思い出のスタバ、一瞬の素顔|ママたちはエルメスを隠せない 第909話
大学生となった氷川瑞希が、
思いがけず手にした休講時間。
変装をして一人で繰り出した彼女が
向かったのは、かつて恋人・圭太から
告白を受けた思い出のスターバックスだった。
誰にも気づかれない「普通の女の子」
としての時間を楽しむ瑞希。
しかし、マスクを外して
大好きなキャラメルマキアートを口にした瞬間、
隣の席の女性から声をかけられてしまう。
トップスターゆえの宿命と、
ほろ苦いひとときを描く。
前話はコチラ
コンビニの緊張、スタバの期待
レジで会計を済ませる際、
店員がチラッと瑞希の顔を見て、
一瞬だけ「ギョッ」としたように見えた。
(あ、気づかれたかな……)
一瞬身構え、心拍数が跳ね上がる。
しかし、店員はそれ以上騒ぎ立てることもなく、
淡々と、かつ丁寧にレシートを渡してくれた。
どうやら、あまりの「普通さ」に
確信が持てなかったらしい。
意外に平気なものだ、と瑞希は安堵した。
以前、真央たちと江の島に行った時は、
ガラ空きの電車内ですぐに気づかれたけれど、
あれは夏だったし、
マスクもしていなかったからだろう。
春の穏やかな平日の昼下がり、
パーカーにキャップという出立ちなら、
意外と街の風景に溶け込めるのかもしれない。
瑞希は少し自信をつけ、
コンビニから目と鼻の先にある
スターバックスへと足を向けた。
変わらぬ味と、甘酸っぱい記憶
「ベンティのキャラメルマキアート、
エキストラホットで。」
大好きなメニューを注文する。
最近、新しく変わったから、
ずっと試したかったのだ。
「これ、飲んでみたかったんだよね……」
心の中で小さく呟きながら、店内を見渡す。
運よくテーブルの席が空いていた。
平日の昼間でも混んでいることが多い店だが、
今日はどこまでも「ついていた」
瑞希は手元にあるスタバのカップをスマホで撮影し、
すかさず圭太に送信した。
『何やってんの⁉ あそこのスタバにいんの?』
すぐに飛んできた返信に、
瑞希は思わず吹き出しそうになる。
『うん。休校になってオフになったし……
久々にひとりーー!』
久しぶりに一人で外の空気を吸い、
開放的な気分に浸る。
ふと周囲を見渡すと、ここは四年前、
まだ何者でもなかった寒い冬の夜に、
圭太から告白された場所だった。
あの時は寒さなんて全く気にならなかった。
そんな甘酸っぱい記憶に浸りながら、
瑞希はゆっくりとマスクを外し、
温かいマキアートを一口、含んだ。
「誰も気づかない……意外と大丈夫かも」
隠せないオーラ、隣席の視線
しかし、その安堵は長くは続かなかった。
何気なく視線を動かすと、
隣に座っていた二十代半ばくらいの女性と、
目が合ってしまったのだ。
相手は、またしても「ギョッ」とした顔をしている。
女性はそれから、明らかにこちらを
意識しながらスマホを操作し始めた。
おそらく、
友人にでもメッセージを送ってるのか。
(バレた……?)
背筋を緊張が走る。
女性は深呼吸を一度すると、
周囲を気遣うように小声で話しかけてきた。
「……あの、失礼ですが、
氷川瑞希さん、ですか?」
静かな空間を壊さないよう、
瑞希もマスクを口元に当てながら小声で返す。
「……はい、そうですけど」
「うわー、やっぱり! いつも見てます!
ウワー、どうしよう、本物だ……!」
女性は今にも泣き出しそうな、
それでいて必死に興奮を抑えている様子だ。
逃れられない宿命と、ほろ苦い余韻
「オフ……ですか?」
「いえ、仕事の合間の隙間時間ですね」
さすがに自宅がすぐ近所だと
バレるわけにはいかず、
瑞希はとっさに
「仕事の顔」を作って嘘を混ぜる。
「あの、お写真……とかは、
ご迷惑ですよね……?」
「いいですよ。でも、他のお客様も
いらっしゃいますし、
SNSとかには上げないで
いただけると助かります」
「絶対上げませんから!
宝物にするだけですから!」
瑞希は伊達メガネをかけたまま、
最高の笑顔で自撮りのショットに応じた。
女性が何度も何度も頭を下げて
去っていくのを見送りながら、
瑞希はふう、と深く息を吐く。
(やっぱり、マスクを取るとバレちゃうか……)
自宅からわずか五分の場所、
思い出の詰まったお気に入りのカフェ。
けれど今の瑞希にとって、
一人の「普通の女の子」としていられるのは、
ほんの数分間が限界なのかもしれない。
そう実感しながら、再び口にしたマキアート。
その濃厚な甘さは、
今の彼女の立場を映し出すように、
どこか少しだけ、ほろ苦く感じられた。
ーつづくー
*このお話はフィクションを含みます。
リンツクーポンで半額!
エルメスオラン風サンダル
クーポンで2,525円!
エルメスバッグの底鋲保護に
【あとがき:第909話を振り返って】
今回は、瑞希の「一人歩き」の結末を描きました。
思い出のスタバという場所が、
彼女の幸せな過去と、
トップスターとしての現在を
対比させる舞台になっています。
店員さんやファンの女性の「ギョッ」
とする反応が、彼女の影響力の大きさを
リアルに物語っていますね。
一人でマキアートを飲むという普通のことが、
今の瑞希にとっては
これほどまでに難しく、贅沢なこと。
圭太とのLINEのやり取りに、
変わらぬ二人の絆を感じます。
シルバーアクセのお手入れに



