5歳の娘をお風呂にいれる父フランク。

「キャンディス、クジラさん(玩具)を置いて

後ろを向いてごらん」

背中を洗おうとしてギョッとする。

アザだらけじゃないか!!

もしや妻が叩いているのでは?

娘に訊いても黙っている。

精神病院に入院中の妻

娘を週一で面会させているが、

今後は会わせるわけにいかない。

娘を守らなくちゃ。

 

ザ・ブルード/怒りのメタファー

デヴィッド・クローネンバーグ監督

1979年

オリヴァー・リード

サマンサ・エッガー

アート・ヒンドル

シンディ・ハインズ

ニコラス・キャンベル

ロバート・A・シルバーマン

ありえない映像に

ありふれた深層心理をこめる

クローネンバーグの世界。

刑事コロンボの「殺しの序曲」で

浪費家の奥さんを演じた

サマンサ・エッガーが今作のヒロイン。

ネコ科の動物のような鋭い視線が素敵。

「コレクター」も見たいなぁ笑

心の膿を出す治療の場面があります。

患者さんの症状をみて、

私自身の身に起きたことを思い出しました。

娘を出産後、授乳疲労&睡眠不足、

そして子育てって孤独な孤育てだなぁ

と痛感したとき、

全身に謎の蕁麻疹が出たんですよね。

 

「お母さんは体調が悪くても我慢して

常に笑顔で赤ちゃんに語りかけましょう。

それが良い母親ですよ」

 

「自分のことより

家族優先のお母さんってステキですね」

 

「子から目を離す女性は、

母親としての自覚が足りません。

育てる資格がありませんよ!」

 

雑誌、テレビ、育児本では

母性神話、母乳神話、布おむつ神話が

一般的な美学として今より多く

理想のお母さん像が飛び交っていました。

 

「自分も従わなくちゃ」

「良い奥さん、良いお母さんを目指そう」

忍耐と根性でがんばっていると…

 

あっという間にストレスで母乳がでなくなり

ミルク&哺乳瓶で育てることに。

 

「あらぁ~赤ちゃんかわいそうにねぇ。

母乳で育てないのぉ?」

 

デリカシーのない言葉が追い打ちになり

ついに全身にかゆみと腫れが出現。

 

なるほどザ・ブルード!

あの湿疹はまさに怒りだったんだなぁびっくり

 

人間の体って…正直で面白い。

気持ちをぶつけられない痛み、

消化しきれない苛立ちの塊。


クローネンバーグ監督は

切っても切れない母子の絆や、

生命の誕生の神秘を「スキャナーズ」

「戦慄の絆」で描いています。

 

今作では女性の悲しみがモンスター化し

愛憎を出産するという奇抜な発想!

潜在意識が殺人犯という、

奇抜なホラーですよ。

 

 感想

孫娘は祖母と母の思い出写真が好き。

「なぜママはこどもの頃入院したの?

その頃の話を聞かせて。

おばあちゃん」


「ノーラの体に大きなデキモノ

できたからよ」

その時、台所でモノが落ちる音が響く。

祖母は様子をみにいったまま戻らない。

孫娘が様子を見に、台所へ足を踏み入れ、

床に倒れた祖母を冷静に見下ろす。

犯人を目撃したようだが、記憶喪失。


キャンディスは何をみたのか?

その頃、母ノーラはラグラン博士の

サイコプラズミクス療法をうけていた。

博士

「ノーラ、怒りを全部吐き出せ」

 

ノーラ

パパはなぜ

何も見なかったフリをしたの?

私がママに殴られても

階段から突き落とされても

助けてくれず、守ってくれなかった。

私はパパを愛していたのに、

パパは私のことを

どう思っていたの?

 

博士にとってノーラは実験動物。

 

幼少期にうけた虐待による

怒りエネルギーを増幅させたい。

だから父親や夫との接触を許さない。

そして憎しみをかきたてるために

ウソやハッタリを吹き込んでいく。

すると…

博士の過剰すぎる煽りによって

怒りが膨れ上がり、ターゲットへ向けられる。

雪が積もった小学校の場面

インパクトありますよ。

赤い防寒着をきたキャンディスに

近づいてきた水色オレンジ色

小人たち。

クラス担任が授業をはじめると

先生の背後に近づく。

そして…!

父親が駆けつけたとき、

娘は連れ去られた後だった。

彼は娘の居場所を知ろうと

元入院患者たちから情報を得る。

「ノーラは女王蜂だよ」

 

なぜ、女王蜂とよばれるのか?

 

「エイリアン」のマザーのように

女王蜂はたくさんの子を産むが、

いかにして産まれてくるのか?

 

フランクは医師に協力をあおぎ

連れ去られた娘を救助するため

二手に別れて行動を起こします。

「ノーラ、僕が悪かった。

2人でやりなおそう」

しかし…彼女には、お見通し。

 

(口先だけで本心が違う、

あんたって男は、いつもそう炎

 

「本当?

じゃぁ…見てごらんなさい」

ギラギラした目つきで

白いネグリジェを翼のように広げた。

!!!

娘を奪われる恐怖から、

愛が暴走しはじめます。

はたして怒りは浄化できるか?

連鎖は絶てるのか?