男の手の中で黄色いタンポポがくるくる回る。
花のように男の心も揺れている。
あいつは待っていてくれるのか、それとも・・・
「行こう、勇さん」 「行こう!」
若い男女に促され、赤い車は一路、夕張へ走り出した。
「幸福の黄色いハンカチ」山田洋次監督1977年
高倉健、倍賞千恵子、武田鉄矢、桃井かおり

鯉のぼりがキーワードになる物語。
これからの季節にぴったりの作品ですよね。
出所した男と、北海道旅行中の若い男と女が出会うロードムービー

【ネタバレ感想】
勇さんにとって、鯉のぼりは家族の象徴。
家族ができたら、あの竿に鯉を泳がせたい。
奥さんのお腹に赤ちゃんができた。
一升瓶をかかえて足取り軽く小走りに帰る。
しかし、その夢が指の間からすりぬけていく。
刑期をおえてはじめてビールを飲み干し、ラーメンをすする勇さん。
(高倉健さんの砂漠で水源をみつけたような名演技が光ります。)

そんな時、海辺でカップルの記念写真を頼まれて・・・。
赤いファミリア(車)に乗って、3人の珍道中がはじまる。

旅の最初と最後変わる若い男女
武田鉄矢さんと桃井かおりさんが穴ぼこだらけの魅力的なキャラクター
かわいくてね、いいんだ。本当に好きだなぁ。


若い2人は、男の人生を垣間見る。
途中から他人事じゃなくなってくる。


自分たちも人生を変えたい、変わりたい。
だけど、所詮、ムリなのかなぁ。
やりきれなくて涙が出てくる。

そんな時、勇さんの視界に
風になびく鯉のぼりが入ってきた。

逢いたい、もう一度。

若い2人は勇さんを夕張へ送り届けることにする。


もしも、勇さんの夢が叶ったら、
自分たちも希望が持てる気がするから。

車窓を、緑の野原が流れていく。
たくさんの黄色いタンポポがどんどん流れていく。

道路の黄色い中央分離帯のラインが、赤い車のボディにうつる。
それはまるで黄色い道標のよう。
だけど、だんだん、勇さんは不安になってくる。



待ってる、待ってない、待ってる、待ってない・・・


花占いみたいな気分に。
ついに「止めてくれ。」



「アイツみたいないい女、男がほっときゃしない。
今頃、誰かと暮らしているかもしれない。
俺なんか訪ねていったって・・・やめた方がいい。」



女の子が男の顔を覗き込む。

「勇さんが怖くて見れないんだったら
アタシが代わりにみてあげる。
だったら、いいでしょ?」


まるで受験生の息子に変わって、
合格発表を確認する母親のように

自信がなくて引き返そうとする男の背中を押す

ほんの少し前まで、
ドジ踏んで、ワーワー、ビービー泣いていた娘。
いつも男の口車に乗ってしまう自分が情けなくてみっともなくて、
一人で東京からぶらりと北海道まできたものの、
女の一人旅は「自殺目的」と敬遠され、宿泊を断れたりして。。。

そんな彼女がいつの間にか、しっかりした口調で諭すんです。
「もしも、奥さんが待っていたらどうするの?

彼女は手席から後部のシート
勇さんの隣に寄り添って座る。

こういうリアルな演出、脚本が本当に見事なんですねぇ。

再び、車は走りだす。

坂をのぼると、子供たちの歌声。
「背比べ」が聞こえてくる。
♫柱のキズはおととしの
5月5日の背比べ
ちまき食べ食べ兄さんが
はかってくれた背の丈♫

もう、このあたりから胸が熱くなってきて・・・

踏切をこえて、よく通ったスーパーの前を通り、坂をのぼっていく。
勇さんは、なつかしさと緊張の入り混じった目で風景を追う。


でも引っ越してたら、しかたないわよね」
女の子も不安になってね、ドキドキしながら言い訳のようにつぶやく。
こういうところ、ホント可愛らしくて、桃井さん最高です。


そして・・・

祈るような気持ちで、スクリーンを見守っていると



青空に、黄色い鯉のぼりたちが泳いでいる。


カメラはそっと遠くから、夫婦の姿を見守ります。


春の空気を胸いっぱい深呼吸したくなるようなラストシーン。

日本アカデミー賞をはじめ、数々の賞に輝いた名作です。
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