70点

Rotten tomato 批評家 94% 観客 76% (24/6/20現在)

鑑賞回数 初見

対象者 リューベン・オストルンド

 

解説

フランスのスキーリゾートにやってきたスウェーデン人家族の状況が、ある事件をきっかけに一変する様をブラックユーモアを交えて描いたドラマ。2014年・第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞するなど、各国の映画祭や映画賞で高い評価を獲得。日本では第27回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で「ツーリスト」のタイトルで上映されている。スマートなビジネスマンのトマス、美しい妻のエバ、そして娘のヴェラと息子のハリーは、一家そろってフレンチアルプスにスキー旅行にやってくる。しかし、昼食をとっていた最中、目の前で雪崩が発生。幸い大事には至らなかったが、その時に取ったトマスの行動が彼のまとっていた「理想的な家族の父親像」を崩壊させ、妻や子どもたちから反発や不信を買って家族はバラバラになってしまう。 

 

感想

私は「逆転のトライアングル」が無ければこの監督の存在、知らなかったかもしれないです(「ザ・スクエア」は気にはなってましたが、未見で監督が誰かまで意識していなかった)。ただ、「逆転の~」で彼の実質今鑑賞しやすい本作からの3作品はいずれも設定を聞いただけでももう私の大好物なのはもう間違いないという感じで、やっぱり私は人間の悪意というか、偽善性みたいなものを描いた映画が改めて大好物なんだなという。なので「水曜日のダウンタウン」とか好きな人なら少なくとも本作の設定には惹かれるのではないでしょうか。

 

まず書いておくと、まあ私は子どももいないんですけど、いたと仮定したらたぶん主人公の夫と同様逃げていたと思います。人間って結局そんなもんじゃない?っていう感じはしますけどね。そこに男性も女性も大人も子どもも関係ないというか、これはもう怒られるかもしれないですけど、何だったら父親も母親も子どもを置いて逃げていたとしても多分他の人ほどひどいな、とは思えない人間なんだと自分自身思っています。

 

ただ、やっぱりそれが立派な行動か、と言えばそんな事はなくて、もちろん本作で言えば母親の取った行動の方が立派というか、もし仮に身動きが取れなかっただけだとしても、やっぱり客観的に見て父親の方がカッコ悪いのもまた間違いないとも思いますし、その後自らの取った行動を認めない、っていう部分についてはよろしくない言動だと思っています。

 

と、ここまで書きつつ、やっぱり心のどこかで男性が逃げたからこそよりみっともない、と感じる部分は自分自身の中でほんの少しは拭いされない部分もあったりして、そういった意味ではどれだけの事を言っても男性性、役割という事を無意識に自認している、相手に期待しているという人もたくさんいるのではないでしょうか。

 

そこからの展開もものすごく秀逸だと思いました。実際に逃げた映像を見せられたカップルがその余波を受けてケンカする様子とか、その時の男性の鬱陶しさも含めて腹立たしいけど面白かったりもしますし。

 

後は勘違いで声を掛けられて女性と喧嘩しそうになる場面とか、ストーリーと直接関係があるかというと微妙ではあるんですけど良かったですし。夫婦が子どもに聞かれないように一旦部屋から出て話し合いをしようとするとその様子を見ている男に対して夫婦で怒ったりするんですけど、その男の方が先にその場所にいるじゃんとか、リフトに乗っている時にバーを無神経に下げて注意されて謝らない所とか、一方的に夫側を責めているというわけじゃなく、夫婦両方であったり、妻側の傲慢さみたいなものも描いているあたりも良かったと思います。

 

ちょっと微妙だなと思ったのは最終日の部分ですかね。私は後から他の方の感想を読んで、あの事故的なものが父親としての威厳を取り戻すための狂言だった、という解釈を読んで自分の読解力不足というか、そういう可能性を考えることすらしない想像力の無さを感じたんですけど、でも同時にやっぱり本作って寓話的な物語ではなくて一応リアルに痒い所を描くところが面白い映画だとした時に、あの天候で子どもまで連れてスキー行くか、っていう。他に誰も滑ってないし明らかに危険じゃん、っていう。どれだけスキー馬鹿なんだ、というのは正直思ってしまいました。

 

そしてクライマックスですね。私はあのラストを見て結局妻も夫と同じじゃんという事で世の男性は失地回復というか、そういう女性に対してもシニカルなラストっていう見方が多くて、実際監督もそういう意図で撮ったとも思うんですけど、私は果たしてそうか?とは思ったんですよね。

 

あれが極論1人だけ飛び降りた、とかっていう事であれば夫の取った行動と同等だと思うんですけど、私は彼女の取った行動ってある程度妥当に感じたというか、あれは明らかに危ない運転してたし止めて降りるのってすごく真っ当な判断じゃない? って思うんですよね(そこで先の場面でとばっちり的にケンカしたカップルの男性の行動を描くあたりも上手いです)。あの場面に関して言えば、バスの運転手の取った行動が非常識すぎて、降りた乗客は完全に被害者だと思うわけで、客観的に見て「あなたも見捨てましたよね」っていう行動とはちょっと違うのではと。

 

というわけですごくネタバレ気味になりましたけど、雪崩の場面もそうですし、クライマックスもそうですし解釈もそうですし、行動の妥当性みたいなものも百人、というよりは百カップル十色という感じもして、そのあたりカップルで観に行くのは一種危険性を含んだ映画でもあるんですけど、すごく面白い映画だと思いました。