お嬢さんの悲鳴が壁の向こう側から聞こえた!
「娘を早く助けだせ!
なんとかしろ!」
「部屋の出入り口が
どこにも見つかりません!」
養父が苛立ちまぎれに警部を突き飛ばす。ドン!
ぶつけた拍子に飾り壁から
四角い板がカタリと動き、空洞ができた。
なんと寄木細工をほどこした
からくり部屋だったのだ!
金田一耕助を左へ、右へ、
下へずらしていくと・・・

「女王蜂」
市川崑監督
1978年
石坂浩二、仲代達也
岸恵子、司葉子、中井貴恵
沖雅也、高峰三枝子
萩尾みどり、加藤武、大滝秀治

横溝正史小説の虜になった学生時代。
奇抜なトリック・妖艶な殺しの美学
運命に翻弄される悲劇
このに満ちた世界観に
肩まで浸かったものでした。
市川崑監督のオリジナル脚本に何度も脱帽します。
白馬のカットと、お嬢様の乗馬シーンを挿入したことで、
因縁めいた繋がりを感じドキリとしました。
 
私のお気に入りは紅葉の輝き和服姿(*^^*)
野点のシーンが京都らしくて、「細雪」みたい。
 
お嬢様が鮮やかな手さばきで抹茶をたて、ゆっくりと茶筅をとめる。
 
静かに飲み干す若者の形相が、突然変わった!そして・・・
 
凄惨な事件なのに、
人が人を想うやさしい物語です。
等々力警部(加藤武)でさえも
事件の真相に気づかないフリ。
そんな温情ある演出にぐっときました。


【あらすじ】
頼朝伝説に惹かれた男たちが、
琴絵という女性に出会い興味を持つ。
しかし、結婚の約束を交わした男が謎の死をとげた。
そして19年後、
再び同じ状況になる。
琴絵の娘へ脅迫文が届き、
花婿候補3人に魔の手がのびる。
いったいが、何の目的で?
19年前の事件と関係があるのか?
 

【ネタバレ感想】
あなたはなぜ
結婚しないのですか?
金田一耕助が、家庭教師に訊ねる。

岸恵子さん演じる神尾女史が微笑む。
「私が愛していた方の写真
おみせしましょうか?」
首から下げていたペンダントをはずし、
ロケットの蓋をあけると、智子の母の写真が。
のぞきこんだ金田一は「ちょっと意外でした。。」
母娘二代に尽くす献身的な愛情に驚く。
しかし、探偵はらない。
その写真の奥にもう1枚されていたことを。
「いつか編み物の符号で暗号をつくり、
金田一さんに解いていただく時がくるかも
しれませんわ」
やがて、彼女の予言どおり
暗号に挑戦する日がやってくる。
途中で何度も失敗し、
ようやくたどりついたのは・・・
赤い毛糸の玉を必死で転がす金田一。
糸をほどいて彼女の想い
取り出してあげたい。

する者をるため、
がけでかばった真実を。
私は事件後の場面がとても好きなんです。
真犯人を責める人が一人もいないから。


「そう仕向けた自分にも非がある」
 
それぞれが自身を振り返り、
犯人の苦悩に寄り添うのです。
復讐の狭間で苦しんできた人物に、
を浮かべる女たちの顔が、美しい。
さらに、実父を殺害された娘までも
犯人をかばう
私の父は大道寺銀造です。
今わかりました。
ずっと瞼の父のことばかり追い求めてきた自分。
でも、誰よりもしてくれていたのは
実父ではなく、養父であった、と。
恩讐の彼方に。
凛とした大人の女性の顔を見届け、
列車に座る金田一耕助のには
あみ棒と青い毛糸

故人を悼みながら、編む姿。
列車が揺れ、青い毛糸玉
コトンと、転がる。


ぬくもりのある余韻でした。