「お幸せに」

「幸せにならなきゃダメだぞ」

みんなから祝福のシャワーを浴び、

花嫁は無理にしあわせを装い、

笑顔で応じる。

姉夫婦が手間をかけて

結婚披露宴を用意してくれたんだもん。

宴が終わるまでなんとか持ちこたえねば。

でも、深夜のケーキカットは

一口飲み込むだけで苦痛が襲う。

さらに姉から絶望的な言葉を告げられる。

「パーティはまだ半分よ!」

うつ病患者にとって喜び

フルマラソン出場と同じ重労働

全力疾走しつづけても

ゴールはみえない。

彼女は夜空を見上げ

惑星メランコリアを確認する。

地球の寿命が短いことを感じ取ると

不思議と心が穏やかになる。

ゴールまであと少し。がんばれ自分。

 

 

メランコリア

ラース・フォン・トリアー監督

2011年

キルスティン・ダンスト

シャーロット・ゲンズブール

キーファー・サザーランド

シャーロット・ランプリング

ジョン・ハート

レンタル料110円で共感が味わえるって

私には何よりのご褒美札束

 

ラースフォントリアー監督の映画はです。

 

娘が「おしゃれ気取りの監督?」と

皮肉まじりに言ってたけど

私はそんな風に感じなかったよおねがい

 

映像が綺麗すぎるのは仕方ないとして

かなり真面目な内容で驚きました。

 

救われない現象によって救われる話です。
 

 

 

  アート鑑賞

主人公は書斎で

死を感じさせる挿絵を選び

ページをめくります。

 

オセロの白を黒にひっくり返すように

ポジティブからネガティブへと変える。

 

口にだせない自分の気持ちを

そうやって表現するなんて

知性と感性が豊かな女性だなぁ。

 

ブリューゲルの絵「雪中の狩人」、

霧がかかる地球、章に分かれた構成、

「惑星ソラリス」とだぶる演出です。

ジョン・エヴァレット・ミレイの絵

「オフィーリア」のように死へ嫁ぐ花嫁

大変美しい映像です。

 

  共感しかない

キルスティン・ダンストも

シャーロット・ゲンズブールも

うまい役者さんですねぇ。

 

鬱病アルアルが詰まっていて

「おぉ!数年前の娘と私やん照れ

映画化するとこうなるのか!!

 

体験者しか描けない

的確なエピソードに感心しきり拍手気づき

 

ヒロインは惑星衝突の話題で

世界中がパニックになった途端、

逆に心がラクになり、落ち着きを取り戻す。

コロナ禍で世間が暗くなった途端、

娘の鬱病が画期的に回復したけど、

あのときと同じだわ!

主治医もビックリするほど

みるみる元気になり

病気前より強く逞しくアップデート。

 

「不思議だなぁ」と思っていたけど

なるほどそういうことか!

映画をみて腑に落ちましたOK

 

一般常識をこえる

ひねりの効いた脚本にも感心しましたよ。

 

鬱病の回復の鍵を握る

セロトニン(ハッピーホルモン)は、

太陽光を浴びると作られますが

 

今作のヒロインは

青い惑星メランコリアの光を

全身で浴びます。星光浴です。

こういう細部が素晴らしいキラキラ

 

  感想

バリバリ仕事して成果をあげ、

ステキな男性とゴールイン。

将来はリンゴ農園が私のもの。

ですってよ…

花嫁ジャスティンは

しあわせコースを歩いてきた。

でも、

家族・結婚制度が黒い糸となって

脚にからまり、前に進めなくなる。

自分の役割を果たそうと

テーブルに座り、スピーチを聞く。

数当てゲーム、列席者とダンス。

重だるさに襲われても気分が悪くても

がまん。

 

仕事を催促する傲慢な上司の相手を

するうちにバッテリーが黄色へ。

神経を休めるには息継ぎ必須です。

花嫁が宴をぬけだすたびに

「奇行」「頭がおかしい」「非常識」

列席者の視線は、冷ややか。

姉の夫も世間体が悪くなり、憤慨します。

追い打ちをかけるのは花婿の夢語り。

農園の写真を手渡され

「10年後、リンゴ農園は君のものだよ」

未来のしあわせを夢見る彼。

 

だけど…

将来、未来を意識すること自体、酷。

 

彼の期待に応えるパワーがなくて

エネルギーランプはが点灯してしまう。

まだ初夜というメインイベントが

控えているけど、もう限界。

 

えぇ~い、もうどうにでもなれ。

上司、夫、世間の縛りを断捨離だ。

挙式をぶち壊した後、

数年間で蓄積された疲労

どど~~っと出て

馬とふれあうセラピー以外は

泥のように眠りこける。

 

一人で歩けず、大好物のミートローフが

マズく感じて悲しい。

 

脳が弱っていて

この辛さをうまく表現できない。

 

ただただ涙が流れるばかり。

そんな妹をつきっきりで介護する姉。

 

義兄は

「義理妹の存在が家族に悪影響だ」

と迷惑顔。

 

ところが姉妹の形勢が逆転

惑星メランコリアが地球へ接近する。

 

姉はネット検索で恐怖を増殖させ

ノイローゼになっていく。

義兄は平気なフリをしながら

防災用品をとりよせる。

右往左往する姉夫婦。

しかし

家族の中で一番怯えていたのは

義兄でした。

妹は彼らの混乱ぶりを横目に

自然体で過ごす。

 

ねぇ、お姉さん。

 

現実から目をそらさずに

しっかり見なきゃね。

どこへ隠れても逃げてもムダよ。

小さな甥っ子レオくんの方が

ちゃんと受け入れてるよ。

さぁ、

その瞬間を心穏やかに迎えるために

こころのシェルターを作りましょう。

ジャスティンは甥に優しく語りかける。

「叔母ちゃんにまかせて。

なんたってスチールブレイカーよ!」

 

今、本気で苦しんでる人に捧げる1本でしたピンク薔薇