「命を狙われているから調べてくれ」
金田一耕助は写真館に依頼され、
夫人からも依頼をうける。
「ある娘を調べてほしい」
まもなく写真館の主人が殺害される。
暗室で殴られ溺死させられたのだ。
不思議なことに、法眼家に関する
ガラス乾板ばかり割られていた。
犯人が葬り去りたい写真とは何か?
病院坂の首縊りの家
市川崑監督
1979年
佐久間良子 石坂浩二
草刈正雄 桜田淳子
萩尾みどり あおい輝彦
ピーター 加藤武
前回の記事は女優さんに焦点をあてましたが、
今回は探偵さんについて。
戦後、移り変わる日本
金田一耕助が渡米するために
パスポート用写真を撮影しようと、
本條写真館を訪れる…といった開国時代が顕著。
くわえて、
米軍駐在兵相手のジャズバンドの歌手を
桜田淳子さんが演じており、
英語で「ペーパームーン」を歌います。
IT’S ONLY A PAPER MOON
愛を信じていれば偽物も本物になる
という意味の詞が、物語にぴったり。
石坂浩二さんが草刈正雄さんに
ご馳走する場面では、
玉子丼とみそ汁を注文すると、
「エッグライス一丁!ポタージュ一丁!」
女給が厨房へハイカラな言い方で伝え、
思わずクスリと笑ってしまう
時代が変わる様子が描かれます。
時代と逆行する女性
このように新しい時代へ
移り変わる中、いまだに
過去の呪縛に苦しむ女性がいる。
佐久間良子さん演じる弥生さんです。
家名を重んじ、悲しい運命を背負う女性。
彼女は自動車を利用せず、
いまだに人力車を使う古風な女性。
「私は三之介が引く人力車が好きなの」
車夫の三之介は忠実な使用人で
ひっそりと陰ながら奥様を支えます。
演じている小林昭二さんがいいんですよねぇ。
終盤の味わいは
彼なくしては語れません。
感想
「たった一枚の写真が奥さんの一生を縛った。
何が写っていたかは
僕には言えません」
金田一耕助のやさしさがにじむ
市川監督の横溝正史シリーズ5作目。
写真館の見習い技師、黙太郎は
鋭い観察眼、論理的な推理力で
探偵を驚かせます。
「君は熱心ですねぇ」
2人とも戦災孤児で苦労人という、
共通点があります。
でも大きな違いがあるんです。
苦労を楽観的にとらえる黙太郎。
家系図を調べ事実から事件を推理する。
一方、人の孤独に敏感な金田一。
その人の立場や心情から事件を推理する。
金田一耕助は、
生きづらさをかかえる弥生夫人を
いたわるような優しい眼差しをむけます。
「恐ろしい犯人のことを
可哀想だなんて…
どうも金田一さんは、
犯人に同情的なんですねぇ。
法眼家の奥さんには消したい過去があり、いつもこうなんですか?」
その秘密を握る写真館の主人に
金銭を要求されてきました。
それが一瞬のカットに滲みでています。
両者が挨拶をする場面で
「弥生奥様、しばらくでございます」
頭を下げながら、上目遣いにみあげる写真屋。
夫人は無言で冷ややかに一瞥の視線を投げる。
一瞬の緊張感が伏線になっています。
そして、私のお気に入りは電話バトンリレー。
脅す者と
脅される者が
次々と会話を渡していく。
誰が誰としゃべっているか、
わからない。
洒落た演出にしびれます
ミステリー映画の面白さが凝縮されており、
何度見ても素晴らしい。
そして、終盤。
金田一はガラス乾板をさがしだし、
夫人の前に置きます。
黒革のケースをじっとみつめる夫人。
弥生「あなたはそれを見たんですか?」
金田一「えぇ、みました。
でも私以外、誰も知りません」
夫人は探偵の真意
(他の人に見せる気がない)を察します。
彼は夫人の名誉を守り抜くため
大胆な行動をとります。
警察が右往左往している間に、
探偵はケースを持ち出し、竹林の中へ。
乾板を手にした彼。
意を決して、石の上へ。
ガシャーン!