天使ダミエルは

ベルリンの街の歴史と人々の営みを

何万年も空から見守ってきた。

サーカスの曲芸師マリオンとの出会いを通し

人間への憧れが強くなっていく。

 

 
ベルリン・天使の詩
ヴィム・ヴェンダース監督
1987年
ブルーノ・ガンツ
ピーター・フォーク

 

ちょうど娘がうつ病を発症し、
重い症状に苦しみながら学校に通っていた頃。
 
出口がみつからないときでも、
ふっと気持ちが軽くなる瞬間があるたびに
「今、天使が肩に手をおいたね!」
と、親子で笑いあった思い出の作品です。
 
先日、数年ぶりに再鑑賞した娘。
彼女の感想です。
(2018年10月の記事を加筆)
 

 

娘の感想

 

僕は今知っている。
どんなにすごい天使でも
知らないことを。

 
この映画にはたくさんの人の思いが登場します。
 
母親が亡くなった人、
恋人に別れを告げるのに悩んでいる男性、
頭を打ち付けた囚人、
 
コインランドリーでは主婦が家事育児に疲れ、
 
アパートではおじいちゃんが
孫の爆音ロックに頭を抱える。

せっかくサーカスの仕事をはじめたのに、
うまくいきそうなときに限って挫折する。
またウェイトレスに逆戻りか。
これからどうして生きていこう。
 
そうやって不安にまみれ、
人生を悲観する人々。
 
それでも天使は言う。
 
「僕もみんなみたいに
仕事から帰って猫に餌をやりたいんだよ」
 
印象的だったのは地下鉄の場面。
家族に見放された男性が
下を向いて落ち込んでいる。
 
「俺は負け犬だ。何で生きているんだ」
 
しかし
天使が彼の肩に手を置くと
 
「でも俺はまだ頑張れる。
自分に負けちゃだめだ」
 
前を向き、目には力が宿ります。
天使は安らぎと喜びをもたらす存在なのです。
 
悩み苦しみ喜びを
味わう人々をみているうちに
人間になりたい思いが膨らんでくる。
「永遠に」ではなく「今だ!」と言いたい。
「アーメン」ではなく、
「ああ」「おお」と感嘆の声を上げたい。

人間になった直後、
道行く人に話しかける場面では
彼のわくわくする感動が伝わってきます。
 
「これは何色なの?あれは?」
 
赤・黄色・オレンジ・青・藤色・・・
 
分かる色が増えるごとに新たな驚きと喜びに満ちていく。
「ついに僕も川の流れに飛び込むよ。
岸から眺めるんじゃなくてさ」
 
吐く息が白いのも、
砂に足跡がつくのも、
けがをして血が出るのも、
世界が鮮やかに見えるのも
色褪せて見えるのも
ぜんぶ、ぜんぶ生きている証

何も感じることの出来ない天使から
人間になれた喜びと好奇心
爆発!
 
彼の嬉しそうな顔を見ると幸せな気持ちになる。
「この世界のすべてを
知りたい!教えてくれ!」
 
そんな彼にピーターフォークが一言
「自分で見て味わう。
それも楽しいぞ!」

子どもは子どもだった頃
特に何も考えず、
写真を撮る時も自然な表情のまま』
 
サーカス小屋に集まった子どもたちは
 
ライオンやニワトリの格好をした団員が
様々な技を披露するたびに
 
ワッと歓声を上げ手を叩いて喜ぶ
 
たくさんの風船が宙を舞い
子どもたちが駆け寄り、
風船はバンっと音を立てて割れる。
 
「子どもの頃に見た
キラキラした世界が
なぜ見えなくなるのか」
 
大人になると
いつまでもサーカスに心躍らせる
少年少女ではいられない。
 
カメラを向けられれば
自然と作り笑顔を浮かべる大人になる。
 
 
思わず得意げになったり、
しょうもない嘘をついてしまう。
 
でも、それが
こどもの頃の続きを生きているって
ことなんだ。
 
それが私の今なんだ。