芸者と寅さんが肩を並べて絵馬を書く。
おふみさんは寅さんの絵馬をのぞく。
【妹さくらとその一家が
しあわせになりますように】
今度は寅さんが彼女の手から
無理やり絵馬を奪ってのぞく。
【弟が幸せになりますように】
「おめぇ、天涯孤独だっていってたけど
弟がいるのかい?」」
妹、弟のしあわせを願う2人の距離が
ぐっと近くなる。
 

 

 
男はつらいよ
浪花の恋の寅次郎
山田洋次監督
1981年
松坂慶子
渥美清
芦谷雁之助

 

 
松坂慶子さんの演技が
もう、たまらなく艶っぽくて可愛くて
いじらしい1本です。
「寅さんはお客やないのよ。友だちよ。
友だちがチップなんて渡す?
今度こんなコトしたら
もうウチ、つきあわんから」
芸者さんが寅さんをにらみますねぇ。
寅さんにとっちゃ、たまらなく嬉しい言葉
心が動かないはずないんです❤
何べん見ても、魅力的で好きなシーン。
 

 
 

 

  感想

 

男ってのは
引き際が肝心なんだ。
 
おふみさんの手作り弁当は、関西の薄味
「やっぱり関東の人には味が薄いんやねぇ~」
関東の濃い味つけになれた寅さんは、
醤油をかけながら食べていたが、
つと箸がとまる
 
おふみさんは、弟が5つのとき生き別れに。
「毎晩一緒に抱いて寝ていたほど
可愛がっていた弟を、
家を出た母が連れて行った」

「生き別れて20年近くたつのに
なんで会わないんだい?」
 
「こっちが逢いたくても
向こうは迷惑だろうから。
私みたいな芸者、嫌な顔されるのがオチよ
 
さみしそうに微笑んで
寅さんにビールを注ごうとする。
 
寅さんは、お酌をする彼女の手をさえぎる。

 
このビールをとめる
寅さんの手つきがね、
男らしいんです。
お酒なんか
呑気に飲んでる場合じゃない
 
急に真剣な目になって
まっすぐに見つめます。
 
「ちょっと待てよ。
5つまで可愛がってくれた姉ちゃんのこと、
きっと覚えているよ。
逢いに行ってやれよ。
この広い世の中に
たった2人きりの姉弟じゃねぇか。
俺がついていってやるよ
 
突然、弟の仕事場に向かうことになる。

 
タクシーの後部座席で、
慌てて身なりをととのえるおふみさん。

口紅をティッシュでぬぐい、
長い髪の毛は一つに束ね、
イヤリングをはずす。
水商売に見えないかしら。
こんなことなら地味な服をきてくればよかった」
その様子を眺めながら、なだめる寅さん。
 
「銀行員かデパート店員に見えるぜ。
大丈夫だって」
 
不安と期待で顔をこわばらせながら
タクシーから降りる。
 
20年ぶりの弟に
なんて声をかけたらいいかしら。
 
しかし、工場の若者たち、主任さんが
気まずそうな顔をする。
 
「先月、心不全で」
 
事務所の奥に置かれた白黒写真。
大人になった弟の笑顔のそばに、花が供えられて。

じっと見つめるおふみさん。

悲しさがどっと胸にこみあげてくる。
「どうして知らせてくれなかったんですっ」
腹立ちまぎれの、恨み節。

おふみさんをなだめ、親族に代わって、
「皆さん、弟が世話になって」と
頭をさげ、礼をいう寅さん。
 
頼もしいやら、男らしいやら。
 
おふみさんは、弟に婚約者までいたことを知る。
 
あの子は寂しい暮らしじゃなかった。
みなさんに優しくしてもらって。
飛行機模型が趣味だったんやね。
幼い弟のかわりに、
素朴な飛行機を膝にのせる。
 
弟の婚約者が
「お姉さんのこと、あの人から聞いてました」

 
思わず腰を浮かせるおふみさん。
「あの子、なんて?」

「お母さんみたいに懐かしい人だって。
会いたがってました」
 
 
あの子は、私のこと覚えていて
会いたがっていた。
 
だけど、もう。。
 
嬉しい気持ち、ほっとした気持ち、悔しい思い。

 
その晩、お座敷を抜けて
芸者の姿のまま、寅さんの宿へ。
 
窓際に腰掛けて、星影のワルツを一節。
 
♪別れることはつらいけど、
仕方がないんだ、君のため~♪

唄がとまる。
 
「寅さん、うち、泣きたい。
泣いてもええ?」

 ドキリとする寅さんにくずれおちる。


 
浪花女の辛さも涙も
寅さんの膝がうけとめる。

膝枕の足がしびれて、
よろよろしながら、布団をそっとかける。
 

翌朝、大阪を出発する寅さん。
 
通天閣を背に、宿屋のせがれと肩を並べて歩く。
 
「男は引き際が肝心なのさ」
東男の寅さん。

「男はカッコ悪くても、
アホやなぁ~と言われても
つきまとう根性がなかったらあきまへん。
この道は(恋の路は)
と、浪花男。
 
西と東の男。
それぞれの信条、味がありますねぇ。
 
大阪嫌いだった寅さんが、
大阪弁を「とらや」に持ち帰る。
素敵な27話でした。
 

 

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