梅田ベイブルース#5 | BOOGIEなイーブニング!

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由だ。


極秘の任務をイーサンハントのように大騒ぎをして終えた俺は、やっと任務から解放された。あとは明朝の730分にもう一度ショッピングセンター内を撮影する。そっちが本番なのだ。


しかし、死ぬほど腹が減った。


今日は朝から何も食べてない。口にしたのは八重洲エクセルシオールの珈琲と新幹線で飲んだ静岡茶だけだ。今日と明日で2日間しか滞在できない。仮にこれから昼晩朝昼と食べても4食しか食えない。その4食の全てを大阪で食べたかった。


まず最初に口にするのは、難波の人気ラーメン店「友愛亭」だ。この出張が決まる遥か前、何も知らない俺は、ツイッター上で軽々しくこう呟いている。日付は531日だ。




俺が難波に行ったら

真っ先に友愛亭で

ラーメン食うね


君は言霊を信じるだろうか。30年間働いてきて、出張などありえない職種の俺が、このツイートをした30日後、突然社長から大阪出張を命じられる。


なので、大阪に来た最初の一食はこの友愛亭のラーメンを食わないといけないのだ。なんかそんな気がする。


とりあえず御堂筋線の梅田駅に戻る。あれだけ苦労した梅田駅も、帰りはあっさりとたどり着けた。ドラクエの中ボス倒した後ダンジョンの帰り道のようにあっさりとである。さて、梅田駅から友愛亭のあるなんば駅は4駅である。なんの苦労もなくなんば駅に着いた。


しかし、ここから再び

俺の方向音痴がスパークする。


目の前にアマゾン川のようにうねる広大な道路を見て、自分がどこから来て、そしてどこに行くのか、分からなくなってしまったのだ。


そんなエレクトリックサーカス状態の俺が進むのは、必ず反対方向に決まっている。だが、ここで立ち止まって、忍者ハットリくんのシンゾウのようにえんえんと泣いていても誰も助けてはくれないのだ。


勘を頼りに歩くと「難波中」という中学校の信号が見えてきた。いや、これは中学校ではなく難波中という地名なのかも。そして東横インが進行方向左舷前方にある。


さっそくグーグルマップで調べると、なるほど目的地に対してなんば駅から南方向は合っているが、西に大きくずれている。だが、まだ間に合う。ここから真東に向かって進めば、ちょうど友愛亭にたどり着く。と、左に視線を移すとセルフうどん屋「饂飩つるまる」が目に飛び込んできた。


こんな店、東京にもあるじゃないか!俺の胃袋には、全国展開するようなチェーン店の食い物なぞ、ビタイチ入る隙間など無いわ!


しかし、腹はぐーぐーと鳴っている。お腹と背中がジョインしそうな今の俺には、ミニ四駆程度の駆動時間しか残っていない。饂飩屋をスルーして、大きなショッピングモールを左に見ながら、俺は日本橋を目指した。

そう、どうやら友愛亭は、なんば駅から歩くより、日本橋駅から移動した方が大阪ビギナーには直線ルートで分かりやすいらしい。今知った。



駐車場だらけの道をしばらく歩くと、街は突然秋葉原っぽく変わっていた。そう、電気街日本橋に着いていた。なんとも魅力的な街なのだが、空腹と真夏の日差し、そしてたんたん竹馬カラー竹馬のように棒切れと化した足は、それを楽しむ余裕などなかった。細い裏通りを抜けて、やっと友愛亭にたどり着いた。


さて、船橋市民の俺が、なぜ大阪難波にあるこのラーメン屋さんを目指して歩いていたのか、その説明を忘れていたな。


それはTwitterである。


俺はTwitterで「#くそポエム」という、ポエムを毎日発表しているのだが、1年くらい前からそこにちょいちょい「いいね」をくれる、なんならコメントまでくれるラーメン屋さんがあったのだ。普通ラーメン屋さんなら営利目的でTwitterを使うので、俺のこの「くそポエム」は、逆効果だと思うのだが、バンバン「いいね」や「リツイート」をくれる。あれ、このラーメン屋さんちょっと普通のラーメン屋さんと違うなと思い、調べてみると関西では相当に有名なラーメン屋さんだった。お店もかなり変わっていて、強烈にボクシング推し。店じゅうボクシンググッズやらポスターだらけで、さらに世界チャンピオンが試合後に食べに来る凄い店だったのだ。


だが、ただのボクシング推しの店なら、俺もそこまで興味は湧かないよな。そう、本業のラーメンが凄い。たまにアップする新作のラーメンがめちゃめちゃ美味そうなのよ。しかも、関西のラーメン屋さんには珍しく醤油ラーメンに心血を注いでいる。スープ黒っ!


