「アンタが男を轢いたせいだ」

「アンタが男を井戸に捨てたのが悪い」

中年女少女が言い争う。

夜、少女が暴走運転した挙句、

事故を起こし、遺体を自宅の井戸へ。

その後で、はたと気づく。

箪笥の上に保管していた全財産が消えてる!

近所で盗難注意を呼びかけていたが

死んだ男は盗人だったのか⁈

ってことは

私の金は男と共に井戸の中?

金を取り戻そうにも

脚が不自由な自分には不可能。

少女は錯乱状態で頼めない。

どうしたらいい?

嵐が近づき、大雨で井戸の水かさが増す。

近所の人が見回りにやってきた。

「どう?変わりない?

井戸の蓋が壊れてるから修理しようか?」

さぁ、どうする?

 

女と女と井戸の中

サマンサ・ラング監督

1997年

ローラ・ジョーンズ脚本

パメラ・レイブ

ミランダ・オットー

ポール・チャブ

カンヌ映画祭で注目を集めたサスペンス。

 

原題は「井戸」

邦題が良いセンスだと思いますピンクハート

 

オーストラリア映画といえば

「ピクニックatハンギング・ロック」

「ピアノ・レッスン」など

独特のムードがありますが

今作も大人の寓話として

群をぬいた面白さ。

無邪気で貪欲な天使翻弄される

世間知らずのオールドミス

心模様を描いた物語。

ラスト5分のどんでん返しに

「思わぬ拾い物だ」と満足しました。

青いトーンの映像から漂う

虚ろな哀愁が美しい。

女優2人の存在感が凄いですよ。

 

 俺たちに明日はない

犯罪映画「俺たちに明日はない」が登場します。

フェイ・ダナウェイの台詞にご注目。

「最初の頃は、

いつかどこかへ

たどり着けると思ってた。

でも、先に進むだけだ。

たどり着けはしない

少女を暗示する言葉です。

彼女は「俺たちに明日はない」が

えらく気に入り、名場面を再現。

銃で撃ちぬかれるボニーになりきり

散る美学に陶酔するのです。

 感想

中年のヘスターは

辺地で父と2人暮らし。

老いた父の固く黒ずんだ足の爪

力いっぱいハサミで切る生活。

クラシック音楽を聴き、レトロな服、

三つ編み姿で世間と距離を置いてきた。

ある日、街から帰宅した彼女が

はしゃぎながら父に告げる。

「お土産があるの!自分用だけど

土産とは、若さはじける奔放な少女だった。

家政婦として雇われた少女キャスリンは

自由気ままで勤労意欲は低い。

マニキュアをぬり、ダンスを踊り

ロックのリズムが大好き。

一方、

脚が不自由で片頭痛持ちのヘスターは

自分が若い頃やりたかったことを

のびのびやっている少女を見ていると

癒される。

彼女と一緒なら

人生を変えられるんじゃないか。

 

青春をとりもどせるかも。

 

社会規範に縛られてきたけど

ハメをはずしたい。

質素倹約をしてきた彼女が

少女を引き留めようと貢いでいく。

CDコンポを贈り、

ロングブーツを与え

大音量でロックをかける。

「床拭きも嫌。銀食器磨きも嫌」

家事を嫌う少女のために、

家政婦を雇いなおすほど。

「2人で欧州旅行へ行きましょう」

でもキャシーは…

じつはアメリカへ行きたい。

彼女の思惑をしらないヘスターは

広大な土地を売り払い、

2人のために旅行資金をつくる。

少女は、うわべは調子をあわせるが

ヘスターが繕った

黄色いワンピースを一瞥すると

(これがおしゃれだと思ってるの?!

時代遅れの服…アタシの趣味じゃない)

わざと熱湯をこぼして台無しにする。

古臭いクラシック、

刺激のない田舎暮らしに飽き飽き

出ていくタイミングを伺っていた。

時々、キャシー宛ての手紙が届く。

音楽仲間であり

少女にとって憧れの友から。

ヘスターは焦る。

あぁ、逆立ちしたって太刀打ちできない。

世代のギャップについていけない…

でも宝物(あの子)を失いたくない。

不安と孤独に胸がはりさけそう。

そんな時に自動車事故が起きてしまう。

ここからドラマは加速します。

キャシーが男を轢き殺し、財産も消えた。

しかもあろうことか、

キャシーが妙なことを言いだした。

「彼は死んでないわ。

井戸の中で生きてるの。

毛布の差し入れを

喜んでくれたんだもん」

彼女の異様な行動に

震えあがるヘスター。

男はたしかに死んだはず。

まさか、生きているの?

そんなバカな。

でも、吹き抜ける風の音が

男の叫びのように聞こえる。

 

いやいや、

罪悪感から妄想を生み出しただけ。

 

はたして2人はどうなってしまうのか?

 

本編をご覧くださいね。

 

 

胸糞映画から人生再スタートドラマへ

昇華する脚本に驚きました。

 

不道徳なのに爽やかな余韻がある

不思議な1本でした。