4月末、季節外れのが降る宵。
名家の座敷で、白無垢の花嫁がはにかみ微笑む。
花婿は固い表情で迎え、三々九度の盃をかわす。
「ともに白髪まで幾久しく添い遂げられますように」
祝詞の数時間後、新郎新婦は真っ赤に染まっていた。

「本陣殺人事件」
高林陽一監督
1988年
中尾彬、田村高廣
高沢順子、村松英子
常田富士男、東野英心
(画像お借りしました)

横溝正史原作の「本陣殺人事件」
昔に観たきりだったのでうろ覚えでしたが、
これほど独特の映像美だったとは。
市川崑監督の映像美
エンターティメント性が豊富で華麗、
高林陽一監督の耽美
ひっそりとかな官能ファンタジー
のついた写真集をめくるような映画です。
探偵と刑事が
ただタバコを吸ってるカット
一つとっても、絶妙な構図なんですよ。
驚きました(*´ω`*)


中尾彬さん演じる金田一耕助は、
ジーパンにシャツ姿という
ヒッピー風スタイルで話題になりましたね。
離れ屋密室殺人のトリックを暴く金田一耕助。
の積もった庭は足跡もなく、
犯人がどうやって侵入し逃走したのか

音楽は、大林宣彦監督です。



【感想】

完璧さを求める悲劇。

水車の飛沫が花火のように光り
琴糸がシュルルと音を立てる。

妖しく不吉なイメージカット。

新郎新婦がおびただしい血の海の中に。
がった三本の指から、
カメラは金屏風の血の筋に焦点をあわせる。


金田一耕助が調査を依頼され、
名家を訪れた。
そこで出会う一人の娘
「私、男の人と話すと
兄さんに叱られますの」
気ままな猫のように、捉えどころのない鈴子。

磯川警部は金田一の耳元でささやく。
「17歳なんだけど、少し発達がおくれてるんだ・・・」


私利私欲のない純粋さを持つ
知的障害の末娘。
「猫って死ぬと化けて出るの?
夜中に琴が鳴ったのよ。
離れ屋で。夢じゃないわ。」

探偵はだれもまともに相手にしない
少女の言葉じ、
猫の墓を掘り返す。
そこで見たものとは・・・

謎の三本指の男の正体は・・・?

推理小説とは違う、現実の物語でした。

私がこの映画で魅力を感じるのは
謎解きよりも動機人物像

完璧さ執着する人間の宿命が
ドラマティックです。

犯人のプライドは、
他人の口を差しはさむ余地がない。

「こうすれば良いじゃないか」
と他人は簡単に片づける。

でも、女性にはこうあってほしいという願望の強さは、
誰にもとめられない。


白無垢のわたぼうし姿の新婦克子。
雪のように穢れのない
完全な清潔さで嫁いでほしい。



それが叶わない絶望感から生まれた悲劇。



そして、罪を裁くのは誰でもない
自分ただひとり

他人に裁かれる屈辱を味わうくらいなら、
完璧な最期を遂げたい。


その企みに喜んで協力する人物がいた。
その人の想い、
名探偵へ挑戦状をつきつけるプライド

鈴子ちゃんの葬列
人形をたむける探偵の姿。

純粋というものは美しいけれど、
短く儚いものですねぇ。

金田一シリーズのなかで
異端のようなアート系作品です。