新入社員のころ、この仕事をよく恋愛にたとえて話をしていた。
「このお客さんに片思いしてる」とか、
「返事待ちやねん。ドキドキやわ」とか。
言葉面だけ見ると女子トークの最たるものなのに、中身は仕事の契約だというのが殺伐としている。
おもしろいというか、哀しいというか。
2年目以降、しばらくそんな会話もわすれるほど必死に働いていたけれど、最近またこの仕事が恋に似ていると実感しだした。
なんというか、もうその契約のことで頭がいっぱいになるのだ。
当然対象クライアントのことしか考えられない。
昼間などは”意中のカレ”が仕事中なのか休憩中なのか気になって仕方ないし、電話をかけていいタイミングなのか、どんなテンションで、どんな話し方で、どういうふうに話をもっていくべきか、悩みに悩んでもんもんとしている。
守秘義務があるので当たり前ではあるが、私は家へ帰るといっさい仕事のことをしゃべらない。
地元の駅に降り立った時点でシャットアウト。
そういうふうにしてるからいいようなものの、これで恋人や家の人に何でもしゃべらずにはいられない子だったら、彼氏は当然妬くだろう。家族には客とそういう関係になっているのかと疑われてしまうかもしれない。
それくらい、”カレ”のことを”想って”いる。
しまいにストレスでドキドキして眠れないのを勘違いして、自分でも、まさかあの客に恋してしまったのでは・・・と危ぶんだりするが、まあそれはない。
イエスだろうがノーだろうが、結論が出たその瞬間、次のクライアントが気になりだすからだ。
いつも二股三股どころか、十股くらいはかけているので、見込みの有力順に片思いすることになる。
これを恋というなら、営業職はみんな究極の恋愛体質だろう。
ちなみに、客と恋におちることは99.99パーセントない。
私の目には、クライアントは男性でも女性でもなく、”客”としてしか、うつらないからだ。
ほかにも理由はいろいろある。
お客様はものすごく敏感なのでそんなことになればすぐ営業先でうわさになるし、ただでさえアレコレいわれがちな仕事だ。仕事の場での身持ちは絶対かたくないといけない。
信用問題にかかわってくる。
彼氏がいなくても楽しいことはあるけれど、仕事がなくなったらごはんも食べられないのだ。
今ものすごく追いかけてる人がいて、あまりしつこくしても嫌われるし、かといってほっとくと何も進まないので押したり引いたり、駆け引きがたいへんだ。
けっこうくせのある人で、でもおもしろい人で、どうしても私が担当したいと文字通り”想って”いる。
ライバル社ともきそってるのでここは負けられないけれど、いったい何が”カレ”にとっていちばん響くことなのかがまだつかめない。
早くこの恋を成就させて、次に行きたい。