離婚したばかりのシナリオライターは
家と財産を手放し清々したはずだった。
なのになぜか虚しい。
ある晩、仕事仲間から宣言される。
「あなたの別れた奥さんと交際します」
相手が真剣であればあるほど
白々しく芝居じみて聞こえる。
彼が帰ると、今度は3階に住む美女が
シャンパン片手に押しかけてきた。
「一人じゃ飲みきれないから。
勇気を出してお邪魔したの。
今夜はどうしても独りでいたくなくて」
勘弁してくれ。
人と関わるのが面倒くさくて追い返す。
が、その夜を境に
不思議な出来事が男の身に起きる。
まるで「時をかける少女」の
中年男版みたい。
主人公がタイムトリップした時代は
日本の夏が幕の内弁当みたいに
詰まっている。
緑色の街灯、浅草花やしきのBeeタワー、
演芸ホール、下駄の音、風鈴、虫の声、
長屋の夕涼み、手動式アイスクリーム器、
かたやきせんべい、手持ち花火。
主人公は幻の世界へ通い
忘れていた人間らしさを取り戻す。
が!!
次第に顔色が悪くなり
エネルギーを失っていく。
怪談「牡丹燈篭」みたいだけど、
怖くて温かい親子愛ですねぇ。
秋吉久美子と名取裕子
低音ボイスの女優さんが好きなんですよ。
岸恵子、風吹ジュン、宇都宮雅代、
岸田今日子、桃井かおり、烏丸せつこ
梶芽衣子、秋吉久美子、名取裕子…
今作に登場する
謎めいた住人K役を名取裕子さん。
彼女の声ってしっとりモチモチ。
鼻にかかった甘えた声が独特![]()
ファミリーマートの
”しともちぃ”っていうスイーツがあるけど
そんな感じ🎵
お母さん役を秋吉久美子さん。
江戸っ子の言葉づかいが心地よく、
気どらない、あっけらかんとした喋り、
拗ねて甘えたような言い回しも素敵。
中年男(風間杜夫)のことを
まるで小学生のように
いそいそと世話をする秋吉さん。
おしぼりで身体の汗を拭いてやる。
我が子への遠慮のない仕草が
本当に自然で良いんだなぁ。
幾つになっても、我が子はこども。
感想
「不思議だ。
もう僕には何かを愛する力がないと
思っていたのに」
シナリオライターの原田英雄は、
子どもの頃に住んでいた浅草へ
ふらっと足をのばしてみる。
演芸ホールでは
奇術ショーの真っ最中。
炎がステッキへ花へ変わり
シルクハットから兎が出てくる。
ところが、
手品より凄い光景が目に飛び込む。
前方の客が振り返った。
「お父さんだ…
まさか、そんなこと⁈」
「よぉ。うち、来るか?」
なつかしい声と下駄の音。
誘われるままについていくと…
開けっ放しの玄関の暖簾から
顔を出したのは紛れもないお母さん。
あぁ、
なんともいえない懐かしさが
胸いっぱいに広がる。
ビールを注ぐ父。
「飲め、飲め」
ズボンが汚れないように
膝にタオルをかける母。
「ほらほら、こぼした。
言ってるそばからこぼすんだもの」
優しく叱る母の声がくすぐったい。
照れくさくて心がはずむ。
しあわせの余韻に浸る。
「また来いよな」
「ほんといらっしゃいよ!」
両親の声色をまねて
何度も何度も繰り返す。
プッチーニを鼻歌まじりに歌いながら、
こんな日は誰かに優しくしたい。
そして、玄関先で追い返した
3階の美女Kと親しくなっていく。
亡き両親に逢うたび
あぁ、ずっとこのまま
時が止まってくれたら…と思う。
でも
幸せな過去に生きていると
今を生きる力が弱くなる。
「顔色が悪いけど大丈夫?」
皆が心配するほど、やつれる。
12歳の時に他界した両親。
父と母は会えなかった時間を
埋めるかのように息子に花札を教え、
キャッチボールをする。
老眼鏡をかけた40歳の息子と
視力2.0のままの若い父が
道でボールを投げ合う姿が微笑ましい。
「父さん、やるねぇ~」
「あったりめぇよ」
親の愛に包まれると、
わが身を振り返り、情けなくなる。
俺、恥ずかしいよ。
父さんみたいに
自分の家族に対して
向き合ってこなかった。
別れた妻にも、息子にも。
もっと人を大事にしたい。。
熱い想いが沸きあがってくる。
そして、さよならの時。
1分1秒も惜しい。
「自分を大事にしろよ」
「身体を大事にね」
「ありがとう」
すき焼きの湯気の向こうで
影が薄くなっていく。
だが、
人生を取り戻したいのは
両親だけではなかった。
緑色の月に黒い雲がかかっていく。
終盤はホラーファンタジー仕立て。
「人生をあきらめるな」という
メッセージが強くなります。
大林監督は、死者にも生者にも
優しい人ですねぇ。
ノスタルジックな夏がしみる名作です。















































