真実の朝、結び直された絆|ママたちはエルメスを隠せない 第916話
実母・氷川雅子の遺した手紙により、
実父が名優・神埼聖司であるという
衝撃の事実を知った瑞希。
デビュー作で親子を演じた運命の悪戯に
打ちのめされながらも、彼女は一人、
自室で己の心と向き合う。
育ての両親から注がれた十八年間の無償の愛、
そして実母の願い。
夜通し泣き明かした末に瑞希が辿り着いた、
本当の「家族」の定義とは。
夜明けと共に訪れた、再生と感謝の食卓を描く。
前話はコチラ
運命の悪戯、虚構の親子
手紙を読み進めるにつれ、
瑞希の目からは大粒の涙が溢れ、
止まることを知らなかった。
読み終えた瞬間、瑞希は隣にいた圭太に
すがるようにして、声を上げて泣きじゃくった。
その告白の重さに、
圭太の目からも涙がこぼれ落ちていた。
神埼聖司。 その名前は、あまりにも残酷で、
あまりにも美しい運命を瑞希に突きつけた。
瑞希のデビュー作であり、
彼女をトップスターへと押し上げたドラマ
『硝子の聖域』。初めての本読み、
緊張した制作発表、
過酷だった連日の撮影、
そして華やかな完成披露試写会。
そのすべての瞬間の、すぐ隣には常に彼がいた。
実の父親が、そこにいたのだ。
お互いにその事実を微塵も知らないまま、
神埼は瑞希の才能を愛で、
瑞希は神埼の背中を追った。
神埼は瑞希が水川雅子の姪であることすら、
二人に血縁の繋がりがあることさえも知らずに、
一人の新人女優として彼女に接していたのだ。
「オレも……運命だと思ったよ」
和也が、声を震わせながら言葉を絞り出した。
「瑞希が芸能界に入ると決めた時から……。
そして、ヒロイン不在で制作延期すら
囁かれていたあのドラマに、
瑞希が、よりによって神埼さんの
娘役として抜擢されるなんてな。
互いが何も知らないまま、
虚構の中で親子を演じていたなんて……」
孤独な夜の対話、辿り着いた答え
瑞希は、このやり場のない感情を
どこへぶつければいいのか分からなかった。
胸を締め付ける熱い塊が
喉元までせり上がってくる。
「ごめん……一人にして」
瑞希はそれだけを言い残し、
ふらつく足取りで自室へと戻った。
部屋に入り、鍵をかけると、
瑞希はベッドに倒れ込んで散々泣いた。
息が詰まりそうな、初めて味わうこの感情。
実母・雅子の覚悟、
育ての両親の愛、そして何も知らぬ父。
どれくらい泣き続けたのだろうか。
瑞希の目は腫れ上がり、
意識は朦朧としていたが、
それでも眠ることはできなかった。
暗い部屋の中で、瑞希は静かに考えていた。
(今まで、パパとママに育てられて、
少しでも嫌だと
思ったことがあったかな……?)
答えは、一度もなかった。
瑞希がそう思えることこそが、
実の母・雅子にとって何よりの救いであり、
望みだったはずだ。
自分をここまで慈しんでくれた両親。
その愛に応えること。
これまで通り、
いや、それ以上に幸せになること。
それこそが、雅子を含めた、
自分を愛してくれた
すべての人への恩返しになる。
神埼聖司のことは、心に封印しよう。
たとえこれから共演することがあっても、
それは役者同士のことに過ぎない。
新しい朝の光、家族の再定義
夜が白み始めた午前4時。
瑞希は眠れないまま、リビングへ降りた。
そこには、瑞希が部屋に戻った時と
同じ場所に、和也と恵子、
そして圭太までもが
そのままの姿で座っていた。
「……おはよう? かな」
瑞希の掠れた声に、
三人が弾かれたように顔を上げた。
「瑞希!」
恵子が立ち上がる。
「パパ、ママ、おはよう。圭太も……。
ごめんなさい、困らせちゃったよね」
和也が首を激しく横に振る。
瑞希は少し腫れた目で、
けれどいつものように、
凛とした微笑みを浮かべて二人を見つめた。
「私の両親は、パパとママだけだからね」
その一言に、和也と恵子は子供のように
声を上げて泣き崩れた。
それは悲しみの涙ではなく、
絆が再び結ばれた安堵の涙だった。
帰り際、玄関で圭太は瑞希を強く、
優しく抱きしめた。
言葉は必要なかった。
深く頷き合うだけで、
この夜を越えた二人の絆はもう、
誰にも壊せないものになったと分かった。
再生する食卓
リビングに戻ると、
瑞希は明るい声を上げた。
「ママー、
なんだかお腹空いちゃったよ!」
恵子は急いで涙を拭い、
鼻をすすりながら笑った。
「瑞希は……
本当に、しょうがないわね」
「私も手伝うよ。何作ろっかな!」
キッチンに向かう瑞希の背中を見て、
和也もようやく心から笑うことができた。
(姉さん……瑞希を産んでくれて、
本当にありがとう……)
和也は心の中で、
今は亡き姉・雅子に静かに語りかけた。
新しい朝の光が窓から差し込み、
再生した家族の食卓を温かく照らし始めていた。
ーつづくー
*このお話はフィクションを含みます。
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【あとがき:第916話を振り返って】
出生の秘密という大きな山を越え、
氷川家は本当の意味で
「一つの家族」になりました。
実の父親が、デビュー作で共演した
神埼聖司だったという事実は、
瑞希にとってあまりに衝撃的でしたが、
彼女はそれを「役者としての縁」として封印し、
育ての両親との絆を選びました。
この決断こそが、十八年間の愛の勝利ですね。
そして、一晩中付き添ってくれた圭太の存在。
彼の支えがなければ、
この朝は来なかったかもしれません。
新しい朝を迎え、瑞希はまた一歩、
大人への階段を上りました。
シルバーアクセのお手入れに



