「半端な気持ちで

娘のを握るなよ」

ジュリアンは親友の妻に釘をさす。

夫婦仲がギクシャクしている女性に

娘を任せて大丈夫だろうか?

アルマは彼の語気の強さにたじろぐ。

ドキッ。

我が子への強い愛が痛いほど伝わる。

えぇ・・・わかったわ

静かにうなずくと

覚悟を持って幼い手を握った。

毒ガスのない安全な場所までこの子を守りぬく。

 

 

ハプニング

M・ナイト・シャマラン監督

2008年

マーク・ウォールバーグ

ズーイー・デシャネル

ジョン・レグイザモ

アシュリン・サンチェス

この映画は、

前半はスリル。後半は人間ドラマ。

愛に興味のない人や

刺激だけを求める人は

”失速” ”退屈”と感じるかな。

 

でも私は、

恐怖の中でひときわ輝く愛の物語が好き。

 

 

 心の色

シャマラン監督は「ヴィレッジ」で

盲目のヒロインに語らせます。

「人にはそれぞれがある」と。

 

同様に「ハプニング」でも語ります。

人の感情が可視化できる指輪の存在。

この演出が大変ロマンティックです。

 感想

「人のエネルギーにはがある。

怒ってる人の色。悲しい人の色。

この指輪は人の感情を色で表せるんだよ」

エリオットは親友の娘に話しかける。

母不在で元気のない子へ

ムードリングを手渡す。

「君の気持ちをみてみよう。

…黄色か!いい兆候だ。

今から君は笑いたくなるぞ

 

エリオットがわくわくした様子で

ジェスをみつめる。

ジーッと見つめ合っていると

本当になんだか可笑しくなってきて

ジェスの口元から白い歯がこぼれる。

「ほら、笑った!」

この場面がとても良いんです。

 

ユーモアで不安を撃退する彼。

 

どんな状況でも冷静さを保つ彼は

指輪の色は常に青色です。

エリオット夫妻はこの娘を連れて

フィラデルフィアからペンシルベニアへ

移動することになりますが、

旅の途中で出逢った人々から

「なぜ自分の子を持たないの?」

「夫婦のどちらが愛が強い?」

尋ねられるたびに、

自分たちに向き合っていきます。

毒ガスからの逃避行であると同時に

夫婦の絆を確かめ合う旅なんです。

エリオットは親になる覚悟ができず

子作りを先送り。

 

一方、妻アルマは

気まぐれでデートした男から

頻繁に連絡が入るようになり、

夫に後ろめたさを感じていた。

そんな時、毒ガス騒ぎで

夫の親友ジュリアンの娘を預かったのだ。

アルマが浮気未遂を告白すると

エリオットは言う。

「俺だって

薬局の店員が美人だったから

必要のないものを買ったよ」

責めるどころか、

作り話で「おたがいさまだよ」

水に流してくれる彼。

 

あぁ、そうだった。

夫は昔から

私に恥をかかせないよう

ユーモアで優しくフォローする人だった…

「ありがとう、あなた」

アルマは徐々に変わっていく。

先を急ごうとする夫に

「こどもの体力を考えて」

 

恐怖をあらわにする夫に

「こどもが怖がるから声を落として」

 

絶望に打ちひしがれる夫に

私たちにはあの子がいる。

ジェスを守るためにしっかりしなきゃ」

妊娠、出産、育児を経験していなくても

親性(母性)が目覚めていく。

やがて地図にのってない、

山奥の老婆の家へたどりつく。

独り暮らしをするこの場所までは

神経毒ガスは追ってこないだろう。

 

しかし

老婆はよそ者に対し

疑心暗鬼になり、

全身から湯気が立つほど

はげしい怒りに包まれる。

 

そして、庭へ。

 

ざわざわと草木が揺れていき…

 

!!!

 

とうとう、

未知の物質が襲ってきた!

 

夫婦は

食糧倉庫と母屋で離ればなれに。

 

水道管を通して、互いの声に耳をすませる。

 

「あなた、

ムードリングを買ってくれたわね。

私がつけると紫色に。

あなたはいつも平和の青色

愛は何色だったかしら」

「さぁ…どうだったか。

僕も覚えてないなぁ」

エリオットが指輪に触れると

色が青からオレンジにかわっていく。

 

「最期の瞬間は君のそばにいたい」

 

母屋から倉庫にむかって歩き出す。

 

アルマの顔に

(やめて)と(愛してる)が同時に浮かび

 

2人の距離が縮まっていく。

 

そして

彼らを風が吹き抜けていく。

 

ラストの色は、ピンク色の二本の線。

 

人類への警鐘と希望がミックスされた

SFパニックサスペンスでした。