宿命の国立、瑞希が見た真実|ママたちはエルメスを隠せない 第899話
 

 

冬の陽光が降り注ぐ聖地・国立競技場。

準決勝第一試合、絶対王者・青和学院と、

瑞希の知略を吸収し急成長を

遂げた埼玉国際が激突した。

放送席に座る氷川瑞希は、

情を排し、一人の分析官として

過酷なまでに冷徹な「予見」を国立に響かせる。

ピッチ上の戦士たちが繰り広げる

高度な駆け引きと、

試合終了後に訪れた魂の交流。

カメラが捉えた瑞希の

「最高の笑顔」の奥にあるものとは。

 

 

前話はコチラ

 

 

 

 

 

聖地の静寂:開戦前のプロフェッショナリズム

冬の柔らかな陽光が、

国立競技場の瑞々しい芝生を照らし出している。 

準決勝、第一試合。 

放送席には、

独特の静寂を纏った氷川瑞希が座っていた。

その瞳は、かつてないほどに澄み渡り、

同時に獲物を狙う鷹のような鋭さを秘めている。

 

「いよいよ、ここまで来ました。

 氷川さん、やはりこのカードには

 特別な思いがあるかと思いますが、

 いかがですか?」

 

実況の重森が、

その真意を探るように話を振る。

瑞希は一瞬だけ、青和のチームを

視界の端に捉えた。

だが、彼女が口にしたのは、

血の通わない鉄のような言葉だった。

 

「思いは……もちろんあります。

 でも、純粋に一人のサッカーファンとして、

 この準決勝は最高に面白くなりそうですよ」

 

「どのあたりが、特に?」

 

「青和も埼玉国際も、

 今大会は必ず前半の早い段階で

 先取点を奪って勝ち上がってきました。

 両校とも攻守の切り替えのスピードが

 図抜けています。

 ですので、試合が落ち着くまでを

 どうコントロールするか、

 その『時間の使いかた』の差が

 勝負を分けると思います。

 一瞬も目が離せません」

 

試合の解説をする氷川瑞希

 

その淀みない分析に、

解説の元日本代表・坂出が

感嘆の声を漏らした。 

 

「いやー! 噂には聞いていましたが

 本当にすごいですね。

 これ、僕が喋らなくても

 いいんじゃないですか?」

 

 

 

盤上の罠:前半33分の「予言」

キックオフのホイッスルが鳴り響いた。

しかし、瑞希の予想に反して、

両チームの出足は重く、慎重だった。

 

「ん? 出方を両チーム完全に

 待っていますね。

 お互いに一歩も前に出ない。

 カウンター狙いでしょうけど、

 これでは……」

 

坂出が首を傾げる中、

瑞希の瞳はピッチを俯瞰し、

選手の微細な筋肉の動きまでを

追い続けていた。

重苦しい硬直状態が続いた

前半30分過ぎ、彼女の指先が

モニターの一点を指した。

 

「これ、埼玉国際が動きますよ。

 ボランチの有田君がアンカーの脇に落ちて、

 疑似的に3バックの形を作りました。

 サイドを高く上げてアイソレーションを

 狙っています。……でも、青和はそれを

 待っていたはずです。

 わざと食いつかせて、

 中央に広大なスペースを作らせる……

 これは、青和の罠です」

 

「青和、インターセプト!」

 

重森が絶叫する。瑞希の読み通り、

青和は中盤の「狩り場」で

ボールを奪い取った。

 

「右サイドに縦一本ですね。

 そこしか空いていません」 

 

「右サイドバックの竹田君に渡る! 

 埼玉、戻れない!」 

 

「完全に青和はこれがやりたかったんです。

 ……これ、決めますよ」

 

瑞希の予言が国立の空気に溶け込んだ直後、

鋭いクロスが中央へ。

飛び込んだのはキャプテンの雅人。

地を這うようなヘディングがネットを揺らした。

 

「青和! 先制! ついに試合が動きました!」

 

 

 

非情な解剖:残酷なまでの「予見」

ハーフタイム中、

坂出は苦笑いしながら瑞希を振り返った。 

 

「あの……僕、本当に喋らなくていい? 

