地球人メリー・ルーがつぶやく。

「皆、生きる希望(意味)が必要だわ。

夜、空を見上げると星の向こうに

誰かがいるって感じる。

どこかに神がいるって信じたいわ」

宇宙人トミーも同じことを考えている

「絶望のなかでも希望を持ちたい。

空の彼方で妻と子が生きている。

いつの日か家族に逢えると信じたい」

TV画面ではオードリーヘプバーンと

ゲイリークーパーが口づけをし、

魅惑のワルツを奏でた楽団が退室する。

トミーは素性を隠し、

メリー・ルーと豊かな水と森に囲まれた

田舎に家を建て暮らし始めるが…


 

 

地球に落ちて来た男

ニコラス・ローグ監督

1976年

デヴィッド・ボウイ

キャンディ・クラーク

リップ・トーン

バック・ヘンリー

バーニー・ケイシー

現代社会に染まる宇宙人を見ていると

太田裕美さんの木綿のハンカチーフ

が脳裏をよぎりました。

「変わっていく僕をゆるして」

メリー・ルー

君にはお金の不自由をさせない。

独りぼっちにさせたくない。

幸せでいてほしい。

でも、僕の心はあげられない。

 

トミー

出逢った頃のあなたはどこ?

私はお金も家もいらないわ。

あなたさえ一緒にいてくれたら。

だけど目の前のあなたは遠くを見てる。

愛を求めるヒロインを

「アメリカングラフィティ」の

キャンディ・クラークが演じています。

損得勘定のないピュアな心の持ち主です。

主人公は彼女を気づかいながらも

妻子を忘れられない。

そんな彼の運命は…?

 

  感想

家族の思い出を色鮮やかに残す

ワールドエンタープライズのフィルム。

トミーは最先端のカメラ技術で

巨大企業を築く。

地球には何でもそろっている。

水、お金、名誉、女、酒。

だけど足りないものがある。

それは僕の家族。

同棲相手メリー・ルーは

彼の不安定な気持ちに気づく。

「あなたの中で何が起きているの?」

あっという間に、

お酒と情報におぼれていく彼。

(↓ヤクザスタイルが強烈です)

TVで放送される暴力・セックス・戦争の

イメージが脳内を侵食していく。

「いまいましいテレビを消して!」

「テレビばかり見てないで

話をしましょうよ」

彼女が泣いて頼んでも

愛想笑いしながら、生返事する。

まるで一般家庭の夫のよう(笑)

あぁ、ほんとうは

こんなことをしている場合じゃない。

残してきた家族に対する

罪悪感が押し寄せる。

メリーが焼いたクッキーが

故郷の星にみえてきた!

思わず手で払いのけてしまう。

僕の帰りを待っている家族がいるのに

地球人女性と暮らす自分…

地球と故郷の板挟みで苦しみ

ついに秘密を明かす決心をする。

 

鶴の恩返し、雪女、竹取物語のように

本当の姿を明かす場面ってドラマティック!

その一方で宇宙計画を進める。

が、協力者に正体を見破られ

トミーはブライス教授に訴えます。

「僕は地球人に危害を加えない。
兵器も作っていない。
TVを鵜呑みにしないでくれ。
TVなんてただの電波だ。
断片しか映さない。
目の前にいる私
信じてくれないか?

教授は根拠なしに信じることが難しい。

彼は完璧すぎて脅威だ。
このままでは
世の中が乗っ取られるんじゃないか?

教授の密告で

政府が本格的に動き出し

トミーは人体実験のモルモットに。

唯一、メリー・ルーを守るため

生活に困らないよう財産を彼女に残す。

月日は流れ、

メリー・ルーは年老いて指も太くなり

贈り物の指輪が入らなくなっていた。

でもトミーは

年を取らず若くて美しいまま。

老化の速度、住む世界の違いが身にしみる。

地球人によって

トミーはひどい目に遭います。

 

が、人間を責めません。

僕は君たちを恨んでいない。

もしも君が僕の星に来れば

同じ目に遭っていたと

思うから。

 

そして

飲めば飲むほど

心の渇きが増す酒をあおる。

「今の僕にできることは

妻に捧げる曲を創ること。

いつか妻の耳に届くことを願って」

わずかな希望を酒の肴に

今日もグラスを手にする。

 

デヴィッドボウイが

繊細な少年のようでもあるし

クール&セクシーな大人の魅力

感じられる美しい作品でした。