俺は自称ラーメン好きを名乗るヤツに、踏み絵として稲毛にある「つち家」を食べさせる。ここのラーメンのスープは、ほぼ生醤油。ここを上手いというか、不味いというかで、醤油ラーメンをどれだけ愛しているか、紛い者のラーメン好きかをチェックするのだ。以前自称ラーメン好きを語る女に食わせたら、一投目で口から出したヤツがいたな。話しはぽんせのファールボールなみに逸れた。

友愛亭のラーメンのビジュアルは、この「つち家」を彷彿とさせる、醤油好きか否かを試したくなる、黒い醤油スープであった。


ガラガラと引き戸を開ける。店主さんの元気のいい挨拶。それとは真逆のピリピリとした店内の雰囲気。ここのお客さんは、間違いなく真剣勝負をしにきている。17時過ぎという完全にラーメンオフタイムなのに結構お客さんがいる。俺はスタンダードメニューの一つである正油ラーメン「右ストレート」を注文した。


本当は限定メニューの「鶏とトリュフの芳醇ラーメン」も食してみたかったのだが、まずは友愛亭さん渾身の右ストレートを受けてみたかった。


動きに全く無駄のない惚れ惚れとするマスターの動きを視界の隅に入れながらぼーっと待っていると缶ビールがあったのでついつい追加オーダーしてしまった。


あとライスセットも♡


程なくして


着丼!



まずはチャーシューを箸で抑えつけながら、スープを一口。


イナズマー!



俺の髪の毛が逆立つ。なんて奥深いスープだろう。俺はファミコンソフト スターラスターのワープのように宇宙空間に放り投げられた。俺のラーメンデータベースの中から、スープの素材を解きほどき、過去食したどのラーメンに近いかを探ってゆく、その脳内のプレイ画面がスターラスターなのだ。



いや、食べたことのない味だった。

しかし、後を引く琥珀色のスープは見た目にそぐわずあっさりしてキレがいい。麺も中細でコシがあり、このスープを良く拾い上げてくれる。


気がつけばあっという間に麺を平らげていた。そこでライスセットを残ったスープにぶっ込むのだ。スパイスとガーリックが効いてる。茶漬けに入ってるようなあられの食感もいい。一度に二度美味しい。このイケメンのマスターは天才なのかと思う。



空きっ腹にビールを流し込んだので、結果したたかに酔った。ラーメンライスを完食して、お勘定を済ませたあと、俺は徐ろにアレをカメラバッグから取り出した。え?さっき話しただろ、アレだよ「くそポエム」だよ。




俺はくそポエムの詩集を密かに出版していたのだ。そしてそれを友愛亭のマスターにプレゼントしたのである。


俺:これ、受け取ってください。


マスター:ちょ、待ってください!待ってください!


突然のくそポエマーの訪問にマスターは驚いてくださった。どうも入店した時からハッチさんに似てると思われていたらしいが、俺のコンタクトレンズ姿と船橋の俺が大阪にいる訳がないと思って「んなワケ無い」と判断していらしたのだ。



お店に貼ってあるボクシングチャンピオンと同じポーズで写メを撮ってもらい、真摯にラーメンと向き合うお客さんもいるので、長居は無用。俺は颯爽と店を出た。店を出て大通りに出たところで、店の写真を撮るのを忘れたのでまた戻った。


マスターに見られるとバツが悪いので、遠くからこっそりと撮った。



これで俺の大阪への用事はほとんど終わった。空腹に流し込んだアサヒスーパードライがぐわんぐわんと効いてきた。軽い熱中症にかかったのかもしれない。俺は近くの喫茶店に入り、隣の席の地下アイドルとファンのピロートークを子守唄に聞きながら、深い眠りについてしまった。


つづく