かつて一世を風靡したミュージカル女優は

自宅の試写室で過去に浸る日々。

一番のお気に入りは

「ウォーキングマイベイビー」

若さはじける自分の姿を目で追う間は

現実をれられる。

しかし、今夜はいつもと違い

白いナイトガウンの下に

黒いスウェットを着ている。

映画の上映が終わるまでに

舞台へ返り咲くための

大仕事をこなさねばならないのだ。

 

刑事コロンボ

忘れられたスター

1977年

ハーヴェイ・ハート監督

ジャネット・リー

ジョン・ペイン

 

”忘れる”が今作の鍵だけど

私にとって忘れがたい物語照れ

 

鑑賞後切ない余韻が味わえる

大好きなお話です。

 

コロンボシリーズの中で

最も周囲から愛される犯人です。

ファンに愛され、

被害者に愛され、

執事夫婦に愛され、

罪をかぶろうとするほどの愛に

恵まれる。

グレース役はジャネット・リー。

若き日のポートレートと

現在の鏡に映る姿を

ワンカットでみせる残酷なカメラワーク。

じつに映画的です。

しなやかな踊り、

往年の女優らしい立ち居振る舞い、

物忘れが少しずつ増える戸惑いを

抜群の演技でみせてくれますよ。

 

 

  見逃してくれよ

刑事って

定期的に射撃テストを受ける

規則があるんですか?

コロンボは苦手な射撃テストを

長年忘れたフリを続けており、

テストを受けてない期間は

5年ではなく10年と判明。

明日受けなければ停職確定!!!

さぁ、困った。

コロンボは友人に

替え玉受験を頼みます。

自身の見逃しエピソード

ラストが重なる脚本ですよ。

 

 

  感想

観客は

私を忘れていなかったわ!

 

ヒット作品の特集上映で

久しぶりに喝采を浴びたグレースは

マスコミの前でカムバックを宣言。

興奮して自宅へ戻るが

夫ヘンリーは妻の計画に反対する。

 

「お願い、あなた。

新作舞台に出資して。

なぜ、私の夢を壊すの?

 

ブロードウェーの復活を実現させたい。

 

医者である夫を殺害するため、

前立腺腫瘍を悲観したピストル自殺に

みせかける。

アリバイとして、

ウォーキングマイベイビーを利用するが

コロンボは気づく

 

被害者は名医で

前立腺の手術が安全だと知っており

悲観するはずがない。

 

しかも、自殺する直前に

ユーモラスな小説を購入し

読み始めるだろうか?

ページに折り目をつける習慣が

その晩は折られていない。

 

車のダッシュボードから

銃を持ち出したらしいが

スリッパは汚れていない。

さらに、

妻は映画を観ていたというが

上映時間が15分遅く終わった。

空白の15分間、

彼女は何をしていたのか?

皮肉なことに犯行のほころびは

作品のフィルムから明らかになります。

コロンボは足しげくグレース邸へ通い

ホームパーティで往年のスターが

歌い踊る姿にうっとり。

そんなコロンボに

彼女は悪戯っ子のような表情でからかう。

「なぜ頻繁にお越しになるのか、

私、わかっていますのよ。

優雅な芸能界の雰囲気を

楽しんでおられるんでしょう?」

このやりとりが、

いかにも大女優とファンぽくて良いなぁ。

捜査だということを忘れます。

グレースは喪中だが

歌やダンスの稽古を始めようとする。

「ロージーだって

父親が死んだとき舞台にたったわ」

長年の相棒ネッドは困惑する。

「ロージーは映画の役じゃないか⁈」

でも、単なる役ではないんです。

彼女が演じたロージーは

田舎からスターを夢みる少女。

それは役を越えて

グレースそのものでした。

若く輝いていたあの頃の自分が

今の生活を支えているのです。

やがて、

「ご主人は自殺ではなく殺された」

そう言われたグレースは

驚き、戸惑い、不思議そうな顔になる。

「どうして?

主人は人望の厚いすばらしい人。

誰があの人を殺そうとするの?」

 

演技ではなく、

本心からそう思っている様子に

コロンボはひっかかる。

終盤、グレースは

コロンボとネッドを上映会に招待。

例の「ウォーキングマイベイビー」が

はじまった。

そこでコロンボは

アリバイ崩しを確証する。

 

だがしかし、

彼の前にひとつの問題がたちはだかる。

それはなにか?

コロンボが自分の名前を何度教えても

すぐれてしまうグレース。

新作の共演者の名前もすぐ出てこない。

彼女の夫は愛妻家なのに

カムバックに反対した。

 

その訳とは?

 

本編をご覧くださいね。

 

真相を説明しようとするコロンボを

ネッドは制し語りだす。

衝撃をうけるグレース。

「私、どうしたらいいの?

あなたなしでは舞台に立てない。

少し休養をとってあなたを待つわ」

2人を見守るコロンボ。

「そうだね。

君はここで大好きなロージーを

見ていなさい」

コロンボは知る。

若い頃から彼女一筋だった男の

覚悟を。

頷きながら扉を閉めるコロンボ。

グレースは試写室に座ったまま

大好きなロージーの歌声に没入。

頬の涙が乾かぬうちに、

もう心はスクリーンへ飛んでいく。

うっとりと浸る姿が哀しく儚い

「忘れられたスター」でした。