 全部瑞希ちゃんが先に言っちゃうんだもん」

 

瑞希はモニターを指差しながら、

さらに深く、残酷なまでに

戦術の答え合わせを続ける。 

 

「先ほどのインターセプトですが、

 ここを見てください。

 埼玉国際も、青和が狙ってくることは

 準備していたんです。

 でも、青和はその準備さえも

 さらに読んでいた。

 プレッシングの開始位置をあえて

 1メートル下げることで、

 埼玉国際のパスコースを誘導し、

 完全に自由を奪いましたね。

 一枚上手でした」

 

後半開始。追い込まれた埼玉国際は、

リスクを承知でギアを上げた。

 

「埼玉国際は前に出ますね。

 ラインを高く設定して、

 前線からハイプレスをかけています」 

 

「これは、ラインを

 上げすぎではないですか……?」 

坂出が危惧する。

 

「そうですね。これは青和に流れが来ますよ。

 青和が最も得意とする、

 背後のスペースへのロングカウンターを

 自分たちで用意してしまっている。

 青和の狙い通りです」

 

瑞希の言葉は、まるで未来を

記したシナリオだった。

数分後、青和は相手のハイラインの裏を

一突きにし、2点目を叩き込んだ。

残酷なまでの「予見」。

瑞希が授けた知略を、

青和がさらに上回る知略で粉砕していく様を、

彼女は一切の私情を殺して実況し続けた。

 

 

 

最高の笑顔、その「真実」

2-0。青和学院が決勝へと駒を進めた。 

試合終了のホイッスルが鳴り響くと、

国立には万感の拍手が降り注いだ。

 

ピッチ上では、死闘を繰り広げた

選手たちが抱き合っている。

青和のキャプテン・雅人と、

埼玉国際のキャプテン・村田が固く握手を交わした。 

両チームの選手たちが整列し、

正面を向いたその時だった。

 

彼らの視線は、一斉に放送席の瑞希に向けられた。 

雅人たちは誇らしげに笑い、

敗れた村田たちは悔し涙を浮かべながらも、

どこか晴れやかな「泣き笑い」の表情で、

瑞希に向かって力強くガッツポーズを作った。

 

「見てたか、瑞希!」

「ありがとう、瑞希!」

 

 声は聞こえなくても、

彼らの瞳がそう叫んでいるのが分かった。

 

(……みんな……)

 

瑞希の喉の奥が、熱い塊に塞がれる。 

プロとしてドライに徹し、

心を鬼にして彼らを解剖してきた。

愛する者たちを、自分の手で

突き放すように分析してきた。

その重圧と、彼らの純粋なリスペクトが、

瑞希の感情を極限まで揺さぶる。

 

いま、カメラは放送席をアップで抜いている。 

泣いてはいけない。ここで崩れては、

死力を尽くした彼らに失礼だ。

私は、この大会の、彼らの、最高の

「応援マネージャー」でいなければならない。

 

瑞希は奥歯を噛み締め、

溢れそうになる熱いものを力技で押し戻した。 

そして、放送席のガラス越しに、

これ以上ないほどの輝かしい、

最高の笑顔を作った。

 

「お疲れ様! 最高の試合だったよ!」

 

瑞希は立ち上がり、何度も、何度も

彼らに向かって力一杯手を振った。 

レンズ越しに映るその表情は、

非の打ち所がないほど美しい、

完璧な笑顔だった。

 

試合後、放送席から手を振る氷川瑞希

 

しかし。 そのあまりに眩しすぎる、

今にも壊れてしまいそうなほどの

「最高の笑顔」は、見守る視聴者の目には、

まるで彼女が激しく号泣しているかのように、

切なく、そして熱く映り込んでいた。

 

 

ーつづくー

 

*このお話はフィクションを含みます。

 

 

リンツクーポンで半額!

 

 

 

 

 

 

 

エルメス、オラン風サンダルです。

 

 

エルメスバッグの底鋲保護に

 

【あとがき:第897話を振り返って】 

今回は、放送局の「大人たち」の

視点から瑞希の影響力を描きました。

制度を変えるというのは、

普通なら数年かかる大きな決断です。

それを元旦の緊急会議で

決着させようとするほどの衝撃を、

瑞希は全選手との絆で見せつけました。

「彼女以上の適任者がいない」という状況は、

マネージャーとしてこれ以上ない評価です。

さて、森下Pと太田さんの交渉、そして三回戦。

瑞希の「来年」を巡る物語も、見逃せません!

 

 

シルバーアクセのお手入れに