観るべきタイミングで出会った映画。
ロバートレッドフォードの初監督作品、
そしてアカデミー賞4部門受賞。
私がこの作品を初めて観たのは2017年です。
PTSDとうつ病に苦しむ主人公。
うちの娘にそっくりで驚きの連続でした!
娘と同じ言葉が主人公の口から
出てくる!出てくる!
病気に対して無知な両親

いかに子供を孤独にさせるか
ということを教えてくれました。

「普通の人々」
ロバート・レッドフォード監督1980年

ティモシー・ハットン
ドナルド・サザーランド
メアリ・タイラー・ムーア
(画像はお借りしました)


【あらすじ】

社交的な母、温和な父、

明るくて陽気な長男、

真面目な次男。
ごく普通の家族が1つの事故によってほころびをきたす。

兄を失った弟は生き残った自分を責め続けていた。




【感想】
レッドフォード監督は厳しい。
 
そして、温かい。

心の傷は家族といえども、見えにくい。

一見、息子のトラウマに焦点をあてているような物語。

でも、実際は母親感情の喪失と再生が描かれています。


4人家族が、
突然3人になった。

それまで理想的だと思い込んでいた家族に溝が生まれる。


母親は、次男をみていると、長男を思い出す。
事故は誰のせいでもないし、誰も責められない。

でも、自慢の長男がいなくなった。
その現実にむきあえない


彼女は現実から逃れるように
ゴルフへ出かける。
パーティ行事で家をあける。
そんなリアルな日常の描写が素晴らしい。

母は亡くなった長男の部屋へ入る。


ガランとした空間。


ベッドに腰をおろし、

長男が水泳大会で獲得したトロフィーや額を眺める。


ふと気づくと次男が帰宅していた。


うろたえる母

呆然自失の自分を見られてしまい、気まずい。


息子は母を元気づけるように言葉を重ねる。

「僕、三角法で74点問ったよ!」   
「水泳も頑張って練習してるよ」



母の表情をみつめながら、

会話を続けようと言葉をさがす。

彼の必死な想い。


庭のベンチのシーンで見えてくる
母と子のすれ違い。
部屋の窓から息子を眺めているが、
庭に出てくる。

「寒いからセーターを持ってきてあげようか?」
優しく声をかけ、息子の隣に座り、

距離を縮めたくて近づく母。

しかし、コンラッドが兄の話をはじめたとたん
突然、母はすくっと立ち上がる。


「寒いから中に入るわね」

昔話を切り上げようとする母。

近づいた距離がまたひらく

「テーブルセッティングを手伝おうか?」

今度は息子が母に近寄る。

「ここはいいから、自分の部屋を片付けなさい」
自分の視界から

彼を追い出そうとする母。

本当は心を開いて本音で向き合いたいけれど、
うまくかみ合わない。
どうしたらいいか、もがく親子。

それほどまでに心の傷は深い



娘がうつ病を発症し感情を失ったとき、
どうやってを取り戻すか悩みました。

感情を取り戻すには順番があるらしく、

この映画はそれを再現しています。

まずは、りから。
怒りのフタをあけて、本音を取り出す。

悲しみの後に、癒し、感謝、喜び、

幸せの気持ちが遅れてやってくる。
一足飛びに

癒しや幸せの感情は

やってこない。


今作に出てくる主治医は、
まず感情のフタをあける。



医師はコンラッドに語気を強め


「入院していた病院では、皆が本音だったんだろ?

僕の診察室で『知らない』なんて言葉を使うな
はぐらかすな。嘘をつくな。」


彼をあおり、感情を爆発させる。
ついにコンラッドは、
自分のトラウマと向き合うことになる。

 

父親も医師を訪ねる。
息子の問題じゃない。

自分たちの問題


妻にもカウンセリングをすすめるが・・・

「嫌よ。私は変わりたくない。」

と、断固拒否。


しかし、旅行先で友人夫妻からかけられた一言に

彼女が押さえつづけてきた

感情のフタがついに開く。


ようやく人前で、

本音をさらすことができたのだ。


以前だったら「みっともない」と

取り繕っていた彼女が、変わりはじめる。


旅行からもどった彼女は、

息子から抱きしめられる

硬直して動けない。

抱きしめ返すことができない。

でも、彼女の心の中で何かが起きていた


息子と夫は確信していた。

時間はかかるだろう

だけど彼女はきっともどってくる。



積み上げられた人生の

価値観を変えるには時間が必要。

心の傷を癒すにも時間が要る。

映画と違って、2時間でハッピーエンドにはならない。

そんな普通の人々を描いた物語でした。


娘のレビューへつづきます。