新聞に大袈裟な見出しがおどる。

『魂の悪魔を切るロボトミー手術』

精神病院へ入院中のキャサリンは

手術されると聞き、衝撃をうける。

「私が事実を話しても誰も信じてくれない。

先生、私の頭のどこに穴をあけるの?

前?後?髪は剃るの

折角セットしたばかりで勿体ないわね。

私がいなくなれば家族にはお金が入り、

伯母も安心する、先生も病院が手に入る。

皆が幸せになるのなら、いっそ…

絶望し飛び降り自殺をしようと

病室の上の通路に立つ。

柵をまたぎ、患者たちを見下ろした。

足元ではたくさんの視線が見上げている。

興奮する者、目をギラつかせる者、

悲しげな表情を浮かべる者。。

 

 

去年の夏突然に

ジョセフ・L・マンキウィッツ監督

1959年

キャサリン・ヘプバーン

エリザベス・テイラー

モンゴメリー・クリフト

マーセデス・ケンブリッジ

前回の続きです。

結末にふれています。

 

 

  美貌のスター

キャサリン・ヘプバーンと

エリザベス・テイラーの火花バチバチ対決!

ゴールデングローブ賞でテイラーが主演女優賞に。

緩急自在、見ごたえある演技が印象的です。

心の傷に苦しみ

煙草で気持ちを静め、恐怖に立ち向かう。

どれもこれも美しいキラキラ

 

  医療側の匙加減ひとつで

精神医療に対し皮肉な描写があります。

患者を凶暴な重症患者に仕立てるのは簡単。

わざと患者を煽り、トラブルを誘発させたり

女性患者が職員に「迫られた」と訴えても

妄想として取り合わない。

「頭がおかしい人」という医療従事者の思い込みが

生死を左右するという、危険性を示唆しています。

そんななか、モンゴメリー・クリフト演じる脳外科医は

よく見て、よく聞き、見極める目を持つ。

つまり、本当の意味で人を救う医師です。

 

  感想

孤独なのは彼でした。

医師はキャサリンの証言の立会人として

関係者たちを集めます。

彼女に手術が必要かどうか、考えさせるためです。

彼女が辛い記憶と向き合う前に

「心の抵抗を私の手に渡しなさい」

声をかける。

医師の手に彼女の手が重なり

セバスチャンの秘密を語りはじめます。

彼は、嫌なこと悪いこと全て受け入れ

他人と争うことを避ける繊細な人だった。

母親の強すぎる愛から逃れ、

煩悩から解放されるために

僧侶になろうとしたが連れ戻された。

年に一度だけになると

自分の性的欲望を解き放っていた。

 

旅先では、母親が内気な息子のために

若さと美しさを振りまき、男を集めていた

「伯母様が老いて魅力を失い、利用できなくなると

今度は新しいオモチャを連れていくことにしたの。

この私よ。

私は男性をる餌。男を案内する道具だった」

彼は料理を選ぶように

「あいつはうまそうだ」

「黒髪には飽きた」

と物色するが孤独は埋められない。

 

そんなある日、

彼の中で何かが崩れる

従妹が親しみをこめて

彼の腕を組んだのが引き金だった。

 

腕をふりほどき、

女性との触れ合いを反射的に拒絶

そんな自分に愕然としたのか

突然、意欲がなくなり

得意な詩も書けなくなった。

 

 

憂鬱にあらがうように

私に無理やり白い水着を着せ、

海で濡れて肌を透けさせ

公開ポルノに興奮した連中が

ハイエナのように集まってきた。

ほどなく悲劇は起きた


ビネブル夫人が語った

ガラパゴスの島の惨劇と、

セバスチャンの最期が一致します。

 

    

ウミガメが産卵し

沢山の子ガメが生まれると

肉食鳥が群がり

子亀の肉を裂いてついばんだ。

セバスチャンは自然の残酷さをみて言う。

「人間も同じことだ」

 

 

彼は自分に起こる悲劇を予感するように

白装束に身を包み

不安げに白い錠剤を飲む。

 

自分と関係した少年や大勢の物乞いが

どんどん集まり彼を取り囲む。

「これは僕の問題だ。

僕一人で片付ける

 

キャサリンを残し、

騒々しい音をたてる集団に追われ、

丘を上へ上へと逃げていく。

 

ついに

子亀が肉食鳥に襲われたように

セバスチャンも身ぐるみはがされ、

肉食鳥に食いちぎられたような傷跡を

体につけられ、処刑されてしまった。

まるで

マイノリティな人が

社会からうける受難とは

こういうことだよ、と言わんばかり。

社会とは肉食鳥のように凶暴で、

居場所のない人の人生を断つことがある。

 

トラウマを克服したキャサリン。

その瞳には穏やかな光が戻っていた。

入れ替わるように

ビネブル夫人の心に息子の幻が生まれ

母子水入らずの生活へ戻っていくのだった。。

切なくて壮絶な結末が素晴らしい。

 

50年代にこういったテーマを扱い、

暗喩すること自体が凄い。

私、ほんとうに驚き、感心しました。

 

自由な解釈ができる映画って良いですね照れ