Larryzのライブ前夜、ベースをしこしこと練習している俺に突然のメールが送られてきた。
明日って時間ある?
わざわざベース練習の手を止めてスマホの画面を見たらスパムメールだった。
俺はちーと頭にきたので、こいつに返信してやることにした。
俺)
うん
高円寺クラブライナーで
待ってる
明日は高円寺でライブなのだ。来るなら来て見やがれこのスパム野郎。ゴリゴリのパンクオヤジたちが待ってるぜ。すると、即座に返信がきた。こいつは釣れると思われたのかもしれない。
スパム)
すみませんでした。
知人と間違えてメールを送ってしまったみたいです。
男性の方でしたか?
ここでこのスパムは俺の性別を特定したいようなので、当然俺は話しをはぐらかした。
俺)
オカマです
スパム)
携帯が故障して、手打ちでアドレスを入力したら間違えて送信されちゃったみたいです。すみませんでした。
もしかして女性の方でしたか?
俺のアンサーを聞いていないのか、それとも俺を女にしたいのか、とにかくこちら側の情報は一切こいつに教えたくないので、同じ回答をした。
俺)
違いますオカマです
スパム)
俺、かずきって言います。
これも何かのご縁ですし、少しお話しませんか☆?
俺はこいつの機械的な返しに揺さぶりをかけるべく突拍子もないリアクションをした。
俺)
あれ?
あの、かずき君?
かずき)
あの?
俺の事はかずきって呼んで下さい(^^)
次から何さんってお呼びしたら良いですか☆?
もし言いたくなかったら、ヒミツさんって呼ばせてもらいますね(^_^)
作戦は少しだけ効果があった。「あの」にフックした。しかし、こいつは何百通と知らないヤツにスパムメールを送りつけているのだろう。便宜上、俺をヒミツさんと勝手に命名してきた。多分、こいつからヒミツさんと呼ばれているヤツが何百人といるはずだ。俺はこいつに女に戻ってもらってからメールで遊びたいので、もうワンチャンス与えた。
俺)
えー、野郎相手に呼び捨てしたくねーな、かずきって名前の女の子なら別だけど。
かずき)
ヒミツさんって呼びますね(^_^)
俺は東京の品川区に住んでます。ヒミツさんはどちらにお住まいですか?
俺)
えー女性じゃないならいいや。
じゃあね。
目黒区だけど。
かずき)
そうなんですね☆
俺は広告関係の仕事してます☆
ヒミツさんはどんなお仕事をされているんですか?
夕方で忙しい時間でしたか?
気になってメールしました☆
遅い時間でも良いので連絡もらえたら嬉しいです(^^)
待っていますね☆
かずき
しばらくメールをスルーして、女にならないか待っていたが、こいつの男設定が女に変換しないことを悟り、俺が女役になる決意をした。男と男でメールしても何も面白くないからだ。
俺)
わたしも広告関係です♡
カズキングは何系の広告ですか?
かずき)
色々ですね(^-^)
気になったのでお聞きしますね☆
俺28歳なんですけど、ヒミツさんは何歳の方でしたか?
おはよう☆
昨日のメールって届いてたかな?
今日の東京は猛暑だ(^_^;)
梅雨時期の晴れ間ってなんか嬉しくなるよね(笑)
時間あるとき朝のメールの返事ください!
おはよう☆
そういえば昨日、仕事でミスをして親父に電話で怒られちゃった(;^_^A
まだ言ってなかったと思うけど、親父の会社で兄貴と俺は働いているんだよね。
それでヒミツさんにちょっと相談があるんだけど、聞いてくれるかな?
俺)
もちろんですよ。
どうぞ。
かずき)
相談っていうのは、俺、友達が少ないんだ…
それには理由があって、自分が企業経営者の子供って立場だからまわりの人が気を使ってプライベートの付き合いをしてくれないんだ・・・(^_^;)
だからヒミツさんには俺を経営者の子供だとか関係なく接して欲しいんだよね。
このお願い聞いてくれるかな?
ここで、俺はこの何日間も一方的にスパムメールを送りつけてくるかずきに苛立ちを覚えた。どうしても説教してやりたくなったのだ。なので俺も一旦男設定に戻る。
俺)
まず君が大きく勘違いしているのは、僕が君を「経営者の子供」だということを知らないのに敢えて名乗っていること。
そのどうでもいい情報を知らない人間にわざわざひけらかしてまで伝えておいて、経営者の子供だけど関係なく付き合って欲しいなんて、それは横柄だし、そんなんじゃ友達も出来なくて当然だよね。
もう一度自分を見つめなおしてごらん、君はこのままだと空っぽの人生を歩むことになるよ。
かずき)
これから仲良くなってから言うより今知っておいてもらったほうがいいと思って。俺、嘘がきらいなんだ。
変なお願いしてごめんね。
でも職場では従業員から腫れ物みたいな扱いをされて少しナーバスになってるんだよね。
兄貴は会社でも重要なポジションだし、俺は補佐的な事はしてるけど、ドジばっかりで仕事に自信がないんだよね…(T_T)
愚痴ぽくなってしまってごめんね、なんか楽しい話しよう!
俺には将来の夢があるんだけど俺の夢の話きいてもらっても良い(^^)?
俺)
どうぞどうぞ
かずき)
俺ね、兄貴がこれから会社を継いだ後に立派な補佐として世界に誇れる大企業に成長させたいって思ってるんだ!
なんかバカみたいな漠然とした夢だけど真剣なんだ(^^)
ヒミツさんは何か些細な事でも目標ってあったりする?
こいつは俺に広告代理店に勤めているって設定を送った事を忘れている。通常、世界に誇れる広告代理業などこの世に存在しない。
俺)
え?
広告代理店業ですよね。
かずき)
うん、そうだよ。
今日は遅いからまた明日メールするね。
おやすみなさい。
逃げやがった。
おそらく布団の中でじっくり対策を考えて明日またメールしてくるだろう。