸か不幸か、未だに原発巣が見つからず検査が続いています。週に2回ほど外来で通院しなければなりませんが、それでも家にいられる有り難さを噛み締めながら過ごしています。

 

 「大病をして、見るもの全てが真っ黒に見えた。世界が真っ黒になった。」と言った方がいたそうです。確かに私も「脳腫瘍」と分かった時は一瞬目の前が真っ黒になりかけましたが、逆にすぐ、すべてのものが色鮮やかに見えるようになりました。今までろくに目もくれずにいた様々なものが、これで見納めかと思った時、それぞれが光り輝いていたことに気づかせてくれたのです。

毎回のように書いていますが、仏教は、自分にとって都合の良い願いを叶えてくれるおまじないではありません。『諸行無常=良いことも悪いことも、すべてのものごとは同じ状態でいつまでも続くことはない』に代表される、人生の真理・生きていく上での智慧を示してくれる教えです。

私たちはどうしても、自分にとって都合の良いこと=嬉しいことばかりを求めてしまいますが、もちろん、そんなことばかりが続く訳もなく、嫌なこと悲しいことも、必ず起きてしまいます。しかし、そうしたことを、無かったこととして見て見ぬふりをするのではなく、しっかり受け止めることによって、他の人の悲しみ・痛みに寄り添うこともできるようになりますし、自らの人生に深みも加わることになるのではないでしょうか。

 

 誠にお恥ずかしい話ですが、私は病気になって初めて「健康」の有り難みを、文字通り骨身に沁みて感じさせてもらいました。

私ども浄土真宗の第八代、蓮如上人の『仏法には明日ということはあるまじく候』という言葉も、私は分かったつもりでいたのでしょう。

 『いただいたいのち』を最期までどう生きるのか。改めて自分と向き合う、大切なご縁をいただきました。