これは眼の映画です。
鏡をはずしても無駄よ。
ナイフやニスを塗った家具に
私の姿が映るんだから」
父が起こした自動車事故で顔を失った娘。
古城に幽閉される。
白いデスマスクからのぞく美しい瞳だけは
無事だった。
「いっそ見えなければいいのに…」
嘆く娘が見たものとは。

鳥肌が立つ究極のホラー美学!

 

 
顔のない眼
ジョルジュ・フランジュ監督
1960年
アリダ・バリ
エディット・スコブ
ピエール・ブラッスール

 
(画像お借りしました)
 
ゴシックホラー映画が大好きです。
以前「回転」の美しさにも虜になりました。
感想⇒こちら
 
シネリーブル梅田でゴーモン特集14作品
一挙上映がきまり、
娘は「幸福の設計」「裁かるるジャンヌ」を鑑賞。
私が鑑賞したのは
最終日の「顔のない眼」
有名なのに一度もみたことがなくて。
ようやく念願叶いました(//▽//)
 
映画館でひとりシネマ体験なんて、
娘を出産してすぐに見た
「マディソン郡の橋」以来24年ぶり。
夢のようです虹

サスペンス&スリラータッチで始まる物語。
ヒッチコック作品のようでもあり、まるで違う。
 
予想をこえたグロテスクな描写
耽美で詩的な映像、人間の残酷な
怖くて芸術的な世界にうっとり
酔いしれました。
整形外科医の助手生贄たち
それぞれの瞳が語る心理
 
 

 

  感想

顔を蘇らせようとすればするほど、

心が傷ついていく。
 
顔を損傷した若い娘クリスチアーヌ。
仮面をつけているのに表情豊か
能や文楽人形のような情感たっぷり。
むしろセリフを言わない方が
雄弁に心の内を語ります
立ち居振る舞いの美しさは、天使妖精か。
すっと伸びた長い首、うなじの美しさ、
腕や指の動きのしなやかさが、
バレエ「白鳥の湖」のオデット姫みたい。
優雅です。
東郷青児の描く女性や
マリーローランサンの絵に出てくる少女のよう。
クリスチアーヌが自室を出て、
レトロな階段を下りていく。
父が用意した秘密の手術室へ入っていく。
 
扉をあけると、薬で眠らされた若い女性が!
 
手枷足枷をといて、逃がしてあげるのかしら?
みている私は、一瞬期待しますが、、
 
彼女は、生贄の滑らかな肌をじっと見つめる。
 
そうっと両手で彼女の頬に触れる。
 
(このきめ細かい、美しい肌がほしい)
手の感触に、
眠っていた女の瞳がゆっくりと開いていく。
 
目覚めたばかりでボヤけた視界。
 
徐々にピントがあってくる。
 
そこには世にも怖ろしい悲しげな女性の顔が!
「ギャーーー!」
絶叫が響き渡る。

顔を奪われた女エドナは、包帯ぐるぐる巻きに。

顔を奪った女クリスチアーヌは
順調に回復したかにみえたのですが。。
 
5日がたち、10日がたつ。
 
術後の経過は、残酷な写真が語る。
 
皮膚の拒絶反応、徐々に変色し、
壊死していく頬。
 
瞳だけは変わらない。
カメラをまっすぐ見据える。
 
何度も自分の顔の死を
体験させられる娘。
「私はあの犬たちと同じ、実験台なのね」
難しい実験に挑戦する父。
「次こそ、今度こそは」
外科医としての情熱、父としての贖罪、
2つの想いが暴走していく。
 
手術マスクをした博士の額に汗が浮かぶ。
彼の瞳には、焦りとプレッシャー、野心が浮かぶ。
助手の瞳が、徐々に不安、
恐怖から軽蔑に変わってゆく。
屋敷から出ることを禁じられるクリスティーヌは孤独

婚約者の声がききたくて、
受話器のむこうの声に耳をすませる。
恋する瞳。乙女心が愛らしい。
「誰だ?何の用だ?」
無言電話にイラだつ婚約者。
ガチャリと電話を切る。
 
(私よ、本当は生きているのよ)
 
知らせたいけど、名乗れない。
死んだことにされているから。
お葬式もおわってしまったんだもの。
 
彼への愛しさと、哀しさが
クリスティーヌの瞳に浮かぶ。
 
ある日ついに、彼の名を呼んでしまう。
「ジャック・・・」
 
警察とジャックは
連続失踪事件の影に外科医を疑う。
金髪×青い眼の若い女性を使い、
おとり捜査を開始するが・・・
 
私が最も魅力を感じた場面
鳥かごから鳩を逃がすシーン。

 
次々真っ白いハトたちが羽ばたいていきます。
一羽が肩にとまり、
彼女の頬にお礼のキスをするような演出。
肖像画に描かれた鳩と聖女そのままに。
なぜか不思議な開放感あふれる結末に
酔いしれました。
 
残酷かつ美しいラストシーンは
ぜひあなたので。