男の指が器用にコインを転がす
硬貨の表と裏が入れ替わるように、彼は表と裏の顔を使い分ける。
表向きは、女性の美をとらえ貧困にあえぐ人々を撮影する写真家。
では、高級車を乗り回し、人をいたぶるためにシャッターを切る男。
 

 

 
欲望
ミケランジェロ・アントニオーニ監督
1966年
デビッド・ヘミングス
ヴァネッサ・レッドグレーヴ
サラ・マイルズ

 

主人公の顔、見覚えあるなぁ…と思ったら
「サスペリア2 紅の深淵」
主役デビッド・ヘミングス。
今作では写真家を演じています。
 
邦題が「欲望」なので
ドロドロした愛憎劇なのかなぁ?
勘違い(汗)
 
目を皿のようにして探してみても、
「愛」はおろか「憎」すらも
みつかりません。
それなのに不思議な面白さがありますね。
原題は「BLOW UP」
写真を引き伸ばす。
ささいなことを膨らませて言う。
爆発する。
 
主人公が
「多分、そうだろう。そうであってほしい」
そう念じながら目をこらせているうちに、
薄っすらとしていたモノが見えてくる。
見えたような気がする!

というお話。
 

 

  

 

 

あらすじ

女性モデルに飽きた写真家は、

公園でハトを追い回し撮影する。

 
ふと、逢引き中のカップルが目に留まる。
 
いいカモがみつかった。
 
瞳を輝かせながらシャッターを切りまくる。
 
現像してみると
そこに映っていたのは死体らしきもの。
 

 

  感想

俺はすごいものを撮った!

男女の逢引きを盗み撮り。
獲物をとるハンターのように
木から木へ身をひそめながら
シャッターを切る。
「フィルムを渡して!」
隠し撮りに気づいた女が
カメラマンの腕をつかみ、かみつく。
 
カメラマンは
いたぶるように女をあしらう。
 
「俺に撮られるなんて幸運だぜ。
誰もが俺に撮られたがるんだから。」
 
おちょくり、からかいながら、じらす。
フィルムを握っている間は
相手より上にいられる。
 
有利な立場をじっくり味わい、
相手が媚びたり、
ひれふす姿を眺める。
さんざん、バカにした挙句、
ほっぽりだすことが、快感なのだ。
しかし、彼には肝心なことがみえていない

 
カメラやフィルムがなければ、
誰も身体を投げ出したり、
言いなりにならないってことを。
現像した写真を引き伸ばし
虫眼鏡でのぞいてみると
垣根のところに何かが映りこんでいる。
死体みたいに見える。
いや、きっと死体だ。
誰がなんの目的で殺人を起こしたのか、
背景なんて興味がない。
 
現場にいた女の名前も別に知りたくない。
 
警察とかどうでもいい
ただ、自分が殺人を撮った
いうことに興奮する。
 
しかし、
そんな彼をからかうような展開がやってくる!
 
物語の前半
ポップでアートな撮影風景も強烈ですが、
後半
パントマイム的な場面が秀逸です。
チャップリンのような若者集団がテニスコートで
見えない球を打ちあう。
フェンス越しに静かに観戦するギャラリーたち。
存在しないボールのゆくえを目で追う人々。
カメラマンもいつしか目で追っていた。
「フェンスから出た球を拾ってきて!」
実体のないボールが芝生を転がっていく。
カメラが追っていく。
写真家は拾い上げ、
大きく腕を振りかぶってコートへ投げ返す。
 
試合が再開したのを見届け、ふっと目が笑う。
 
見えないものを、
さもあるかのようにふるまうだなんて。
 
いや、まてよ。
俺が撮った奇跡の一枚も・・・
はたして現実なのかどうか。
 
 
うなだれる彼。
 
そして、カメラマン自身も消えていく。
 
緑の芝生が広がるばかり。
 
私たちがみているものもかもしれない。
 
映画を理解しようと
右往左往する観客たちを、
 
おいてけぼりにするラストシーンが
たまらなく魅力的です。